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第三章 舞踏会と武闘会

間話 地底のとある場所にて

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「風が強いな。フェドラート、少しばかり様子を伺って来れるか?」
「勿論です。それはよいのですが、アルカーン。お願いしますから時計作りに関して考えるのを
今は控えてもらえますか?」
「何を言っている。この状況だからこそ考えるのではないか。この風を活かして動く風時計を」

 凄まじく吹き荒れる暴風の中、話し合う二人の妖魔。
 その傍らには美しい長身の妖魔と、剣を持つ男、その横に少し男性よりの雰囲気な女性がいた。

「この峡谷を越えなければフェルス皇国にたどり着けないけど、険しい道だね」
「アネスタよ。この風はお前の肌を傷つけかねない。嫁入り前の娘には少々過酷であろう」
「それはフェルドナージュ様も一緒ですよ。お美しい肌が台無しになってはいけない。
けれど私の術では……」
「風くらい僕が切り裂いてもいいんだけどねぇ。それくらいの器量は持ってるつもりだよ。美しい
お嬢さん方」
「ジオよ。アネスタをじろじろ見るではない。まったく……お主ときたら」
「そんなつもりはないんだけどねぇ!? 僕には心に決めた人がいるんだよねぇ」
「それはなかなか叶わない恋だと思うけど……ベオルブイーターはどうかな、ラート」
「ここらには見当たりませんね。しかしアルケーもこんな道を提案するだけとは。
本当に奈落の者たちは冷たいですね」
「仕方あるまい。我らは一時の客に過ぎぬ。それに、兄上の状況が読めぬ以上、動くわけには
いかぬのだろう。タルタロスも警戒を強めているに違いない。しかし兄上は一体何を考えて
おるのか」
「あのお方はこの地底に恨みを抱いているように思います。それほどまでに……」
「アネスタよ。それ以上は言うてくれるな。わかっているつもりじゃ」
「失礼しました。それでは私もラートと一緒に偵察へ向かいます。ジオ、頼みましたよ」
「任せて欲しいねぇ。美しい方に誰かの指一本、触れさせたりはしないよ」
「君が触れそうで怖いんだけどね……妖雪造形術、銀企鵝」
「ウェーイー!」

 二匹のペンギンんを構築したアネスタ。フェドラートと共にペンギンに乗り動き出す。

「ラート。フェルス皇国までは後どのくらいかわかる?」
「そうですね。シグムント峡谷を越えアルカランの湖を渡り終えたら、ギハイル活火山があります。
そこから地下へ下りる道があるのでそこまで行けば国境に地下から入れるはずです」
「遠いね。やっぱり空中はだめかな」
「厳しいでしょうね。ベオルブイーターが確実に来るでしょう。それにしても、なんだか
嬉しそうですね」
「そうだね。早くあの町に戻りたくて。皆元気にしてるかな。まだ知り合ってそんなに日は
経っていないのだけれど。彼らといると、とても楽しくてね。そういうラートも、いつになく
急いでいるように見えるけど?」
「少々メルザさんが心配で。私がいない間に教養を積んでくれているとよいのですが」
「そっか。ラートはあの子の先生だったね。きっと大丈夫。元気にしているよ」
「ええ、それは間違いないでしょう。教え子を持つというのは面白い感覚ですね。
案外私には合っているのかもしれません」
「そうだね。ラートは教え方が丁寧だし、人気が出るんじゃないかな。一緒にあの町へ住むのは
どうだろう」
「そうもいきません。家には母上もいます。心配するでしょう」
「母上も一緒に……難しいかな。ラート、いつも見ていてくれてありがとう」
「いいのです。どうしても合う合わないはあるでしょう。特に我々は任務で忙しい身。
このフェルス皇国屈指の名家ですからね」

 峡谷を偵察していると、突然銀企鵝が静止する。

「ウェーイー!」
「うん? どうしたんだい? あれは……妖魔か? なぜこんなところに」
「どこの国のものでしょうか。随分とボロボロな衣服。女性……ですね。アネスタにお任せします」
「うん。息はあるようだし、三国の妖魔では無い……と思う。少し調べる必要はあるけど助け
られそうだね」
「道中のモンスターも見当たらないですね。この道は思ったより安全なようです。
一度引き返しましょう」

 二人は倒れていた女性を連れて、再びフェルドナージュたちがいる場所へ戻っていった。
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