上 下
440 / 1,085
第四章 メルザの里帰り

第三百八十二話 ジャンカの村にて

しおりを挟む
 ムーラと共に泉からジャンカの村方面へ出ると、美しい馬に乗る甲冑の者がいた。

「おおー、あんたがこの村の管理者か?」
「いや、俺は管理者なんかじゃないよ。この村の管理者は……ムーラになるのか?」
「わしは管理などしておらんよ。皆自由に暮らして居るが、多くの子供たちのため
必死に働いておる。兵士もおるし今のところ安全だしな」
「そうなるとメルザってことになるのかな。まぁそれはいいとして。俺はルイン・ラインバウトという」
「ラインバウトじゃと? それは家名か!?」
「ん? ああ。俺の名づけ親はメルザ・ラインバウトって言うんだ。もらい名だ」
「ふうむ。まさか……いや、今はそれどころではなかったんじゃ! わしゃハクレイと申す。
見ての通り騎士じゃが、ハーヴァルに会いに来たんじゃ。しかしハーヴァルはいないと言われて
困っておる。あんたなら連絡が付くと聞いたんじゃが……」
「なんだ、ハーヴァルさんの来客だったのか。これは失礼した。戻ったばかりで少し警戒していてね。
確かにハーヴァルさんは不在だが、言伝でよければ預かるぞ?」
「直接どうしても話さねばならんのじゃ。しかも急ぎでじゃ」
「そう言われてもな。ブネに聞いてみればあそこへの連絡方法もわかるだろうけど、入浴中だしな、きっと」
「入浴とな? ここには泉しかないが、水浴びでもしておるのか?」
「ハクレイさん、あんた身元を示すものか何か持ってないか? そうすれば少し落ち着いた所で話ができるんだけど」
「ふうむ。それではこれでどうじゃ。我が家宝ウィンディソード。見事じゃろう」
「んー、参ったな。メルザがいないからアナライズ出来ない」
「ここに家紋が入っておるだろう。これはウインディ家の証なんじゃが、知らんか……はぁ」
「悪いな。ここトリノポート近隣ならようやく少しわかるようになったけど、それ以外は殆ど知らないんだ」
「無理もない。ここトリノポートは他地域と疎遠じゃ。特にシフティス大陸の者など――――」
「っ! あんた、シフティス大陸から来たのか? どうやって?」
「おや、シフティス大陸はわかるんじゃな。わしはそこのドールアンという城から来たんじゃが」
「シフティス大陸には城があるのか。ドールアン……少し詳しく聞かせてくれないか。
妖氷造形術、椅子、テーブル! 少し冷たいが座ってくれ」
「なんと奇怪な!? 幻術ではなく、妖魔の術使いだったとは。珍しいが相当な実力者とみた! 貴殿の名は!?」
「いやさっき名乗っただろ。俺はルイン・ラインバウトだって」
「そうであった。年を取ると忘れっぽくてのぅ。わしゃ齢七十になる」

 齢七十にしちゃ随分と元気そうな爺さんだが……詳しく話を聞くと、ハーヴァルの父にあたる
人物が危篤。至急戻って欲しいとのことだが、仲が悪いらしい。
 母は既に亡く跡継ぎは弟が次ぐ予定の貴族のようだ。

 シフティス大陸出身だったのか、あの人。
 案内はライラロさんよりハーヴァルさんの方がよかったなぁ……ライラロさんは時々無茶苦茶だし。
 今すぐシフティス大陸に向かうわけじゃないから、戻ってきてくれないかなーと淡い期待をしておこう。

「……というわけでハーヴァルに会うのは難しいんだ」
「いやぶったまげたわい。しかしわしを信用してくれたようで嬉しいぞ、若者よ」
「ルインだって。名前覚えてくれよ!」
「ふうむ。時に若者よ。その町とやらを見ても構わんかのう? わしゃこの愛馬を休ませてやりたくて」
「立派で美しい馬だな。これほどの白馬、生まれて初めてみた」
「そうじゃろう! わしのホイホイは最高じゃろう?」
「今何て言った?」
「ホイホイじゃ、ホイホイ。この馬の名前じゃよ」
「それってどういう意味合いでつけたか聞いてもいいか?」
「おお、よくぞ聞いたり! こいつがまだ小さい時じゃ。わしにホイホイついてきてのぅ。
だからホイホイじゃ」
「……戻ってそうそう、馬に同情することになるとは……」
「同乗したいのか? 構わんぞ?」
「ちげーよ! 改名してやらないか。なんだか物凄く悲しそうにしているぞ、この馬」
「ホイホイはいつもこんな表情だぞ。なぁ、ホイホイ?」

 プイッと横を向くホイホイ。ほら、嫌がってるって! 

「この馬、雌だろう? いくら何でももうちょっと女の子っぽい名前の方がいいだろう。
ブランクーラ……いや、ラーラってのはどうだ? ブランクーラが純白といった意味合いなんだけどさ」
「ヒヒヒィーーーン!」
「おお、お前も気にいったか」
「な、泣いたじゃと? 今まで一度も声を発する事がなかったというに!」
「そりゃ、ホイホイじゃな……今日からお前はラーラだ」

 ラーラはとても嬉しそうに嘶き続けた。

「そうだな、話を聞く限り町には入れてもよさそうだ。驚くと思うが案内しよう。
ハーヴァルさんの知り合いってことは死流七支は知ってるか?」
「聞いてはおるがあったことはないのう」
「そうか。そのメンバーの人にシフティス大陸の案内を頼もうと思っていたんだが,心もとなくて。
爺さん、案内を頼めないか」
「それは構わんが、お主シフティス大陸に行くつもりか? 腕はたつんじゃな?」
「ん、そうだな。この大陸にしちゃそれなりに強いとは思うぞ。
フー・トウヤとかエッジマールっていう化け物クラスもいるけど」
「そりゃ格闘世界最強と鋼鉄王子のことかの?」
「どっちも変な異名があるんだな……まぁいい。とりあえず案内するよ」

 俺はハクレイを連れて、ルーンの町へと戻っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

謎の能力【壁】で始まる異世界スローライフ~40才独身男のちょっとエッチな異世界開拓記! ついでに世界も救っとけ!~

骨折さん
ファンタジー
 なんか良く分からない理由で異世界に呼び出された独身サラリーマン、前川 来人。  どうやら神でも予見し得なかった理由で死んでしまったらしい。  そういった者は強い力を持つはずだと来人を異世界に呼んだ神は言った。  世界を救えと来人に言った……のだが、来人に与えられた能力は壁を生み出す力のみだった。 「聖剣とか成長促進とかがよかったんですが……」  来人がいるのは魔族領と呼ばれる危険な平原。危険な獣や人間の敵である魔物もいるだろう。  このままでは命が危ない! チート【壁】を利用して生き残ることが出来るのか!?  壁だぜ!? 無理なんじゃない!?  これは前川 来人が【壁】という力のみを使い、サバイバルからのスローライフ、そして助けた可愛い女の子達(色々と拗らせちゃってるけど)とイチャイチャしたり、村を作ったりしつつ、いつの間にか世界を救うことになったちょっとエッチな男の物語である! ※☆がついているエピソードはちょっとエッチです。R15の範囲内で書いてありますが、苦手な方はご注意下さい。 ※カクヨムでは公開停止になってしまいました。大変お騒がせいたしました。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

処理中です...