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第四部 主と共鳴せし道 第一章 闇のオーブを求め

第五百十九話 診察と診断

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 翌朝、早々に第九領区より下町へ目指す一行。
 貴族街以外はキューブンという乗り物で移動を開始する。
 貴族街では馬車以外の移動を禁止されている。これは景観や風情を重んじる風習からだ。
 キューブンで立ち入ろうとすれば即座に捕縛される。

「こんな便利な物を使わず馬車に乗るってのはもったいないよな」
「貴族ってのは人を動かす仕事だ。馬車が動かなければ御者の仕事もなくなる上、威厳を
保つのにも必要なんだろうな」
「違う。貴族同士の見栄の張り合いぞ。貴族とはそういうもの」
「見栄だけで便利さを放棄か……到底、理解できないね」
「まったく、その通りぞ……」

 九領区から下町へのルートは近い。
 

 下町に差し掛かると全員口をつぐんだ。シーの指示により目的の宿屋へ到達すると、腕に口をあてたまま
受付を済ませ、白い布を口に当てたまま話を進めると、部屋へ急いだ。

 ノックをして部屋に入ると――――「っ! 強盗だ! 先生はスピアが守る!」
「……おいスピア」
「あれ? お前か。なんでそんな恰好してるんだ?」
「先生に診断を」
「わかった。ちょっと待ってろ。何人だ?」

 四本の指を立てるシー。合図を見て察したのか、ドタドタと慌てて先生を呼びにいくスピア。
 急ぎ足で出てきた医者の格好をする男が、一目見て、慌ててマスクを着用し、消毒をする。

「スピアさん、人払いを。ル……ツインさん。お待ちしてました。こちらへ。お連れの方もどうぞ」

 奥の綺麗な部屋へ案内され、椅子に座る。宿屋をかなり改良したのか、部屋に余計なものはほとんどない。
 布でしきられた部屋には老人が一名寝ている。

「特殊防護布です。ご安心ください……状況を簡潔に」
「伝染病が流行している可能性がある地域に移動。接触した恐れあり。時間にして八~十二時間程。
接触者は極めて少ない。発見時からその地域を封鎖していたのが彼女だ。恐らく……一番
感染している可能性が高い。現地にいて先生を連れていくかを考えたが、同行することだったので
最善は尽くしたが……」
「十分です。ではツインさんより彼女を診断したほうが早いですね。
後ろの方も合わせてあちらでお待ちください」
「ああ。急にすまな……」
「何も言わなくて大丈夫です。突き進むのはあなたの役目。支えるのは私の仕事です。
それに、未然に防げるかもしれない伝染病をいち早く知る。これほど重要な事はありませんから」

 そう告げると、銀髪の女狐、メナスの問診から始める先生。
 エー、ビー、シーはそれぞれ邪魔にならないようベッドが並ぶ方面に立ち、診察が終わるのを待った。
 先生は問診に始まり、聞診、舌診(音を聞く診療や舌の色などを確認する診断方法。東洋医学寄りの
診断)を行い、瞳孔を確認。次いで皮膚の色を確認し、頸椎、胸椎、腰椎などの中枢神経経路を
細かく確認していく。熱、脈診を図り爪の色などにも注意を払う。
 改めてみる手際の良さ。自分が前世で幾度となく見てきた名医たちとそん色ない。
 現代医学では局所的、内部的に確認する西洋医学が主流だが、東洋医学と西洋医学の混合、これこそが
医療の終着点。だが医者一人あたりが見なければいけない範囲が、医療が進んだ日本であってもたったの
四十万人程しか医者がおらず、世界的に見ても真ん中程度だった。
 そんな中患者一人に対して念入りに見ていく東洋医学療法は、医師がたとえそうしたくとも、行うのは
困難となってしまった。
 そして何より……患者と向き合うあの表情。
 自分のために真剣になってくれている。
 その瞬間を感じられるのは、患者としての安心感へとつながる。

 気性の激しそうなメナスも、最初は訝しんでいたものの、今は信頼をしている表情を浮かべていた。

「あなたの区域で接触したおおよその人数は?」
「五十ぞ。それ以上はいない」
「スピア。青色、黄色のリメディーを。それに三角の錠剤を二つ入れてきてくれますか」
「わかった」

 そう告げると彼女は手が八本になりすべての行動をいっぺんにこなす。 
 それを目の当たりにしてエーとビーは目を丸くし、シーは頭を抱えていた。

「コ、コホン。特殊能力の助手でして。変わった種族なのですよ、スピアは」
「詮索はすまい。それがトループの鉄則ぞ」

 そう告げると、唾液を摂取し、青色の液体に浸していく。
 色は鮮やかな赤色へと変化した。

「診断結果から、おおよそですが判別がつきました」
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