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第二章 神と人

第三百十二話 バラム・バロム 三つ首の悪魔

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 審判の門を抜けた先は……恐ろしい程広大な闇の天井空間と、真っ白な舞台のような広い部屋。
 これは間違いなく、最後の間。
 酷い数の試練は受けなくても平気なようだ。
 十分な休息を取った後、奥へと進んだ。

「ブレディー、ここ、最後の間だよな」
「……そう。いや、いきたくない。戦いたく、ない。大好きな、ツインと、一緒。消えたく……ない」
「安心しろ。死んでも死なせない。いや死なないけど死なせない」
「ぎゅって、して」
「ああ。手を離すなよ!」

 ブレディーが消えないよう、ぎゅっと手を握り抱きかかえてやる。
 これならいきなり目の前から消えるなんてことはない……はずだ。

 奥の部屋へとたどり着くと、最奥の壁にはこれでもかというくらい封印されたような紋様が浮かぶ場所が
ある。
 あそこに封印されてるのか? 剣一本取りに来るだけだったのに、どれだけ苦労したことか。

「セーレ、メルザを乗せたまま少し離れていてくれるか。何やらやばい雰囲気だ」
「ヒヒン! 僕も参戦しようかな。したいよね。戦ってないからうずくんだよね。守護者の血だね」
「やるのはいいが、戦うならメルザは俺が預かる。こっちに……」
「ヒヒン! この子を守る結界、多重に張っておいたよ。張らないと死んじゃうよね。だから安心して
戦っていいよ。いいかもね。いいね」
「へぇ……ちっとは気が利く……おいブレディー、しっかりしろ!」
「……汝、剣を求めし者。来たれり。汝に問う。何故力を欲するか。応えよ」
「おいブレディー! しっかりしろ。俺だ、ルインだ」
「汝の名、ルインよ。なぜ力を求める。応えなければ剣を得る資格無し」
「俺はメルザを……いや。そうじゃないな。弱かったんだ。だから……どんな厄災からも
みんなを守れる。そのために力が欲しいんだ。ただメルザや仲間を守る力なんて弱い
願望で、この恐ろしいゲンドールって世界からこいつらを守っていけるわけないんだ!」
「汝、ゲンドールの恐ろしさを感じ取った者よ。その問いに報いるために……」

 ブレディーの体が透き通り、つないでいた手が闇に変わりつかめなくなる。
 どの場所も闇でつかめない。まるで霧のようだ。
 闇の霧が部屋の中央に集まっていく。もう、ブレディーの姿は見えない。
 可愛い幼子だったブレディーは、中央で一つの恐ろしい形態を象っていく。

「おいルイン! なんだこれ? 目が覚めたらなんかすげーことに!」
「悪いメルザ。説明は後だ。体の調子はどうだ? 一緒に、戦えそうか?」
「そりゃ戦えるけどよ。なんだ、あれ。さっきまでいたブレディーはどーしちまったんだ?」
「あれがブレディー。助ける手段はわからないけど、あれを倒さず止める手段を考える。メルザが
いれば百人力だ。一緒に救ってほしい」
「あたりめーだ! ブレディーは俺様の子分だぞ。子分を助けるのは親分の役目だ!」
「それブレディーに言ったら、あいつは喜んで妹だと言い換えるだろうな……剣戒!」

 目の前の闇は徐々に姿を変えていき、一体の悪魔となった。その姿は牡牛、牡羊、人間
の顔を持つ、強大な力を解き放つ恐ろしい姿。ブレディーとは似ても似つかない。

「我が名はバラム・バロム。神剣を求めし者よ。その資格があるかどうか、試させてもらうぞ」
「ふふ、それを聞いたらブレディーなら、二つのバムで、ツバムとでも呼ぶんだろうな……」
「ほう。セーレがおるではないか。数千年ぶりに相まみえようとは。何をしている」
「ヒヒン! 僕は彼の一部だからね。それ以外の事は話さないよ。お楽しみだね。戦いたいよね。君と
やり合うのは久しぶりだね」
「おいおい顔見知りなのか。つまりブレディーをどうにか出来る可能性も、お前なら知ってそうだな」
「どうだろうね。幼子を助ける必要なんてあるのかな。ないよね。僕には全然ないよね」
「人参一年分で手をうってくれないか」
「人参? 何それ。知らないね。食べ物かい。気になるね。考えておこうかな」
「何を喋っておる。この最終試練、見事乗り切ってみせよ」
「ああ、待たせたか。せっかちじゃないところはブレディーと同じだな! いくぞ、メルザ!」
「ああ! なんか俺様、この腕のおかげかすげー事ができそうだぞ」
「期待してる!」

 バラム・バロムへと変化したブレディーとの戦いが今まさに、始まろうとしていた。
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