上 下
517 / 1,085
第四章 メルザの里帰り

第四百五十八話 スピアを一緒に

しおりを挟む
 キャットマイルドを倒した俺は、避難していたメルザたち、それからジェネスト、クリムゾンと合流した。
 最後の攻撃、あれは爆発範囲も広く相当危険だった。

「殿方殿。まさか一人で倒しきってしまうとは。ほんの数日合わないだけで、あなたは見違えてしまう」
「少し特別な事があった。強い思いを受け入れた影響かな。熱い魂をもらったんだ」
「そうですか。以前話があると伝えたのを覚えているかな」
「覚えてる。少し時間はあるだろう?」
「ええ。あなたのお陰でかなり余力を残せましたから。戦いが激しいほど早めに消耗して戻らねばならなくなる。それで……核心からお伝えすると、ジェネストを一度、幻魔の世界へ戻したいのです」
「幻魔の世界にって言われてもな。どうやって戻すんだ?」
「ジェネストはそもそもが幻魔人形。魂魄を人形に封じ込めた形態です。人形部分だけ預かって頂きたい」
「魂魄だけ幻魔の世界に……ってことか。そんなことが可能なのか?」
「無論。いいなジェネスト」
「……私は……ディーン様を!」
「どのくらいで戻ってこれるんだ?」
「何日かはかかるでしょう。本人次第かと」
「ジェネスト。戻ったらシフティス大陸に向かう出発日を決める。それで判断してくれて構わないよ」
「わかりました。私の第一優先はディーン様です。それだけは変わらない」
「それと殿方殿。これをあなたの主に。いつか必ず役に立つはずだ」
「これは……?」
「幻魔の耳飾り。きっといつか役に立つはず」
「貰っておこう……クリムゾン。お前にはいつも貰ってばかりだ。今度お礼をさせてくれ」
「ふふ、それはディーン様をお救いして頂けるだけで十分。期待している」
「なんというか、もっと形あるものでお返ししたいんだ。まぁ、そんなに大したものは作れないかもしれないが、楽しみにしててくれ」
「承知した。それでは再び、相まみえましょう」

 そう言うと両手を胸の前で交差してしゃがみ、沈み消えていくクリムゾン。
 相変わらず恰好よすぎる。
 しばらくしてメルザたちもやってきた。スピアの足はかなり酷い状態のようで、セーレに乗せられている。
 
「なぁなぁルイン。あいつ、死んだのか」
「……ああ。決着はついた。あいつとは色々あったが、これでよかったのかは俺にもわからないよ」
「彼はもう、まともではなかった。あなたが気に病むことではありません。解放して、あげたのでしょう」
「先生、俺は……わからない。迷っていた。でも、そうしなければならないことが、今後も続くのかもしれない。それに慣れるのは嫌だが、守りたいものが俺にはある。
そのためにも戦っていこうと思う」
「そうですね。それより……そろそろ戻りませんか? 私はバルバロッサに行かねばなりませんが」
「なぁ先生。メルフィールさんを連れて、俺たちの町に移住しないか?」
「……ええ。むしろ私からお願いしようと考えていたのですが……そうですね……」

 少し小声で話す先生。
 ちらりとスピアの方を見て、コホンと咳ばらいをして、俺にウインクして見せる。
 くっ、眼鏡越しのさわやかイケメンウインク。何という癒しだ。さすが医者。
 しかし先生の言わんとするところはわかった。もう一度誘ってくれという合図だろう。

「では改めて。シュイオン先生。俺たちルーンの町に来てもらえないか。先生の力が必要なんだ。な? メルザ」
「ああ! 俺様の町にはうまいものがいっぱいあるぞ」
「それでは条件として、私の助手にスピアさんが加わるなら、あなたの町で医者として働きましょう!」
「え? 何の話だ?」

 驚いて飛び跳ねるスピア。しかし足が痛いようでさすっている。

「俺としては双方来てもらえると助かるんだけど、スピア、お願いできないだろうか?」
「お願い? そ、それなら仕方ないな。いいだろう、行ってやってもいい」
「彼女がいれば薬草などを取りに行くにも安全でしょうからね。とても助かります」

 こうしてシュイオン先生とスピア双方が俺たちの仲間に加わってくれた。
 メルザの里帰りも無事終わり、ようやく町に戻る時がきたようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。 エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。 俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。 処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。 こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…! そう思った俺の願いは届いたのだ。 5歳の時の俺に戻ってきた…! 今度は絶対関わらない!

【R18完結】愛された執事

石塚環
BL
伝統に縛られていた青年執事が、初めて愛され自分の道を歩き出す短編小説。 西川朔哉(にしかわさくや)は、執事の家に生まれた。西川家には、当主に抱かれるという伝統があった。しかし儀式当日に、朔哉は当主の緒方暁宏(おがたあきひろ)に拒まれる。 この館で、普通の執事として一生を過ごす。 そう思っていたある日。館に暁宏の友人である佐伯秀一郎(さえきしゅういちろう)が訪れた。秀一郎は朔哉に、夜中に部屋に来るよう伝える。 秀一郎は知っていた。 西川家のもうひとつの仕事……夜、館に宿泊する男たちに躯でもてなしていることを。朔哉は亡き父、雪弥の言葉を守り、秀一郎に抱かれることを決意する。 「わたくしの躯には、主の癖が刻み込まれておりません。通じ合うことを教えるように抱いても、ひと夜の相手だと乱暴に抱いても、どちらでも良いのです。わたくしは、男がどれだけ優しいかも荒々しいかも知りません。思うままに、わたくしの躯を扱いください」 『愛されることを恐れないで』がテーマの小説です。 ※作品説明のセリフは、掲載のセリフを省略、若干変更しています。

【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年 \ファイ!/ ■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ) ■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約 力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。 優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。 オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。 しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈ 学園イチの嫌われ者が総愛される話。 嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。

邪悪な魔術師の成れの果て

きりか
BL
邪悪な魔術師を倒し、歓喜に打ち震える人々のなか、サシャの足元には戦地に似つかわしくない赤子が…。その赤子は、倒したハズの魔術師と同じ瞳。邪悪な魔術師(攻)と、育ての親となったサシャ(受)のお話。 すみません!エチシーンが苦手で逃げてしまいました。 それでもよかったら、お暇つぶしに読んでくださいませ。

【R18】超女尊男卑社会〜性欲逆転した未来で俺だけ前世の記憶を取り戻す〜

広東封建
ファンタジー
男子高校生の比留川 游助(ひるかわ ゆうすけ)は、ある日の学校帰りに交通事故に遭って童貞のまま死亡してしまう。 そして21XX年、游助は再び人間として生まれ変わるが、未来の男達は数が極端に減り性欲も失っていた。対する女達は性欲が異常に高まり、女達が支配する超・女尊男卑社会となっていた。 性欲の減退した男達はもれなく女の性奴隷として扱われ、幼い頃から性の調教を受けさせられる。 そんな社会に生まれ落ちた游助は、精通の日を境に前世の記憶を取り戻す。

Sランクパーティーから追放されたけど、ガチャ【レア確定】スキルが覚醒したので好き勝手に生きます!

遥 かずら
ファンタジー
 ガチャスキルを持つアック・イスティは、倉庫番として生活をしていた。  しかし突如クビにされたうえ、町に訪れていたSランクパーティーたちによって、無理やり荷物持ちにされダンジョンへと連れて行かれてしまう。  勇者たちはガチャに必要な魔石を手に入れるため、ダンジョン最奥のワイバーンを倒し、ドロップした魔石でアックにガチャを引かせる。  しかしゴミアイテムばかりを出してしまったアックは、役立たずと罵倒され、勇者たちによって状態異常魔法をかけられた。  さらにはワイバーンを蘇生させ、アックを置き去りにしてしまう。  窮地に追い込まれたアックだったが、覚醒し、新たなガチャスキル【レア確定】を手に入れる。  ガチャで約束されたレアアイテム、武器、仲間を手に入れ、アックは富と力を得たことで好き勝手に生きて行くのだった。 【本編完結】【後日譚公開中】 ※ドリコムメディア大賞中間通過作品※

迅英の後悔ルート

いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。 この話だけでは多分よく分からないと思います。

処理中です...