上 下
453 / 1,085
第四章 メルザの里帰り

第三百九十五話 誰が誰よ

しおりを挟む
 ルインとメルザが里帰りへ出かけた頃――――。


「やっと出発したわね。ルシアから連絡はまだない?」
「きてないわ。苦戦してるのかな。あの幸運女」
「こっちはどうにかして私たちで対処しないと。これ以上時間をとられて、あの子がいなくなる時間を
先延ばししたくないの」
「ライラロさん、なんだかんだでメルザの事好きよね」
「ば、バカ言わないでよ。ただのバカ弟子よバカ弟子。別に好きとかそーいうんじゃないんだから!」
「はいはい。別にいいっしょ。私ら全員メルザちゃんの事大好きだし。それで何匹位いるの? モンスター」
「五百から八百っていう話ね。遠目から見た限りの話だけど。伝えたら確実にルインは飛んでいくわ。
ベッツェンに立ち寄ってたんじゃかなり時間かかるし。あんたら準備はいい?」
「ええ。いけるわ。お兄ちゃんとカノンちゃんには伝えてないけど」
「……それにしてもあんたたち。よくルインと向かうの、我慢したわね」
「私たちは……私たちじゃいたら邪魔になる。そう思ったのよ。メルザは絶対泣いてしまう。
でもそれを受け止めてあげるのは、ルインの役目よ」
「そうね。私たちが支えてあげるのは、もっとずっと後の事よ。それまではきっと大丈夫」
「さて、わしもいこうかのう。お嬢さん方や」
「わわっ! ちょっと爺さん! あんたいつからそこにいたのよ!」

 話し合う女性陣の後方で、じーっと見ている老人が話しかける。
 ハクレイである。

「いつからだったか覚えておらんのう。若いもんをちいっとばかし揉んでやったんじゃが。
いやー楽しかったのう」
「それってベルドたちのこと? うそでしょ? あの二人と戦ってピンピンしてるの?」
「まだまだ若い者には負けん。それで……モンスターの襲来かの?」
「ええ。数が多いうえに竜種までいるのよ。どうにもその一部がジャンカの村に向かっているらしくて」
「……そうか。ここは良い場所じゃ。まだここへ来て日が浅いわしでさえわかる。そんな場所を壊されて
はたまらぬからな。わしも行こう。ホイホイ! ホイホイはどこじゃ!」

 しかし返事は返ってこなかった。

「むむう。なんじゃったかな。そうじゃ! ラーラ! ラーラはどこじゃー!」
「ヒヒィーーーーン!」
「あんた、ホイホイって何なのよ。普通そんな名前つける?」
「うーむ。わしゃ気に入ってるんじゃがのう。そうじゃ。お嬢さん方にもいい呼び名をつけよう。
そうじゃな……とんがり角きつ目、まるっと大砲胸、色仕掛け色気無し娘、ニ本尻尾髪ッショ娘
でどうじゃ!?」
『はぁ!? 誰が誰よ!』

 この後ハクレイを強烈な術やらが襲うことになる。
 
 ハクレイが術に襲われている同時刻……ベッツェンより更に西付近。

「まじでうじゃうじゃいやがるな。こりゃ直ぐには戻れねぇか。ツヴァイ! もっと上空へあがれ!」
「姉御! こりゃちいっとばかりまずくねえですかい? あのモンスター共、規則的に動いてやすぜ」
「みりゃわかる! 戻ってきてそうそうどうなってやがんだ? そもそもあのモンスター共、どっから
湧いてきやがった」
「キゾナからじゃねえでやしょう。あそこから攻めてきたやつは全て、フー・トウヤが倒しちまいやしたし」
「あれはあれで化け物みてぇなもんだからな。そうすると崩落したベッツェンの地下もしくは……残りの
港町。どっちかだろうよ」
「しかし、いいんですかい。ルインの旦那を送っていかなくても!」
「構やしねぇよ。あいつならてめぇで何とかするだろ。ベルディスの弟子だぞ、あいつぁよ!」
「そうでやした! こっちはあっしらで何とかしやしょう! ルーンの町は俺たちにとっても居心地がいい
場所だ!」
『おーー!』
「ったく。セフィアもいねえからただ働きだってのに。まぁいい。戻ったら尻でも……あん? 
おい、誰か追われてる! 助けに行くぞやろう共!」
『おおー!』

「ふぅ、ふぅ……しっかりしろレェン。お兄ちゃんが絶対守ってやるからな」
「お兄ちゃん……僕、おいて逃げてよ。僕なんか連れてたら殺されちゃうよ」
「何言ってるんだ! 絶対おいてったりするもんか! 兄ちゃんが絶対守るから!」
「グァウウウーーー!」
「燃斗! くそ、火を怖がらない!」
「お兄ちゃん、ごめん。ここで二人死ぬくらいなら、僕はお兄ちゃんを生かしたいんだ」
「ば……ばかやろおおおおおおおおおーーーー!」
「ここまで、ありがと。お兄ちゃ……」
「ウガルウウウーーー!」
「レェン! 燃斗! レェン!」
「ふう。間一髪だ。お前ら、運がいいな」

 兄と思わしき人物が背負っていたレェンという子は、自らの意思で手を離し、兄を振りほどいて
落下した。
 その兄弟を追いかけていたウルフ型モンスターが食いあさろうとしたその時、ツヴァイに乗った
ルシアがレェンという弟を拾い上げ、兄共々ツヴァイへ乗せ、ふっと光を発しながら消える。

 突如消えたように見えたが、ウルフ型モンスターは鼻が利くようで、ルシアのいる上空方向を睨み
続けていた。

「気付かれはしたが、背に腹はかえられねえからな。こいつらを統率してるやつらにも気付かれた
可能性がある。野郎共! このままドラディニア拠点まで戻るぞ! センタ! お前は
キゾナ側に回って泉からルーンの町へ戻って知らせろ! いいな!」
「へい!」
「おいお前ら。全く幸運だったな。この幸運を呼ぶ女、ルシア様に拾われるたぁよ」
「レェン。よかった。ありがとう、ありがとうございます……立った一人残った家族なんだ……」
「僕、助かったの? 僕なんて助けても、何の役にも立たないのに」
「おめぇ……目が……」

 そのレェンという少年は、両目に深い傷があり、塞がっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

前世で家族に恵まれなかった俺、今世では優しい家族に囲まれる 俺だけが使える氷魔法で異世界無双

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
家族や恋人もいなく、孤独に過ごしていた俺は、ある日自宅で倒れ、気がつくと異世界転生をしていた。 神からの定番の啓示などもなく、戸惑いながらも優しい家族の元で過ごせたのは良かったが……。 どうやら、食料事情がよくないらしい。 俺自身が美味しいものを食べたいし、大事な家族のために何とかしないと! そう思ったアレスは、あの手この手を使って行動を開始するのだった。 これは孤独だった者が家族のために奮闘したり、時に冒険に出たり、飯テロしたり、もふもふしたりと……ある意味で好き勝手に生きる物語。 しかし、それが意味するところは……。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た

pelonsan
恋愛
 ここは私立嵐爛学校(しりつらんらんがっこう)、略して乱交、もとい嵐校(らんこう) ━━。  僕の名前は 竿乃 玉之介(さおの たまのすけ)。  昨日この嵐校に転校してきた至極普通の二年生。  去年まで女子校だったらしくクラスメイトが女子ばかりで不安だったんだけど、皆優しく迎えてくれて ほっとしていた矢先の翌日…… ※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

処理中です...