上 下
334 / 1,085
三部 主と突き進む道 第一章 海底の世界へ向けて

第二百八十八話 十の間にて

しおりを挟む
 どのくらい意識を失っていたのだろう。横たわっていた俺は、体を起こし、辺りをみる。
 誰かに受け止められたきがしたが……あれ? 先生? 
 少し離れたところに、ベルローゼ先生が座っていた。その姿、様になる。かっこいいなぁ。

「なぜ、ここに……」
「やっと起きたか。そろそろたたき起こそうと思っていたころだぞ。
あの後、あいつらに指導しようとしていたんだが、突然この部屋に引き寄せあれた。
神の力だろうな。何の抵抗も出来なかった。そしてここで、貴様の行動をずっと見させられていた」
「そう……だたんですね。先生、聞いてください……俺、竜を、一人で」
「ああ、見ていた……おい、平気か? しっかりしろ。おい! 神よ! 試験はもういい。
このままだとこいつは死ぬ。戻って治療させろ」
「殺すのが目的ではない。だが本人の意志とは別。その提案は受け入れられぬ」
「ルイン! 貴様ここで死ぬつもりか。戻るぞ! つかまれ!」
「落ち着け、ベルーファルクの血を受け継ぎし者たちよ」
「……たちだと? どういうことだ。そしてなぜ神に関わる者が祖父の名を知っている」
「話をする前に、最後の間、ここ十の間における、その者の試練を終わらせよう」
「どういうことだ。こいつはもう……真化が始まっているだと?」

 ルインはそのボロボロの体にも関わらず、ゆっくりと起き上がる。本人の動きとはまるで違う
操られるような動きだ。

「さぁ最終試練といこう。参るぞ。ベルーファルクの力を受け継いだ者よ。
その身をかけて、戦え。この者を救いたいのならな」
「……弟子は返してもらう」
「術だけで我と戦うつもりか。まぁよい。参るぞ」

 ルインはコラーダを手に、左腕にしがみついた巨大な鳥をベルローゼへと放つ。
 鳥のクチバシは恐ろしい妖気を放つ武器。
 右腕に渦巻く海水を上空へ挙げ術を唱えた。

「妖漆黒海星の蕾……赤海星の殺戮群」

 辺り一面に黒い花が咲き、それらに海水が注がれ、それらはオートメーションにベルローゼへ
黒い種を放出した。さらに赤い星型の化け物が無数に降り注ぎ、ベルローゼへ迫る。

「赤白の盾、吸……まずい、赤白の鎌!」

 ベルローゼはそれらを全て吸収する……しかし吸収した盾はどんどん黒く染まっていく。
 赤くうごめく生物へは赤白の鎌が飛来して次々切断していった。

「黒星の盾、放」

 黒く染まった赤白の盾を、今度は黒星の盾が吸収した。飛翔する鳥へ黒い種が解き放たれ、墜落する。

「ふむ、まだまだよのう。やはり人の体はもろい」
「化け物め……あいつをこれ以上傷つけるわけにはいかん。どうすれば……」
「妖赤雪造形術、赤雪鬼レッドスノーオーガ
「グオオオオオオオオ!」
「黒星の双鎌!」

 ルインが造形した恐ろしい程赤いソレは、黒星の鎌で切断される事が無く、逆に力を取り込んだ。

「くっ、術の相性が悪い。黒曜石は託した……む、なぜ黒曜石の剣を使わん」
「さぁいけ! ……なぜ攻撃せぬ。戦え!」
「……? どうした。なぜ向かって来な……」

 その瞬間、赤雪鬼は、ルインの右足を切り裂いた。さらにみぞおちに拳を叩き込み、赤雪鬼は消滅した。

「おい! 何をしている!」
「せん……せい。俺は、なんで……やめ……てくれ。傷つけるくらい、なら……俺を殺」
「こやつ、造形術を使用するとき、感情を入れおったな。ただの玩具だろうが。なぜゆえそこまで
己が身内の者を守る術を考えうるのか」

 正気に戻ったルインとは別の何かが、ルインから離れ姿を現した。
 その存在は明らかに人を超越している。

「貴様が海星神の使いなのか」
「ふふふ。いいだろう、試験は終わりだ。
エーナ、ディオ、トゥリス、テーセラ、ペンデ、エークシ、エプタ、オクト、エンネア。
ご苦労だった。治癒を」
「いいのかいブネ。本当に力を与えちゃってもさ。ティソーナまで手に入れたら神にすら手が届くよ」
「構わぬ。この者の頭の中は、大切な者を守る事以外空っぽだ。イネービュ様の元へ連れて行く」
「もう一人、こいつも生かしておいてよかったのかい」
「よい。こやつにも力を与える」
「マミムメモ。ヤ、ユ、ヨしなよ。怒られるよ、きっと」
「黙れ、貴様らはさっさと治癒せぬか。こやつが死んだらそれこそ全員消滅させられるぞ!」
「けっ。俺はこいつを助けるのなんざ嫌だがね。仕方ねえな」
「神に嫌われ、神に愛される者よ。敬意を持って接しよう。
だがこの体ではもうおれぬ。妖魔と、神の間の存在。人の子は天の使いとも呼ぶが……
妖神魔種として生きるがよい。
かつてのベルーファルクとフェルドランスのように」
「一体どういうことだ。わかるように説明しろ。俺とルインをどうするつもりだ」
「貴様ら二人はこれから妖神魔となる。だが妖神魔といえど老いれば力は失われる。
この者の治癒が済んだら話してやろう。この者が何者なのかを。
なぜ貴様らをここに呼んだのかを。世界の理を。その後、仲間と共にイネービュ様の
許へ連れて行く」
「……わかった。俺では神に対してどうすることもできん。だが……いや、今はいい」

 ベルローゼはその場に座り込み、ルインの治癒を待った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。 エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。 俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。 処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。 こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…! そう思った俺の願いは届いたのだ。 5歳の時の俺に戻ってきた…! 今度は絶対関わらない!

【R18完結】愛された執事

石塚環
BL
伝統に縛られていた青年執事が、初めて愛され自分の道を歩き出す短編小説。 西川朔哉(にしかわさくや)は、執事の家に生まれた。西川家には、当主に抱かれるという伝統があった。しかし儀式当日に、朔哉は当主の緒方暁宏(おがたあきひろ)に拒まれる。 この館で、普通の執事として一生を過ごす。 そう思っていたある日。館に暁宏の友人である佐伯秀一郎(さえきしゅういちろう)が訪れた。秀一郎は朔哉に、夜中に部屋に来るよう伝える。 秀一郎は知っていた。 西川家のもうひとつの仕事……夜、館に宿泊する男たちに躯でもてなしていることを。朔哉は亡き父、雪弥の言葉を守り、秀一郎に抱かれることを決意する。 「わたくしの躯には、主の癖が刻み込まれておりません。通じ合うことを教えるように抱いても、ひと夜の相手だと乱暴に抱いても、どちらでも良いのです。わたくしは、男がどれだけ優しいかも荒々しいかも知りません。思うままに、わたくしの躯を扱いください」 『愛されることを恐れないで』がテーマの小説です。 ※作品説明のセリフは、掲載のセリフを省略、若干変更しています。

【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年 \ファイ!/ ■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ) ■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約 力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。 優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。 オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。 しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈ 学園イチの嫌われ者が総愛される話。 嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。

邪悪な魔術師の成れの果て

きりか
BL
邪悪な魔術師を倒し、歓喜に打ち震える人々のなか、サシャの足元には戦地に似つかわしくない赤子が…。その赤子は、倒したハズの魔術師と同じ瞳。邪悪な魔術師(攻)と、育ての親となったサシャ(受)のお話。 すみません!エチシーンが苦手で逃げてしまいました。 それでもよかったら、お暇つぶしに読んでくださいませ。

【R18】超女尊男卑社会〜性欲逆転した未来で俺だけ前世の記憶を取り戻す〜

広東封建
ファンタジー
男子高校生の比留川 游助(ひるかわ ゆうすけ)は、ある日の学校帰りに交通事故に遭って童貞のまま死亡してしまう。 そして21XX年、游助は再び人間として生まれ変わるが、未来の男達は数が極端に減り性欲も失っていた。対する女達は性欲が異常に高まり、女達が支配する超・女尊男卑社会となっていた。 性欲の減退した男達はもれなく女の性奴隷として扱われ、幼い頃から性の調教を受けさせられる。 そんな社会に生まれ落ちた游助は、精通の日を境に前世の記憶を取り戻す。

Sランクパーティーから追放されたけど、ガチャ【レア確定】スキルが覚醒したので好き勝手に生きます!

遥 かずら
ファンタジー
 ガチャスキルを持つアック・イスティは、倉庫番として生活をしていた。  しかし突如クビにされたうえ、町に訪れていたSランクパーティーたちによって、無理やり荷物持ちにされダンジョンへと連れて行かれてしまう。  勇者たちはガチャに必要な魔石を手に入れるため、ダンジョン最奥のワイバーンを倒し、ドロップした魔石でアックにガチャを引かせる。  しかしゴミアイテムばかりを出してしまったアックは、役立たずと罵倒され、勇者たちによって状態異常魔法をかけられた。  さらにはワイバーンを蘇生させ、アックを置き去りにしてしまう。  窮地に追い込まれたアックだったが、覚醒し、新たなガチャスキル【レア確定】を手に入れる。  ガチャで約束されたレアアイテム、武器、仲間を手に入れ、アックは富と力を得たことで好き勝手に生きて行くのだった。 【本編完結】【後日譚公開中】 ※ドリコムメディア大賞中間通過作品※

迅英の後悔ルート

いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。 この話だけでは多分よく分からないと思います。

処理中です...