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第四部 主と共鳴せし道 第一章 闇のオーブを求め

第五百三十九話 ブシアノフ男爵と対談

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 全員が広間で待っていると、ホールなどでたまに見受けられるヘリカル階段から
ゆっくりと降りてくる初老の男性がいた。
 髭をたくわえ、威厳のある顔つきだが、少し物悲しい表情にも見受けられる。

「少々お待たせしてしまったかな。ニズワル・トルア・ブシアノフだ。
君たちが試験通過者で間違いないかな」
「お初にお目にかかります。ブシアノフ男爵。私はツイン・シー。
彼は……ミズガルド・ビー。そして妻のベニーです。」
「ふむ。聞いていた通り実に礼儀正しい好青年だ。君たち三人が戦闘要員。
他二名が補助要員で相違ないかな?」
「はい。問題ありません」
「よろしい。歓迎しよう。お恥ずかしい話だが、不測の事態により護衛を任せられる人数が
不足していてね。あまり良くない噂が横行している。普段ならば護衛を増やす必要は
ないのだが……少々厄介な事態だ」
「一体どうされたのですか? こちらの護衛、私には不足しているように見受けられませんが」
「どうにも体調を崩すものが多い。厳しく管理をしているはずなのだが……」
「医者はこちらにはいないのですか?」
「いや、いるのだがよくわからんのだ。大事を取って休ませているが……
君たちの試験を請け負った者たちは元気な者ばかりだよ」
「そうですか……」

 皆と目を合わせると、恐らく俺と同じ考えのようだ。
 ここには既に、エビルイントシケートが流行しているかもしれない。

「……その病、心当たりがあるかもしれません」
「本当か!? 一体どういう……いや、こんな大事な話を無料で教えるはずもないか」
「いえ、お金は必要ありません。ただ問題がありまして……その診断を下せる医者が
我々の仲間にいたのですが、現在コーネリウス殿と共に連れ去られてしまったのです」
「なんだと!? 伯爵の息子相手では、私にはどうすることも出来ん……くっ。やはり
早々に二十領区……オズワル伯爵の許へ急がねば」
「一つだけご忠告を。このエビルイントシケートは魔力次第で死に至る病のようです。
高い魔力を持っている方は魔力行使をしないように」
「一応特効薬は俺が少し預かってる。だが数はそこまで多くない。半分ずつ持たせたからな」
「特効薬まであるのか! ならば直ぐ、一つもらえないか! 酷い症状のものがいるのだ」
「いえ、男爵がまずお飲みになられるべきでは……」
「私など大した症状ではない! 命に関わるかもしれんのだ。頼む! 礼なら払う!」
「先ほども申しましたが、お金は要りません。医者ではないですが、少し症状を見せて頂いても?」
「ああ、勿論だ。まさか雇った護衛に助けられるかもしれんとは……わからんものだな。シー。
君だけでいい。他のものは食事をとり休んでいてくれ。シー、君も終わったら直ぐに
休むように。出発は早々にで悪いのだが、明日にでも向かおう」
「わかりました。では案内を」

 ブシアノフ男爵に連れられ、一度外へ出る。
 すると先ほど演習場の前に立っていた目つきの鋭い男、レッジが軍礼をした。

「男爵、どうしたんですか?」
「喜べ、レッジ。もしかしたら治療できるかもしれん」
「……まさか、こいつにですか? 先ほども怪しい術を使用していた。こんなやつ、信用できるわけ……」
「レッジ! いつも言っておろう。人を見る目を養えと。確かに彼はただものではなかろう。
だが礼儀作法や清潔感、そして話から感じ取れる温かさ。それら全てで人を判断しろ。
外見や行動だけではわからぬことが多い」
「……はい。失礼しました。お前、悪かったな」
「いや。護衛なら警戒心が強いくらいの方がいい。こちらも少々気を張っていた。許して欲しい」
「なんでお前が謝るんだ? 変わったやつだ。それで本当に治療ができるのか?」
「該当する症状と一致すれば試してみた方がいいだろう。先生から特徴は聞いた。
その人は相当な魔術使いなのか?」
「妹は、男爵の護衛で一番の魔術使いだ。それは断言してもいい」
レッグバード・ツェルーシル。大切な家族なんだ……」

 かなり暗い顔になるレッジ。これは相当良くない状況に違いない。
 俺は俺に出来る範囲の事でしかわからない。だが飲んでも害はない薬だ。
 数は少ないが、今にも消えそうな命であるなら、試してみたい。

「ブシアノフ男爵。後は俺とレッジで行きます。男爵はお部屋に」
「ならん。私も同行する。雇用している以上は私が責任者だ。どのような状況でも
目を逸らしてはならん」
「……本当に厳格なお方だ」
「妹……レッツェルの許まで案内する。こっちだ」

 レッジの案内で小さい小屋の前まで向かった。
 そして――――。
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