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第四部 主と共鳴せし道 第一章 闇のオーブを求め

間話 魔の原理と心理

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「今日は魔についての講義を行うぞ、ルンルン」
「老師、始める前からやる気を削ぐのはおやめください……」
「何を言っとる。親しき仲だからこその呼び名じゃろう?」
「もういいです。始めてください」
「うむ。まずはのう。魔とはそもそもなんじゃと思う?」
「魔……俺のいた世界では悪しきもの、悪さをするものなどかな。悪魔とか」
「魔は心に結び付いた神の力。魔術とは契約により成立し呪文により放出される形」
「心に結び付く、神の力? 心……魔心? 魔がさして……なんて言葉は聞いたことあるが」
「神魔解放。これすなわち心に結び付いた神の力を解放し、あらゆる感覚を引き上げる。
それが故の神魔解放じゃ。これはわかるな?」
「ええ。使えるようになって日は浅いですが、感覚なら。つまり魔は、神の力を全身で行使するってことですか?」
「それでは神魔解放と変わらぬじゃろう? 先ほども言ったように、魔は心に結び付く神の力じゃ。
お主、一度獣落ちしたと聞いたが、あれ以来獣化は自由にできるじゃろ?」
「っ! そういえばあの時……確かに。俺はジェネストに負けて、自分の不甲斐なさを、心から呪った。
そして……」
「魔族への覚醒、その一歩を進んだんじゃ。人の心を持つお主は、そのきっかけを経て、自分を
魔族として認めたんじゃな。じゃがまだ、人であろうとする心が強いのじゃろう」
「それは、そうだ。俺は人間。今でも心まで魔族になりたいとは、思わない」
「それはお主が持つ前世での記憶が、魔族に対する良くない感情を抱いているからなんじゃろう」
「……それは、そうです。先入観なのか、それは」
「堕天使……という言葉は知っているかのう」
「ええ。前世でも神話で語り継がれていましたから」
「ではなぜ天使が堕天使となったか、聞いたことはあるかのう?」
「詳しくは……確か神に不服で……といった理由を持っていたという逸話は聞いたことがあります」
「不服……か。そんな優しい言葉であればまだよかったのかもしれんのう。
より力を、美を、支配を。堕天使であったそれは、もとは人間の魂を持つものじゃった。
それが魔の始祖となったのじゃ」
「つまり……人の魂から魔は生まれた……のか」
「その通りじゃ。魔を嫌うのは同族を嫌うに同じ事。魔は扱うのが難しい力。じゃがな。
わしはこうも思うんじゃ。人の力は弱い。時には神に理不尽を突き付けられる。始祖はその打開策を
講じたかったのではないか? とな。そして神々もまた、人の力の強さを受け入れた。
じゃからこそ神と魔と人と、共存する世界なのかもしれぬ。このゲンドールという地はな」

 老師の言わんとしている事はもっともだ。今まで出会った魔族、悪いものもいるがいい者もいる。
 メルザも幻魔。俺は妖魔。リルもサラもベルドやベルディアもカノンも魔族だ。
 
「魔を恐れるな。しかし魔を覗き過ぎるな。お主はもっと強くなる。わし以上に。ごほっ、ごほっ」
「老師! 大丈夫ですか!? しっかりしてください!」
「わしは、もう……」
「老師!?」
「茶が飲みたいので取ってきたいんじゃ。喋りすぎて喉がカラカラじゃ」
「……老師! あなたという人は本当にもう!」
「わし、人じゃなくて魔王じゃからな?」
「そういうことじゃなくてですね! ……はぁ。でもお陰でわかった気がします。
魔を覗き過ぎるとどうなるのでしょうか?」
「いや、じゃからわしは茶を……まぁよい。ここまでは話しておくかのう。
お主に眠る魔は強大じゃ。妖魔の始祖たるものの血だけではない。魂魄に影響を強く与えたもののせいじゃろう。そやつがお主をどうしようとしていたのかはわからぬが……
危険な力だと認識しておくのじゃな。わしが近くにいれば止められるじゃろうが……」
「魂魄を……タルタロスか。未だ会った事がない者ですが、奈落に住まう者。どのような力を持っているのでしょう」
「さぁのう。わし、まだ地底を覗きに行っておらんしのう。行けなくなっちゃったしのう……」
「地上の魔王と地底の四皇か……対峙したら凄い事になりそうですね」
「言ったはずじゃ。わしは既に隠居の身。余生をゆっくり暮らしたいだけじゃよ。弟子の成長はそばで見守りたいんじゃがな」
「ええ。近くでいつまでも見ていてください。ルーンの町なら老師もきっと、長生きできますから」
「そうかのう。わし、茶すら飲みにいけないんじゃが……」
「失礼しました! 直ぐ行きましょう!」

 老師から話を聞いた俺は、自分に眠る魔の力に一抹の不安を覚えながらも、これからの平穏な暮らしを
手にするためにも、力のコントロールを覚える事を決意したのだった。
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