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第二章 神と人

第三百七話  喋り出す者

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「……て!」

 ……なんか、あちこち裂けるように痛いんだ。

「……て! ねぇ!」

 ……無理だって。ピクリとも動かないよ。


「……て! ねぇって!」

 ……ダメだよブレディー。体、ばらばらになりそうだ。どうにか……ならないか。

「……って! ヒヒン!」

 ……ヒヒン? ブレディー、何言ってるんだ。

「ぅぉぁ……」
「やーっと起きた! 起きた? 起きた? ねぇ!? ねぇねぇねぇねぇ! ヒヒン! 
起きたよね? きっと起きたね? 言葉通じるよね? ヒヒン!」
「……グァ……ぁ」
「その傷だから喋れないんだね? ねぇきっとそうだよね? ねぇねぇ。やっと言葉が通じるけど
どうなの? 散々話しかけてきてたよね? ヒヒン! ねぇベリアル。ベリアル? ベリアル? 
守護者に戻った気分はどう? ねぇどう? どう? どう?」
「……る……せぇ……がはっ」

 こいつ、守護者セーレか。ヒヒーンしか言わなかったのに。なんで急に……。

「ねぇ君は妖魔だったよね? 覚醒? 覚醒遺伝かな? ベリアールとか言われてたもんね?
ねぇねぇ、どう? 失敗して獣落ち? ねぇねぇねぇ?」
「……だ……ま……」
「もっと話したい話したい話したいーー、君を回復するもののもとへ運べればいいよね? いいよね? 
いいんだよね? 僕は優しい守護者だから。ヒヒン! 君の力を無理やり引き出すよ。熱いよ。
熱いけどね。焼けちゃうけどね。仕方ないよね。だって会いたいでしょ。会いたいよね。
試練どころじゃないよね。そんなの後回しさ。そうじゃないと死んじゃうよね。死んじゃうね。ヒヒン」


 突然ルインの獣の体全身に炎が上がり、戦車の形へと姿を変える。
 更に一匹の美しいペガサスが飛び出し、燃える戦車を透明な棒状のもので結びつける。


「ヒヒン!」

 一気に上空の闇へと駆け上り、忽然と姿を消した。
 
「すぐ近くだね。近いよ。早くしないと死んじゃうね。でも不思議。もう死んでたよね。生きてるよね。
なんでだろうね。あの幼子が生かしてるのかな。何したんだろうね。不思議だね。不思議だよね」
「ガアアアアア、熱い、燃える! アガアーーー!」
「もうすぐさ。すぐ着く。神の遣いもいるしね。きっと治るさ。治らないと話せない。困るね。
困るんだよね。早く喋りたいもっと喋りたい」

 神殿の入口に辿り着いたブネの目の前に、突如として現れたペガサスと燃える戦車の獣。
 物凄い剣幕でそれらを見ているブネ。

「あ……あぁ……その服……うそだ。ルインだ……なんで、なんで!」
「守護者セーレだと? まさかコラーダを入手した時に封印していたのか」
「ヒヒーン!」
「ウルグアアアアオオ」
「いかん。イネービュ様はこの形態になることを知っておられたのか?」
「ルイン、ルイン! 俺様だ! わかるか、なぁ。ルインが焼け死んじゃうよ……ブネ様、助けてやってくれよ」
「安心しろ。あの形態、確かに人の形態なら維持できぬが、あれは炎獣形態の時の
守護者ベリアルそのもの。死ぬことはない。
しかしまさか……ベリアール。覚醒とは……皮肉なものだ。
セーレよ、こやつを治せというのか。だが……まずはお主が引っ張っておる形態を解け」

 棒状の物が無くなり、燃える戦車はその場で獣のルインへと戻り、崩れ落ちる。

「っ! まさかディーン。ルインの体内に闇を取り込ませたのか……馬鹿者め。お主の役目は
ティソーナの最後の守り手としてルインに立ちはだかる事だったろうに」
「えっ? ブネ様、今なんていったんだ?」
「あやつの役目は神剣を守る事。ティソーナを得るためには仕方のない事だ」
「そんなこと、ルインに出来るわけねーじゃねーか! あいつは誰よりも仲間思いで優しくて。
それにティソーナ取りに一緒にいけって言ったの、ブネ様じゃねーか!」
「だから言ったろう。二人で一緒にいられると。最後にな。どのみちあの場にとどまっても、最後の
間に辿り着けば勝手にその場所へ移動する」
「そんな……それじゃ結局ブのレディーと戦わねーと手に入らなかったってのか? そんな
力なら、ルインはきっといらないっていう。それもわかってて……」
「そうだろう。だからイネービュ様は何も言わないのだ。ベリアールは心が未熟。
それを心配してのことだろうが……ここまでの事、予想していたのだろうか」

 目の前の黒焦げになった獣のルインを見て、ボロボロ涙を流すメルザ。

「このままだと、ルインが……俺様ができること、俺様がルインを助けないと! 俺様が! 
もう二度と失いたくねー! いやだあー!」

 メルザが大声を出したその時、幻魔ウガヤが召喚された。
 ウガヤは口から大きな玉を吐き出し、その姿が消滅する。

「……お主、アルカイオス幻魔か! それは闘魔の宝玉ではないか」

 メルザは玉を手に持ちルインの許へと駆け寄った。
 だがルインは必死に自分のある部分を示すばかりだった。
 懐に空いた自分の穴に。

「ぁぅぁ……」
「お前なら、わかってくれるよな、メルザ……そう言ってる。ルインは……そう言ってる。
でも、でも俺様……ぁあああ……」

 ルインはきっと、自分に溶け込んだブレディーを直してくれと言ってるんだ。
 俺はいい。ブレディーを助けてくれと。
 生きてるかどうかもわからないのに。
 自分ももう死にそうなのに。
 
「……闘魔の宝玉、ブレディーの傷、治してくれ。生きてたら、全部治してくれ。なぁ頼むよ。
ルインの傷も、ルインも治してくれよ。お願いだよ。一人じゃなきゃだめか? 二人治してくれねーのか? なんなら俺様の残った腕をやってもいい。お願いだよ。お願いだ……」
「ばかもの! その玉がなんだかわかっておるのか? お主の腕……」

 ブネが言うのが遅かった。メルザの腕はふっと消え、メルザはどさりと倒れる。
 ルインの傷が癒え、獣の姿から戻り、ブレディーもルインに重なるよう、その場にドサリと倒れていた。
 その場には、遠く聞こえる馬のいななきの声だけがこだましていた――――。
 
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