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第四章 メルザの里帰り

第四百五話 レンズへ

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 熱でうなされていたメルザは、ずっと夢の中にいるような視界だった。

 歪む世界の中、意識にあるのは故郷とルイン。
 それが合わさって不思議な世界にいるようだった。

 父と一緒にいるルインは、目を合わせてたまに笑いあっている。
 父が肩を抱き手を掲げ、飲みに行くぞと誘っている。
 ルインは殆どお酒を飲まないよ、父ちゃん。

 母はそれを見てくすりと笑い、後ろにいるこちらを見ている。
 そして――――三人ともどんどん距離が離れていってしまう。

「……行かないで。父ちゃん……ルイン。お母さん……」

 自分の過ごしてきた過去と現在が混ざり合い、ぐちゃぐちゃになっていた。
 
 治癒院に戻ったルインは、メルザのところへ駆けつけ心配そうに見る。
 このまま心配していても仕方がない。
 ジェネストに見ていてもらい、自分に今出来る事をやろう。
 シュニオン先生も直ぐに来たので、先ほどの話、自分たちの事をあたりさわりのない
範囲で話した。

「そうだったんですか。実は先ほどレンズにルクス傭兵団の方がいらしたと聞いてます。
行ってみてはいかがですか?」
「レンズか……少々気がかりな点もあるが、行ってみよう。ジェネスト。頼ってばかりで
悪いが、メルザを……」
「皆まで言われなくてもそうします。この方は……少しディーン様に似ている。
そんな感じがするのです」
「そうか。いや、そうかもしれない。ディーンの見た目はもっと幼く見えるけど」
「ディーン様は見た目をよく変えますから。あれはディーン様が生み出された時の
お姿ですが」
「そうだったのか……それじゃ、よろしく頼む。先生、治療費は……」
「後ほどで構いませんよ。それにもしかしたら、あなたに協力をお願いするかもしれません」
「そうか。わかった。出来る事があれば、出来る範囲で協力しようと思う。まずは行ってくると
しよう」
「ええ。治安はいいですがお気をつけて。決して豊かな国ではない。それだけは
覚えておいてください」

 そう言い残すと、先生は再びほかの患者を治療しに向かった。
 疲労の色が濃い。一人で切り盛りしているんだろうか。幾らなんでも無茶だろう。
 おっと、シュニオン先生の心配をしている暇はなかったな。

 レンズは……ちょっと遠いな。日が暮れる前に行こう……酒場もあるな。後で情報をしいれよう。

 急ぎ足でレンズへ向かう。道中見知らぬ人たちには少し変わり者を見る目で見られるが、誰一人
敵意は感じられない。
 この町は安全であると十分に確かめられた。
 レンズに入ると、もう時間も遅いためか、ほぼ人らしい人はいない。
 受付の人も片付けをしている。

「すみません。少々訪ねたい事があるんですが、いいですか?」
「はい。こちらでは見かけない方ですね。傭兵団の方でしょうか? それともご依頼?」
「その前にちょっとだけ尋ねたい。ライデンについてだが……」
「もしかして情報提供者の方ですか!? それだと一大事なんですが!」
「情報提供者? どういうことだ?」
「あなた、ご存知ないんですか? あっちの張り紙!」
「いや、しばらくレンズには顔出ししていないんだ。あっちの張り紙って……あれ?」

【ライデン・ガーランド 国家転覆、暗殺、闇取引の指名手配犯 身柄拘束報奨金三十万レギオン金貨】

「……三十万レギオン金貨って……九十億から百五十億ってとこか。とんでもないな」
「情報提供にも報奨金が出ます。何か御存知なら」
「エプタが言うには確か……まだ確定していないが、ベルドの父バルドスの体を乗っ取ったとか。
本当かどうか確証がない」
「バルドス? あの死流七支のバルドスさんですか? にわかには信じがたいです。あの、差し出がましい
ようですが、あなたのお名前は……」
「ルイン・ラインバウトだ。幻妖団メルの……」
「ええーーーー! 新進気鋭でイケメン揃いな上実力もあって死流七支の団員がほぼ全員移行した
あの!? あのルインさんですか? 行方不明の? ベッツェンで亡くなったというもっぱら評判のあの!? うひゃあーー! 大事件です、大事件! 主任、主任ーー!」

 え? そんな感じになってるの? 確かにやばい消え方したけど。そんな有名になってるのか? 
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