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三部 主と突き進む道 第一章 海底の世界へ向けて

第二百八十四話 第四、第五、第六の間 追いかけて追い求めて

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 先の道へ進んだのだが、第四の間は見えてこない。進めど進めど一直線に伸びる白い道。
 これもまた試練の一環なのだろうか。全部で十の間があるときいたが……。

 しばらく進むと、前方に人影のようなものが見える。ここからでは遠くてよくわからない。
 少し歩く足を速めた。しかし距離は一向に縮まない。
 蜃気楼か何かなのだろうか。どうしても追いつきたかった。なぜだろう、とても不安になる。
 いつしか俺はかなりの速度で走っていた。相当な速さで。ほんの少しだけ近づいただろうか。
 その人物は紅色の髪をしている。俺の不安が脳裏によぎる。こんなところにいるはずがないのに。

「待ってくれ。メルザなのか? なんでここに。みんなは? 心配になってきちゃったのか?」
「……って」
「くそ、聞こえない。もっと、もっと速くだ!」

 バネジャンプを駆使して跳躍をいかし距離を詰めようとするが、縮まらない。

「……って」
「はぁ……はぁ……待てよ」

 二時間はそうして動いただろうか。一向に追いつける気配はない。

「……って」
「はぁ……はぁ……待てって……はぁ……はぁ……いってるだろ」

 そこからさらに二時間は走っただろうか。速度は大分落ちた。距離は変わらない。

「……って」
「あきらめろって言いたいんだろ! 諦めるか! うおおおー--!」

 俺は再び全力で走った。目の前にメルザがいるなら、その手をつかむまであきらめたりはしない。
 それが俺の信念。どのような試練だとしても。
 このままじゃ追いつけない。
「妖氷造形術、氷の靴」

 俺は自分の靴を氷で固めて滑るようにした。この地面は摩擦が薄い。行けるはずだ。
「赤海星の水鉄砲!」

 後方に水鉄砲を放ち一気に滑る! 

「……って言ったのに」
「だから、諦めないって」
「違うって言ったのに」
「はぁ?」
「ふふふ、でもあんたは諦めないんだね。その道をひたすら向かうその姿勢。
最高だね」
「追いつかなきゃいけないんじゃないのかよ……はぁ。だが、追いついたぜ」
「どうしたら追いつけるのか、工夫をした。ただ追い求めるだけじゃなくね。次も頑張って。
あんたならやってのけるさ。そう信じてるから」

 パリーンという音と共に道が崩れ、今度は下に落ちた。
 着地すると広い部屋に出る。。

 その部屋にはリルとサラがいた。どうしてだ? どう見ても本人そのものだ。

「やあ。待っていたよ」
「遅いわね。来ないかと思ったわ」
「二人とも、なぜ?」
「問答無用。行くよ!」
「そういえばやりあったこと、なかったわね!」

 二人が襲い掛かってくる! くそ、どうなってる。
 俺にこいつらを攻撃出来るわけないだろ。

「二人ともやめろ! くそっ、妖楼!」
「ほらほら、避けてるだけじゃ死んじゃうかもよ?」
「いいのかしら。さっきの髪の子があなたを待ってるんでしょ?」
「待ってるのはメルザだけじゃない。みんなだ!」

 左右から迫る二人の格闘連撃を躱す。動きまでそっくりで、ふわりと空中に浮かびながら攻撃
してくる。
 そう、本当に。本当に見慣れた動きだ。俺の記憶にある二人そのもの。
 俺は攻撃を回避し続けた。

「邪眼!」
「の弱点は視界領域から外れること」
「邪術釣り糸」
「の弱点は射程が短く、この糸は事前に斬撃で斬れることだ」
「やるね。僕らの事、よく理解している動きだね」
「本当よ。まったくあたらないわね」
「あの頃とは大違いだろ? 俺が強くなれたのは、二人を助けに向かえたからだ。
リル、サラ。ありがとう。二人と出会えて俺は強くなれた」
「僕らに襲われても君は攻撃しないんだね」
「止める手立ては考える。だが攻撃はしない。防ぎきってみせる」
「でもこの次はもっと苦しいかもしれない。それでも君なら」
「それでもあなたなら」

 再びパリーンと割れる音とともに、さらに下へ落ちる。
 俺の心にある二人。たとえ心にある二人だとしても傷つけたりはしない。


 着地した先には、怪我をして苦しんでいる猫のような生き物がいた。

「な!? くそ、なんて試験だよ。こんな……おい、しっかりしろ!」
「ぐるるる……」
「大丈夫だ。俺はお前を傷つけたりしない。おい! このままじゃ死んじまうじゃないか!」

 反応はない。まさか、死の瞬間に立ち会えっていうのか。やめろ、やめろ!

「やめろおおおおおお! たとえ見知らぬ小動物でも、こいつが一体何をしたっていうんだ。
なぜこんなことをする! くそ、カノンがいれば……俺は、俺にはお前を癒す術がない。
せめて止血を……ああ。だめ、だめだ。すまない、すまない」

 しかし、次の瞬間、周りには傷だらけの動物が沢山いた。
 残酷すぎるその光景に目を伏せる。
 そして声が聞こえた。

「目を伏せるな、人の子よ。主らは尊い命の上に座す生命体の頂点。
意識せずとも日々動物を殺し、喰らい生きている。己が見なければそれで済むと思うな」
「だからって、罪のない動物をむやみに殺すばかりが人間じゃない! 
己が襲われれば戦うし、生きるために食べることはある。だからって!」
「なれば主の前世ではどうだった。むやみに殺し、奪い、喰らい、捨て。
便利だからとそれらの命を粗末にしてきたろう」
「ああ。社会の流れは変わらない。人はそれが良くないと知りつつも、少数の意思で世界の
流れは変えようがない。人は愚かで無力。そして便利を求める。それでも、命を尊む心は
誰しもが持っているはずだ。あんたが言うことは正しい。それでも救える命は救いたい。
俺はそう思う」
「ではなぜ目を伏せる。目の前の光景を受け入れよ。命は摘まれまた咲く。
芽吹く命、失う命。それらはどちらも同じだ」
「生まれる事と死ぬ事が同じだとでも?」
「然り。生の中に死は存在し、死の中にまた生は存在する」

 目の前の死の連鎖。ただ苦しいだけでしかない。みな苦しそうに死んでいくその様を
どう見たらいいかわからない。だが俺は知っていた。
 幼い頃から入院生活だった。四人の部屋。うめき声をあげて亡くなる人が沢山いた。
 そう、たったの十歳足らずで多くの人の死を見てきていた。
 苦しいがその苦しみに耐えられるだけの精神力、そんなもの、持ちたくなかったのに。

「多くの苦しみを知るものよ。努々忘れるな。死は終わりではない。
そして生もまた始まりではない。苦しみを与えてすまなかったな」
「いや、人はそうやって成長していくってこと、こっちの世界にきて忘れていたよ。
思い出させてくれて、ありがとう」

 再びパリーンと割れる音がして、俺は下へと落ちていった。
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