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第四章 メルザの里帰り

第四百八十五話 尊き我が主よ 再び会うその日まで

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「ようやく来ましたか。まったくあなたは! つい先日、同じ怪我の治療をしたばかりですよ」
「すまない先生。どうしても、誰にも譲りたくなくて。被害も殆ど無かったようでよかったよ」
「見ててひやひやしたわ。でもあんな化け物、手を出そうにもまったく出せなかった……
私たち、未熟だわ」
「でも、この傷じゃ直ぐには旅立てないでしょ? だから決めたの」
「うちらはブネの下で特訓するっしょ。ようやく師匠と言える相手に巡り合えた感じ?」
「ブネに? あれは次元が違うと思うんだけど」
「なんか、お腹の子の事もあるからそれが一番いいらしいよ。たくましい子が産まれるに違いないって」
「ブネは勇者でも産ませるつもりなのか? ……痛っっ! 先生、もうちょい優しく」
「だめです。あなたはこれでも懲りないでしょうけど、少しくらい強く処置しておきます! 
心配ばかりかけさせないでください」
「先生、包帯は七重まきでいいのか?」
「おいおい、スピア。そんな巻いたらミイラじゃすまないぞ……」
「いいですよ。それくらいしておけば動かず反省するでしょうし」
「ふん。別にお前のために巻いてるんじゃないんだからな。先生のためだ」

 これでも反省してるんだけどな。お医者さんの言う事はちゃんと聞きますよ。
 今回は目の力を使わずに済んだ。というのも、これから暫くは使えないのではないか。
 そう思ったからだ。もしかしたらブネが近くにいれば使えるのかもしれないが……。

「ルイン、言われた通り来ましたが、随分と無様な姿ですね」
「言い返す言葉もない。力に振り回され、助けられじゃ……な。それより先生も
いるし丁度いい。ジェネスト、幻魔界へ行ってきてくれないか?」
「……私から言おうとしたことを先に言いますか。何か理由が?」
「先生の大切な人を治すために、幻魔鉱石が必要なんだ」
「そうですか。どのみち私も向かう予定でしたが……幻魔鉱石は大きい。
こちらへ持ち帰るには相応の道具などが必要です。何か方法を考案しないといけませんね」
「それならパモを……同行してくれればだが」
「成程……あの生物なら確かに。いい案です。お願いはあなたがしなさい」
「わかってる。他に同行させたい者はいないか?」
「ではレウス、それからウォーラスを。あの者たちなら幻魔界でも順応可能でしょう」
「わかった。そちらもお願いしておこう」
「私も、連れて行ってはもらえないでしょうか?」
「……シュイオン先生。あなたには無理です。足手まといになるだけでしょう」
「くっ……ですが私にもなにか!」
「物事にはそれぞれに合った役割があるものです。そちらで治療を受けている者のように。
あなたはあなたのできる事をまっとうしてください。これは我々の役目。気持ちだけ持っていきましょう」
「あー……ジェネストは、先生には優しいよなー」
「何をいってるんですか? 深淵に見舞わせますよ?」

 これは照れ隠しなんだろうな。かかとを返し、美しい髪を靡かせて出ていくジェネスト。
 結局この後は、治療に付き合った全員この部屋で休んだ。

 翌早朝には両足が十分動くようになり、いち早く目覚めた俺は部屋を後にした。
 泉の前まで来ると、モラコ族たちは泉に浮かびながら休んでいる。

「おはよー」
「はよー」
「……よー?」
「ああ、お早う。あまり顔を出せなくてごめんな。少しだけ出かけてくるから」

 少し物悲しいルインの背中を見送るモラコ族の子供たち。
 どうしたのだろう? と顔を見合わせていた。
 
 ――――――――――――



 泉を抜け、ジャンカ村まで一人で来た。
 木の上を指さしながらぴょんぴょん跳ねていた、メルザの幻影を思い浮かべる。

「木登りは経験が無いからわからないが、やってみるよ……か。こんな木を登るのも大変だったんだよな」

 見違えるように鍛え抜かれた体。今では飛ぶだけで、木の上までたどり着ける。

 今度は下でニハハと笑っていたメルザの姿を思い出していた。
 ヘソを見せながら、片手で器用にキャッチをしていたあいつの姿を。
  

 枝の上に腰をかけ、天を仰ぎ見る。
 ポタポタと流れ落ちる雫を感じながら思う。
 最後に、もう一度抱きしめておきたかった。別れを皆で惜しみたかった。
 でもそれは、メルザにとって決していいことじゃない。あいつも我慢しているのに。
 俺たちが我慢せず、どうするのか。
 半年。その程度の時間を離れるだけ。それだけなんだ……。なのに。
 我が主がいない世界。こんな世界に産まれていたら、生きる価値など見いだせなかっただろう。

 尊き我が主よ。再び会うその日まで。俺はお前の帰りを、傍でずっと待っている。
 そしてお前が戻る前に必ず、ブレディーを復活させておいてやる。
 あの時メルザが救おうとしてくれたのは、俺だけじゃない。ブレディーもなのだから。
 全ては、我が主のために。

 第三部 fin
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