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第四部 主と共鳴せし道 第一章 闇のオーブを求め

第五百二十六話 誰を信用し、誰が敵なのか

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「コーネリウスの話を聞く限り、よくない状態だな」
「そうみたいね。かなり深刻な顔よ」
「後で全員に伝達するが、目的の物の情報を得るにはどうしても王女と面会が必要だろう」
「ついでに、かくまっちゃえば? それがあなたらしいわよ」
「あいつなら、そうするよな、きっと」
「そうね……」

 お手洗いの扉越しに、話し合う二人。
 シーは外へ出ると、ファニーへ視線を合わせる。

「料理、美味しかったよ」
「当たり前でしょ。他の誰でもない、あなたのために作ってるんだから」
「わかってる、感謝してるよ。それじゃ、行ってくる!」

 そう告げて、再び席へと戻った。

「すまない。話の続きをしよう。こちらの情報も一緒にだ。
現在この国ではエビルイントシケートが蔓延し始めている。これは魔力が強い者が最悪死に
至る病だと聞いた」
「それは本当か? 私もエビルイントシケートに詳しいわけじゃない。魔力が強い者……?」
「しかもこのタイミングでだ。どうも王女絡みで動いているのはこの国だけでは無いのかもしれない」
「狙いは王女だけではないかもしれぬ。この国は肉体の力より魔術の力を行使する者が多い。
魔力が無ければ非常に落ちやすい国と言える」
「一刻も早くエビルイントシケートの治療に当たった方がいい者もいるはずですよ」

 思案するコーネリウス。はっと顔をあげて、先生を見た。

「初期に出る症状はどんなものがある?」
「魔術行使時に、吐き気や嘔吐などです」
「……私も、診断してもらってよいだろうか。このところ、魔術を行使すると感情が高ぶりすぎる」
「では話が終わったら診察しましょう。続きを」
「ああ。すまない。今は信用できる者が限られている。本物の王女が幽閉されている事を
知る者もまだ少ない。仲間に率いられらたのは、王女側近の一部。それに私の直属数名だけだ」
「それってエルゲンとフィルミナってやつか?」
「いや、彼らは直属じゃない。取り巻き……と言った方がいいかな。王女は第三十領区……つまり
もっとも王城に近い貴族区域の、教会下。地下に幽閉されている。
侯爵オリナス領区の中だ……」
「侯爵家絡みか……たしかに迂闊に手を出せない場所だろう。念入りな準備が必要か」
「その通りだ。しかも侯爵は用心深い。私の父上でも事前に連絡をせねば会う事も叶わない」
「王へ直接進言することも難しいのか? エビルイントシケートの事などを」
「不可能だ。ルイ・アルドハル・メイズオルガ様であればまだ……しかし」
「彼を頼るのは危険ぞ。いや……だが彼も相当な魔術使い。或いは……」
「国全体の危機であれば、耳を貸すのではないか?」
「どのみちそうするにも、王女の安全確保が先だろうな。予定としては、王女を密かに奪還。
見つからない場所へ移動させ、国に流行り病を告知。対処にあたってる隙に王女をどうしようと
していたのか、その人物を洗い出す。他国であればそれを特定して進言する。こんなところか?」
「だが一つ問題がある。ルイ・アルドハル・メイズオルガ様は野心が強い。彼自身が
ルイ・クシャナ・ミレーユ様を幽閉させた張本人である可能性もあるんだ」
「その人物も信用に足る人物か見定める必要あり……か。確かにやる事満載、人手不足だな」

 ふぅっと大きく手を上に挙げて伸ばすシー。それに合わせて楽器が鳴り始めた。

「どうやら、閉店のようだ。コーネリウス。今夜は遅い。不服だろうが宿屋に泊まっていくと言い。
先生の診察もあるし」
「そうさせてもらおう。貴族というのは存外、庶民の宿屋などに憧れるものなんだよ。
自由というものがないのでね」
「こちらの暮らしになじめば、もう貴族の暮らしには戻れぬ」
「メナス……君はそれで本当によかったのか?」
「もういい。後任は副隊長に任せるつもりぞ」
「そうか。ならばもう、何も言うまい」

 金貨を五枚程並べてテーブルに置くと、支払いを済ませるコーネリウス。
 どう考えても多いが、何も言わずに受け取る女将さん。
 この女将さん、相当年期が入っているようで、言わなくても理解していたようだ。

「毎度。あんただけちょっと。あの子らの旦那ってあんただよね? 一目見じっくり見て
置きたくてさ。こう見えても接客が長い。人を見る目は確かさね。どれ……ふうん。あんた
随分と物悲しそうな眼をしているね。あれだけ美しい妻をあんなに娶ってるのに」
「……物悲しい……か。俺にとって一番大切な、真ん中のピースが無い。そんな感じだ」
「そうか……でも、完全に無くしたんじゃないんだね。どうりで必死に支えようとしているわけだよ。
できればずっと働いてもらいたい子たちだけど、あんたを見てるとそうもいかないようだね」
「……ああ。すまないな。でも女将さん、あんたさえよければ……いや、今はやめておこう」
「? まぁわからないけど、また来ておくれよ。いっぱい出してくれるお客さんはいつでも歓迎! 
うふふ」
「いい店だ。また来よう。それじゃ」
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