上 下
480 / 1,085
第四章 メルザの里帰り

第四百二十二話 傭兵団の常識

しおりを挟む
「あそこか……」

 一足先に山頂付近まで登った俺。ペースを合わせているが、一人なら割と余裕で
すぐに山を登り切れる。
 戦士風の男二人と変な恰好の女が一人。あんな恰好で普通山に来るか? という恰好だ。
 戦士の一人は分厚い両手斧、もう一人が軽装の戦士。
 まぁまぁ戦えそうだが、俺やジェネストの敵じゃない。

 これなら放置しておいても問題ないな。


「赤閃」
「グギイイイーー」

 不意に上空から襲い来る竜種を切り伏せ、メルザたちの許へ戻る。
 山頂付近の方が戦いやすいが、材料を集めるなら中腹だったな。

 
 日が沈むまでにはもう少し時間がある。急ぎ採取を終わらせてしまおう。
 ――――。


「おかえりルイン。どーだった? つよそーな奴らだったか?」
「いや、大したことは無いかな。ジェネストが十秒もあれば倒せるレベルだろう」
「えー!? 十秒って、それ対峙したらほぼ詰んでる状態じゃないですか!?」
「まぁ、ジェネストだし……アニヒレーションズなんてまともにくらったら洒落にならんぞ」
「ふっ……あれをクリムゾンと同時に行ったらどうなるかわかりますか」
「そんなみじん切りになりそうなの、見たくないよ! ……それより日が落ちる前に採取をすませよう。
先生、必要なものを伝えてくれ。手分けして探そう」
「それではまず……」

 先生が欲しがりそうな素材や、レミの受けた依頼の素材を手分けして探す事にした。
 メルザは体力面と安全面を考慮して、セーレを置いてここでお留守番。
 依頼の方はレミが大きな鞄に入れていくらしい。内容物が軽くなる術式が施されているらしい。
 いいマジックアイテムだな。いや、ユニークか。
 
 さっきの奴らがいる方面は念のため俺とジェネストが向かう。
 一応警戒しておいた方がいい。聞こえた会話が物騒な内容だったし。
 できれば穏便に済ませたい。
 だが――――「キャーーー!」

「今のはレミの声か? くそ、何かあったか」
「先行してください。私は今の声できっと動き出すあちらを警戒しておきます」
「頼む。殺すのだけは無しだぞ」
「弱い者を痛めつける趣味はありませんから」

 バネジャンプで跳躍してみると、レミとレウスさん、シュイオン先生に、何者かが襲おうとしていた! 
 こいつら、さっきとは違う奴だが、山頂付近から見たときはどこにもいなかった。
 一体どっから沸いた? ……いや、わかった。少し浅はかだった……こいつら竜に乗ってきたんだ! 
 ってことは十中八九、さっきの奴の仲間だ。数は四人。
 俺たちが登っていくとき、誰かに気づかれないような行動はとらなかった。
 傭兵ならそれくらいの痕跡、見て気づくか。
 一応レウスさんに相当警戒しているようだが……レウスさんの出す炎だとあいつら、殺しちゃうな……。

 ここは一つ……あれ? ウォーラス? 様子を見ていたら、壁から手が出て四人のうち二人を
引きずり込む。
 レウスさんはシュイオン先生をかばうように前に立ちはだかり、今まで見せたことがない黒色の鎌を
取り出した。怒っている。
 先生が怪我でもしたのか!? 

 残った二人はそれを見て逃げようとしている。まずい! 

「レウスさんストーップ! 殺しちゃだめだ」
「なんでだ? こいつら俺の友達を傷つけた悪い奴だ。いいだろ?」
「ダメだ。先生はどうみても軽傷。脅すつもりか何かだったんだろう。
その鎌、かなりの殺傷力だろう? 殺しちゃうと話が聞けない」
「ひ、ひいー-! お助けを! どうか、どうか!」
「近づくな。油断させる算段だろう。攻撃できる範囲に入るな。武器を捨てて投稿しろ。
そうする余地があると思ったからレウスさんを止めたんだ」
「……わかった。これでいいか」
「いいや、動くな……剣戒。赤閃!」

 大人しくしているそいつらの横をかすめるように、赤閃を放つ。
 勧告としてはこれで十分。レウスさんには勧告の方法を覚えてもらいたい。
 ちらりとレウスさんを見るとサムズアップしてる……今のでわかったのか!? 
 
「じょ、冗談じゃねえ。俺たちは傭兵団だ。ちょっと可愛いお嬢さんに道を聞こうとしたら
男が邪魔をして、それで……」
「それで何をした?」
「ついかっとなって手を……がはっ」
「お前の言うかっとなって手をあげたってのはこういう事だろうが! なぜ道を尋ねたなら親切に
応対しない! なぜ平気で他人を傷つける! なぜいきなり見ず知らずの人にからむ! 
全部お前の都合だろう! 少しは巻き込まれる者の身になって考えろ!」
「う……ぐ。それが傭兵団の常識だろうが! 気にいらなければ敵対するのは当然だ」
「それはお前たち傭兵団の……だろ」
「ぐぅ……」

 二人の傭兵のみぞおちに拳を叩き入れ、意識を失わせる。
「先生、大丈夫か?」
「ええ。少し切り傷が出来た程度です。それより……医者として礼を言うのは私です。
レウスさんはあのままだと怒りに任せて彼らを殺してしまったかもしれない。相手が命を取りに
きた相手ならそれもやむなしでしょう。ですがそうではない相手の命を奪うのは避けたい。
その気持ちを、汲んでくれたんですね」
「それもあるが、こいつらを殺せばこいつの所属する傭兵団とは恐らく敵対関係になる。
それは避けたかったんだ……と言ってもどうやらもう、敵対は確定だな」

 三人をずるずると引っ張りながら連れてくるジェネスト。
 ウォーラスも壁から気絶した二人をひきずりだしてまとめた。

「さて、どうすっかな、これ……」

 七人の伸びたハルクまーせなリーズを前に、少々頭を抱えていた……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。 エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。 俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。 処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。 こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…! そう思った俺の願いは届いたのだ。 5歳の時の俺に戻ってきた…! 今度は絶対関わらない!

【R18完結】愛された執事

石塚環
BL
伝統に縛られていた青年執事が、初めて愛され自分の道を歩き出す短編小説。 西川朔哉(にしかわさくや)は、執事の家に生まれた。西川家には、当主に抱かれるという伝統があった。しかし儀式当日に、朔哉は当主の緒方暁宏(おがたあきひろ)に拒まれる。 この館で、普通の執事として一生を過ごす。 そう思っていたある日。館に暁宏の友人である佐伯秀一郎(さえきしゅういちろう)が訪れた。秀一郎は朔哉に、夜中に部屋に来るよう伝える。 秀一郎は知っていた。 西川家のもうひとつの仕事……夜、館に宿泊する男たちに躯でもてなしていることを。朔哉は亡き父、雪弥の言葉を守り、秀一郎に抱かれることを決意する。 「わたくしの躯には、主の癖が刻み込まれておりません。通じ合うことを教えるように抱いても、ひと夜の相手だと乱暴に抱いても、どちらでも良いのです。わたくしは、男がどれだけ優しいかも荒々しいかも知りません。思うままに、わたくしの躯を扱いください」 『愛されることを恐れないで』がテーマの小説です。 ※作品説明のセリフは、掲載のセリフを省略、若干変更しています。

【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年 \ファイ!/ ■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ) ■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約 力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。 優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。 オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。 しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈ 学園イチの嫌われ者が総愛される話。 嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。

邪悪な魔術師の成れの果て

きりか
BL
邪悪な魔術師を倒し、歓喜に打ち震える人々のなか、サシャの足元には戦地に似つかわしくない赤子が…。その赤子は、倒したハズの魔術師と同じ瞳。邪悪な魔術師(攻)と、育ての親となったサシャ(受)のお話。 すみません!エチシーンが苦手で逃げてしまいました。 それでもよかったら、お暇つぶしに読んでくださいませ。

【R18】超女尊男卑社会〜性欲逆転した未来で俺だけ前世の記憶を取り戻す〜

広東封建
ファンタジー
男子高校生の比留川 游助(ひるかわ ゆうすけ)は、ある日の学校帰りに交通事故に遭って童貞のまま死亡してしまう。 そして21XX年、游助は再び人間として生まれ変わるが、未来の男達は数が極端に減り性欲も失っていた。対する女達は性欲が異常に高まり、女達が支配する超・女尊男卑社会となっていた。 性欲の減退した男達はもれなく女の性奴隷として扱われ、幼い頃から性の調教を受けさせられる。 そんな社会に生まれ落ちた游助は、精通の日を境に前世の記憶を取り戻す。

Sランクパーティーから追放されたけど、ガチャ【レア確定】スキルが覚醒したので好き勝手に生きます!

遥 かずら
ファンタジー
 ガチャスキルを持つアック・イスティは、倉庫番として生活をしていた。  しかし突如クビにされたうえ、町に訪れていたSランクパーティーたちによって、無理やり荷物持ちにされダンジョンへと連れて行かれてしまう。  勇者たちはガチャに必要な魔石を手に入れるため、ダンジョン最奥のワイバーンを倒し、ドロップした魔石でアックにガチャを引かせる。  しかしゴミアイテムばかりを出してしまったアックは、役立たずと罵倒され、勇者たちによって状態異常魔法をかけられた。  さらにはワイバーンを蘇生させ、アックを置き去りにしてしまう。  窮地に追い込まれたアックだったが、覚醒し、新たなガチャスキル【レア確定】を手に入れる。  ガチャで約束されたレアアイテム、武器、仲間を手に入れ、アックは富と力を得たことで好き勝手に生きて行くのだった。 【本編完結】【後日譚公開中】 ※ドリコムメディア大賞中間通過作品※

迅英の後悔ルート

いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。 この話だけでは多分よく分からないと思います。

処理中です...