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第四部 主と共鳴せし道 第一章 闇のオーブを求め

第五百四十一話 浮かび上がる人物像

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 それからしばらく、レッツェルへ薬を飲ませる手筈と、慌てて後追いしてきた
ビーやメナスを含め、掃除をした。
 やはりというか男爵自ら掃除を行い、他の部下たちは部屋などにも近づかせなかった。

 いくら特効薬といえど、重症化した者にそこまで早く効果は表れないだろう。
 だがこの病がエビルイントシケートなら、効果は十分ある。
 しかし……酷く衰弱している。後遺症などが出なければいいが……。

「一通り終えたっしょ。着替えも済ませたし。温泉にでも入れてあげたいっしょ」
「助かったよ、ベニー。それに二人も。男爵も自ら掃除とは、さすがの綺麗好きですね」
「私自身が綺麗好きというより、来客者が美しいものを見て和んでくれたらと思って
やっているのだよ。それよりも疲れただろう。来客、それも貴族用の寝室を使って欲しい。
護衛部屋などではなく、改めて客人として迎え入れたいのだ」
「ありがとうございます。そうですね、ここでお断りするとかえって気を使わせて
しまいますから、お受けいたします。レッジは妹と一緒にいてあげて欲しい」
「勿論、そのつもりだ。しかし、一つ聞いていいか? 何で妹が、そのエビル
イントシケートって病だとわかったんだ?」
「今、その病が国全体に広まりつつある。俺たちはそれをこの国の王に
伝えないといけない。だがその術を持ち合わせていないんだ。
肝心の診断をした俺の仲間の医者が、コーネリウス殿共々連れて行かれてしまって」
「先ほど我が旧知の友であり英雄、オズワル伯爵へ使いの馬車を走らせた。
予定より早く向かうと。その後伯爵領主会議を開催してもらう。
そこでどうにか侯爵まで話を通せればよいが……問題はこちら側の侯爵が
問題なのだ」

 それはそうだろう。何せ王女が捕縛されているかもしれない場所が三十領区。
 俺たちの目標地点だ。どうにかしてそこまで辿りつかないといけない。

「侯爵に関してはお話を聞いたことがないのです。出来れば人物像などをお話
頂けると」
「ふむ……そうだね。国民に直接侯爵の目が触れる事はまずない。これは我々の
問題でもあるが、聞いておいた方がいいかもしれない。
あのお方……名前で呼ばれるのが好きではないので上名で呼ぶが、ラーナ殿は
遊び好きでね。ほとほと困っているのだ」
「遊び好き……侯爵がですか?」
「そうだ。国において身分差は絶対的なものだ。ゆえにオズワル伯爵といえど
なかなかお目通りが叶わない。もう一年はお会いしていないだろう」
「三十領区へ向かう事も難しいのですか?」
「いや、オズワル伯爵の許可が下りれば三十領区には自由に入れる。
行ってみたいのかね? あの地はあまり私は好きではないのだが」
「そうですね。三十領区から見える王城の景色はいいと聞いたことがありまして。
一度拝見してみたいのです」
「そういう事ならオズワル伯爵に頼んでおこう。我々が伯爵会議を行っている最中は
暇だろう。その間に見てくるといい」
「ありがとうございます。会議が終わるまでには戻ります」
「わかった」
「ところで、伯爵会議はどのように行うのでしょう? 各領区は繋がっておりませんよね?」
「伯爵領区にはそれぞれ小さい城がある。そちらにはそれぞれ映像を映し出す魔道具があるのだ。
つい先日、ルイ・アルドハル・メイズオルガ様が上空に陛下を映しだしたのを覚えているかな? 
あれだよ」
「そうだったのですね……つまり侯爵もそちらへ参加を?」
「いいや。伯爵以下の者だけだよ。侯爵はそもそもお忙しい身。
国の重事に動いているのだろう」
「それもそうですね。男爵、色々ありがとうございました」

 これは随分と有意義な話が聞けた。ブシアノフ男爵は十分信用できるだろうが、まだ
踏み込めるような状況ではない。
 なにせこちら側を管理しているのはラーナ侯爵その人だろう。
 男爵に礼を告げ、与えられた部屋へと向かい、この先の事を考えた。 


 そして翌朝――――。
 早くに目が覚め部屋を出ると、侍女にお辞儀をされ、案内される。

 長テーブルには料理が並んでおり、美しく彩られている。
 これだけでも相当贅沢だ。
 席にはブシアノフ男爵、そして顔を隠したままのメナスだけ。

「お早う。君もなかなかに早いね。こちらの無口な方は、会話こそ
出来ないものの、お辞儀などの礼儀作法は完璧だね」
「お早うございます、男爵。すみません、他の者はまだ寝ているようで」
「気にするな。朝食が終わったら出発しよう。先ほど早馬で手紙が届いた。
最近上空から飛来する魔物が増えている、十分気を付けてくるようにと。
それから、エビルイントシケートの事にも言及したが、やはり二十領区でも
発生しているようだ……」
「悠長にしている時間はあまりないようですね」
「しかし、食事に睡眠は必要不可欠だ。慌てず、かつ急いで向かおう」

 その後起きてきた全員で食事を済ませ、伯爵領区へ出発する。
 十二領区は途中勾配があり、二十領区は見晴らしのいい丘の上付近となるらしい。
 英雄オズワルは高所より他国を監視し、防衛にあたることがおおいようだ。
 
 道中はブシアノフ男爵警護用に、全部で七名の従者がつく。
 さらにルートビーのメンバー合わせて十三名の集団となったのだった。
 





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