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第四章 メルザの里帰り

第四百二十四話 ドラグア山脈活火山の温泉場、レミの語る恋物語

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「うひゃあー、あったけー。気持ちいー……やっぱ温泉は最高だぜ! な? ルイン」
「ああそうだな。うちの温泉場は硫黄の匂いとかはしない。ありゃ源泉はどうなってるんだろうな」
「皆さんの町にはこのような施設があるのですか? それは凄い……というより贅沢ですね」
「は、恥ずかしい……お父さん以外の人とお風呂に入ったことなんて……ないです!」
「そーか? 温泉ってこうやって男女で入るものらしーぞ? 俺様たちの町だとふつーだ」
「いや……あれは普通じゃないような……何せドラゴンとかもふもふとか怖い蛇とかと入れるんだぞ」
「本当ですか!? 実に興味深いです! ぜひ一度訪れさせてください!」

 先生は動物などの生態に興味津々のようだ。一度と言わずずっといて欲しいと思うけど。
 今は勧誘するべきではないな。

「どうだウォーラス。温泉は」
「暖かいかべ。こんなの壁の中じゃ一生味わえなかったかべ。それにみんなといると
楽しいかべ」
「お前、あの壁の中でずっと一人だったんだよな……俺たちと居れば寂しい思いなんて
絶対にさせないさ。むしろうるさいくらいだろ、セーレ」
「ヒヒン! 酷いよね! 僕はそんなに騒がしくないでしょ? 騒がしくない方だよね? そうだよね!」
「一番騒がしい。間違いない。サラとファナも賑やかだが、ぶっちぎりはセーレだ」
「ヒヒン! あの子たちのほうが何倍も騒がしいでしょ!」
「そーいやファナとサラとベルディア。あいつらと離れて行動するなんて久しぶりだろ? 
俺様もルインもあまり喋る方じゃないから、なんか静かだよ」
「そーいやセーレの声はヒヒーンしかわからないんだよな。こっちは相変わらず騒がしいよ」
「そーなのか。まぁたまにはこーいうのも悪くねーけどな! ルインと出会ったばかり
のころとかさ」
「お二人はどうやって知り合ったんですか? 差し支えなければ聞きたいです」
「私も!」
「そうだな。あれは……」

 俺とメルザが知り合った経緯などを話して聞かせた。
 先生は目を丸くし、レミは興奮した様子で聞いている。

「……というわけで、現在に至る。当面の目標は、まずメルザの里帰り。
それからメルザの治療。その間にブレディーを救うために行動する。そんなところかな」
「……お二人は結婚されたばかりなのに、しばらく会えなくなってしまうんですね。
昔読んだ、マルドレーヌ物語みたいです」
「それはどんな物語なんだ?」
「ええっとですね……」

 レミが言うにはマルドレーヌという女性とオシヴェールという男性の恋物語らしい。
 左腕しかない女性と、右腕しかない男性。二人は互いの手を合わせ、苦難を乗り越え
結婚に至るが、女性は両の腕を失う。自分にはもう、何もできないと嘆き悲しんだ女性は
家を飛び出してしまう。男性は必死に女性の足取りを追いかけ、ようやく女性を見つけ出す。
 彼女はただ家を飛び出たわけではなく、自由に動く義手を探し、両方分の義手と、その男性の
ための義手を携えていた。
 女性は勝手に家を飛び出し、それでも自分を追って探し回っていた男性に改めて
懇願した。
 あなたには片腕がある。私にはこの両手の義手しかない。それでも……自分を今一度
愛してもらえるかと。
 男性は首を横に振った。女性は顔を下にしてぽろぽろと涙を流した。
 その女性の両肩を掴み男性はこう言った。

「こんな物をつけている君なんかよりずっと、素のままの君が好きだ。
それに今一度愛する? 僕はずっとずっと、君を愛している。一度も愛さなくなった事
なんてないよ。そういうと女性は、片腕の男性に強く抱きしめられ、幸せに暮らしました」
「……いい話だ。聞かせてくれてありがとう、レミ」
「レミさんは語り部が得意のようです。思わずじわりときてしまいました」
「この世界での物語、興味を持ったことは無かったが、いくつか見てみたいものだ。
時間に余裕が出来たらだけどさ」
「ルインはいっつも忙しそうだからなー。それに俺様に本はむずかしーぞ!」
「あら。メルザさんも子供ができたら聞かせてあげないとですよ!」
「なっ! 俺様に子供なんて……その、できるかわからねーしよ」
「今はそれよりも里帰りだな。亡くなった人も大勢いたのだろう。冥福を、祈ってやろう」
「ああ……そーだな」

 その日はこの辺りで一晩過ごし、翌日にどうしても倒したいという
一匹の竜の討伐に向かう事となった。
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