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第四部 主と共鳴せし道 第一章 闇のオーブを求め

第五百四十八話 地獄の審判

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「ゲヒャヒャヒャーーー! このモンスター共、美味い、美味い! 美味いぜぇーーー!」
「下劣な……ダンタリオンと組むのも不服だ。出でよ、雷鳥シュヴィーグル。我が敵を討て」

 ダンタリオンは複数の顔で獲物を食い漁り咀嚼している。
 デカラビアは無数の雷鳥を招来して、モンスター集団を襲わせた。上空に未だ残るモンスターも
次々墜落していく。
 そしてベリアル……彼はゆっくりと上空へ舞い上がり、黄色い竜が滑空している場所へと
向かっていく。

「ククク……ソロモンの復活は俺たちの復活そのもの。どこのどいつか知らないが……随分と
楽しませてくれる。それにこいつが欲しているのは……アッハッハッハ。いいだろう。そいつも
今は野放しにしておいてやるか。その方が楽しそうだ。だが、目障りな竜は取り込むぞ」

  対峙する竜そして、その背中に乗る一人の女性。その女性は薄笑いを浮かべている
ようであり、また、ベリアルを見下しているかのようだった。

「ふん。阻害魔術か。実体は無いようだな。残念だったなぁ主。お前に体を戻す前に、もっと楽しい状況へ
引きずり込んでやろうと思ったのに……まぁいい。ヘルズオーソリティ! ……ちっ。ダンタリオン
のやつ、また余計なことを。後でしめるか」

 ベリアルがつぶやくと、右手に黒色の本が現れる。ページが次々とめくれるたびに、上空へ複雑な
文字列が浮かび上がる。その文字はそれぞれが奇声を発しながら言葉となっていった。

 【 ᚴᚢᚾᛋᛏᚢᚴᚢᛚᛚ ᛚᛁᚴᛖ ᚹᚨᚷᛖ ᚢᚾᛚᛁᛏ ᚠᛁᚾᛘᛁᚴᚦᛖ ᛏᛖᚲᛁᛋᛚ ᚾᛟᛘᛁᚾᛋᛚᚨ ᚠᛁᚾᛘᛁᚴᚦᛖ ᚢᚾᚷᛁᛋᛚᛁᛋ ᚠᚨᚢᚾᛁᚴᛁ ᚦᚨᚱᚴᛋᛚ】
 「クンストゥクウル リケ ワゲ ウンリト フィンミクステ テキスル ノミンスラ フィンミクステ ウングイス ファウニキ タァクスル」

【エゴイストテュポーン、招来】
 文字の奇声が終わると同時に、目の前の竜集団全てを見下ろす程の大きな裂け口を持つ怪物が、すべての竜を
飲み干した。
 その場には既に、女性の姿は無くなっている。

「ふうん。つまらない能力の竜だな。こいつにはお似合いか。クックック。
魔術行使で死を巻き散らす竜か。それにしても中の女と獣。随分と抵抗してやがるな。
意地でも招来に応じないつもりだな。
結構な忠誠心だ。それに奥のあいつらも、このベリアルを前に逃げもしないとは。勇敢な事だ」

 地上へゆっくり降りると、ダンタリオンをぐしゃりと潰す。

「ゲヒャ!? お、お許しを」
「貴様、背後から攻撃すれば殺れるとでも思ったのか?」
「めめ、滅相もない。何もしちゃいねえ」
「暗死の種だろう、これは」
「……なんで気づくんだよ。まじで狂ってるぜ」
「復活して間もないうちに殺しておこうと思ったのか? ばかめ。貴様らが狩った者も全て取り込むぞ。
こいつを生かすためには必要なのでな」
「はぁ? 冗談じゃねえ。何でせっかく捕食したやつを出さなきゃ……」

 またグシャリと潰されるダンタリオン。顔は恐怖に歪んでいる。

「お前は何を言っている。ソロモンの誓いを忘れたのか?」
「ひぃ!? 覚えてる、覚えてるからよぉ。消すのだけはやめてくれ。取り込まれる、取り込まれてやるから!」
「デカラビアもいいな」
「一つ質問してよいか? 貴様は本当にあのベリアルなんだろうな」
「さぁな。よりによって先に神へ縛り付けられた。気にいらねえ神じゃないが、子飼いにされるつもりは
ねえな。それに……何よりこいつ自身が面白ぇ。今の貴様らにも苦戦する程弱いが、将来的には……
自分自身と戦わせ会うってのも面白い」
「一体何を言っているかさっぱりだ。やはりベリアルか……智が深すぎて意味不明だ。
しかし逆らえばどうせ消滅させるつもりだろう。貴様が言うその者が賢き者である事に賭けよう」
「賢い? このベリアルに言わせればちっとも賢くねえな。言うことを聞かないこのダンタリオンのように
力でねじ伏せればいいものを。いつもいつも回りくどい事ばかりしやがって……」
「その結果貴様は魂魄を封印されたのを忘れたのか?」
「覚えてるぜ。だから色々寛大な処置をしてるだろ。だがよ……何もない感覚が消える事がねぇ。
全てを取り込みたくなる。それがベリアルだ」
「けっ。覚えてろ。貴様が眠ってる間に強くなって殺してやるからよ」
「殺す? お前が俺をか? ククク……ハッハッハッハッハ! 今のは傑作だぞ、ダンタリオン。
それじゃあな」


 再び黒い本を出すと、その中にデカラビアとダンタリオンはしまわれていく。
 戦場に児玉する高笑いとともに。

 そしてそのままどさりと崩れ落ちたその辺りには、先ほどとの様子とはまるで違う、元の姿のシーだけが
横たわっていた。
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