302 / 1,085
第四章 戦いの果てに見出すもの
間話 過去編 連続話 シーザー・ベルディス ライラロとの出会い~その五
しおりを挟む
「おいライラロ。そこの獣人二人連れて裏口から出ろ。俺が注意を引く」
「いやって言ったでしょ。もう離れないんだから!」
「勘違いするんじゃねえ。俺も後で合流するからよ。北側の門で落ち合うぞ」
「……絶対来るのよ。来なかったら許さないんだからね」
「ああ。こんな場所さっさとおさらばして甘い菓子でも頬張りたい気分だぜ。石を投げたのを確認したら
動きだせ。いいな」
……フーはいいとしても軍隊が俺たちを見逃すたぁ思えねぇ。奴隷落ちしてたこいつらがどうなるかも
わからねぇ。せっかく助けたのに取っ捕まったんじゃ寝ざめが悪くてしょうがねぇ。
物陰から石を軽く投げて合図すると、さっそうと踊り出る。
「おいフー! 聞こえるか! 俺ぁシーザーだ。話を聞け!」
「……あなたたちはここで待機。私をご指名のようだ。獣人……それもしゃべるウェアウルフ族ですか。
はて、シーザーを名乗っているが……どういうことだ」
「しかし隊長。危険では……どうみても獣人です。すぐ始末すべきです」
「つまり無抵抗や無害のものでも容赦なく殺せと? そのようなこと、断じて我が部隊では
許さないと伝えたはずです」
「しかしですね……隊長の命令はあまりにも」
「ではあなたには我が部隊を退任して頂いて結構。副隊長のあなたがそのような態度では、部隊の
規律が乱れます。本日限りで解任します」
「くっ……本日限りだと……」
隊員にそう告げたフーは、ウェアウルフへ向かい歩き出す。
屈強そうなウェアウルフ。戦えばかなり手強いだろう……と思っていたが、すぐに緊張は解けた。
「おいフー。俺ぁシーザーだ。証拠にてめぇとの在学中に、アホ王子とやらかした事件の数々を聞かせてやろうか」
「っ! なぜそれを……ウェアウルフは喰らった人間の姿を模倣して人を襲うと聞いていたが、本人の
意思までは飲み込めない。本当にシーザーだとでも言うんですか?」
「ああ。妙な事件に巻き込まれた。この体はウェアウルフだが、ベルディスの悪夢とかいう神の禍いにやられた」
「……にわかには信じられないが、シーザーの特徴には一致する。詳しく聞かせてくれないか」
シーザーはこれまでの出来事を話した。
「つまり他にも獣人がいるのですね……あまり言いたくはないのだが、先ほども一人、部下を
解雇したばかり。簡単に亜人や獣人を殺そうとする。今のあなたでは殺されてもおかしくない。そうそうに
この大陸を逃げなさい」
「そのつもりだ。おめぇが見えたがそのまま出ていくのは危険と判断して、裏口から三人逃がした。
予想は当たっていたようだ」
「その方たちは今どこに?」
「北門に向かわせた。エデンから他大陸へは遠い。きつい旅になるぜ、まったく」
「あなたならきっと逃げのびれるでしょう。トリノポートへ行けば獣人や亜人が多い。
無事逃げれるように私もサポートを……」
「必要ねぇよ。おめぇは軍人。俺ぁ奴隷商の護衛。昔も言ったはずだぜ。余計な気遣いは無用だ、フー。
おめぇと俺が語らうのは戦っている時だけ。そのときが最高に楽しくおめぇと会話できる時だってな。
まぁ俺の方が強くなってるかもしれねぇがな。ガッハッハ」
「ふふふ。ウェアウルフになっても、あなたは変わっていないのですね。人助けをして獣に落ちる。
実にあなたらしい。本当に在学中あなたと友になれてよかった。私も決めました。
軍をやめ、一介の武人としてあなたと戦うために修行をすると。十年……そう十年後に落ち合いませんか? 場所はデイスペル。もちろん、勝負をするという事で、です」
「そんな先の話、覚えてるかわからねえがいいだろう。アホ王子は連れてくるなよ? あいつの固さは反則だぜ」
「彼は彼で忙しいようですから、私たちだけの秘密にしましょう……む、何かおかしい。
ばかな!? 私の部下が勝手に火を?」
「ちっ。そこまで獣人、亜人を嫌うかよ。おいフー! おめぇは部下をまとめあげろ! さすがにおめぇの
部下は殺したくねぇ。もうこの都には俺以外三人しか残ってねぇはずだ。火なんかつけても……」
「その三人が狙いかもしれない! 急ぎなさい! 私は部下を止めてくる!」
急いで動き出す二人。北門に向かったシーザーは、木の上にいるライラロたちを見つける。
「うぉおおおおおお! こっちだクソ人間が! せっかく生かしたやつらを殺そうとするんじゃねえ!」
「獣人如きが。どうせもうこの軍隊にはいられん。始末してやる」
スラリと剣を引き抜き構える兵士。だが背を向けたのが悪かった。
「水竜の息! あんたばかね!」
「燃斗」
「氷斗!」
「ぐはっ……なんだと……こんなガキが幻術……」
「オラァ! 命はとらねぇ、気絶してろ!」
もんどりと崩れ落ちる兵士。危なかった。だが次が来るとも限らねぇ。都内は既に火の海。
フーなら大丈夫だろうが、大した食料も持ってねぇままだ。
兵士が意識のないことを確認して木を背もたれにして置いておく。武器はちゃっかりもらっておいた。
「ベルディスーーー! 受け止めてーーー!」
「なっ!? ライラロてめぇ、どんな降り方してきやがる。はしたねぇ」
「何いってるのよ。待たせるあんたが悪いんじゃない。さぁこんな場所、さっさと出ましょ」
「あの、僕たち……」
「一緒にいっていいのですか?」
「はぁ。おめぇらもまとめて来い。亜人、獣人に住みやすいっつー場所まで行くぞ。おめぇら名前は?」
「……わかりません」
「僕もわからないです」
「……んじゃスラっとしたそこの木みてぇな女がシャージャ。
そこの石みてぇな髪色のおめぇさんはハジャルでどうだ」
「ええ。命を助けて頂いたあなたがつけてくれるなら。私はシャージャです。よろしくお願いします」
「僕、女の子だけどハジャルってちょっと男の子っぽいです」
「何よあんた。ベルディスがつけちゃった名前に文句でもあるの?」
「いいえないです。よろしくお願いします。あの、ご主人様。食べ物沢山持ってきちゃいました」
「おぅ、でかしたぞハジャル。さぁ兵士に見つかる前にとっととずらかるぞ」
こうして彼らは無事エデンを脱出して旅に出る。
ライラロは固い決意を胸に、ベルディスと共に歩みだす。
未来永劫彼を夫にするために。
「いやって言ったでしょ。もう離れないんだから!」
「勘違いするんじゃねえ。俺も後で合流するからよ。北側の門で落ち合うぞ」
「……絶対来るのよ。来なかったら許さないんだからね」
「ああ。こんな場所さっさとおさらばして甘い菓子でも頬張りたい気分だぜ。石を投げたのを確認したら
動きだせ。いいな」
……フーはいいとしても軍隊が俺たちを見逃すたぁ思えねぇ。奴隷落ちしてたこいつらがどうなるかも
わからねぇ。せっかく助けたのに取っ捕まったんじゃ寝ざめが悪くてしょうがねぇ。
物陰から石を軽く投げて合図すると、さっそうと踊り出る。
「おいフー! 聞こえるか! 俺ぁシーザーだ。話を聞け!」
「……あなたたちはここで待機。私をご指名のようだ。獣人……それもしゃべるウェアウルフ族ですか。
はて、シーザーを名乗っているが……どういうことだ」
「しかし隊長。危険では……どうみても獣人です。すぐ始末すべきです」
「つまり無抵抗や無害のものでも容赦なく殺せと? そのようなこと、断じて我が部隊では
許さないと伝えたはずです」
「しかしですね……隊長の命令はあまりにも」
「ではあなたには我が部隊を退任して頂いて結構。副隊長のあなたがそのような態度では、部隊の
規律が乱れます。本日限りで解任します」
「くっ……本日限りだと……」
隊員にそう告げたフーは、ウェアウルフへ向かい歩き出す。
屈強そうなウェアウルフ。戦えばかなり手強いだろう……と思っていたが、すぐに緊張は解けた。
「おいフー。俺ぁシーザーだ。証拠にてめぇとの在学中に、アホ王子とやらかした事件の数々を聞かせてやろうか」
「っ! なぜそれを……ウェアウルフは喰らった人間の姿を模倣して人を襲うと聞いていたが、本人の
意思までは飲み込めない。本当にシーザーだとでも言うんですか?」
「ああ。妙な事件に巻き込まれた。この体はウェアウルフだが、ベルディスの悪夢とかいう神の禍いにやられた」
「……にわかには信じられないが、シーザーの特徴には一致する。詳しく聞かせてくれないか」
シーザーはこれまでの出来事を話した。
「つまり他にも獣人がいるのですね……あまり言いたくはないのだが、先ほども一人、部下を
解雇したばかり。簡単に亜人や獣人を殺そうとする。今のあなたでは殺されてもおかしくない。そうそうに
この大陸を逃げなさい」
「そのつもりだ。おめぇが見えたがそのまま出ていくのは危険と判断して、裏口から三人逃がした。
予想は当たっていたようだ」
「その方たちは今どこに?」
「北門に向かわせた。エデンから他大陸へは遠い。きつい旅になるぜ、まったく」
「あなたならきっと逃げのびれるでしょう。トリノポートへ行けば獣人や亜人が多い。
無事逃げれるように私もサポートを……」
「必要ねぇよ。おめぇは軍人。俺ぁ奴隷商の護衛。昔も言ったはずだぜ。余計な気遣いは無用だ、フー。
おめぇと俺が語らうのは戦っている時だけ。そのときが最高に楽しくおめぇと会話できる時だってな。
まぁ俺の方が強くなってるかもしれねぇがな。ガッハッハ」
「ふふふ。ウェアウルフになっても、あなたは変わっていないのですね。人助けをして獣に落ちる。
実にあなたらしい。本当に在学中あなたと友になれてよかった。私も決めました。
軍をやめ、一介の武人としてあなたと戦うために修行をすると。十年……そう十年後に落ち合いませんか? 場所はデイスペル。もちろん、勝負をするという事で、です」
「そんな先の話、覚えてるかわからねえがいいだろう。アホ王子は連れてくるなよ? あいつの固さは反則だぜ」
「彼は彼で忙しいようですから、私たちだけの秘密にしましょう……む、何かおかしい。
ばかな!? 私の部下が勝手に火を?」
「ちっ。そこまで獣人、亜人を嫌うかよ。おいフー! おめぇは部下をまとめあげろ! さすがにおめぇの
部下は殺したくねぇ。もうこの都には俺以外三人しか残ってねぇはずだ。火なんかつけても……」
「その三人が狙いかもしれない! 急ぎなさい! 私は部下を止めてくる!」
急いで動き出す二人。北門に向かったシーザーは、木の上にいるライラロたちを見つける。
「うぉおおおおおお! こっちだクソ人間が! せっかく生かしたやつらを殺そうとするんじゃねえ!」
「獣人如きが。どうせもうこの軍隊にはいられん。始末してやる」
スラリと剣を引き抜き構える兵士。だが背を向けたのが悪かった。
「水竜の息! あんたばかね!」
「燃斗」
「氷斗!」
「ぐはっ……なんだと……こんなガキが幻術……」
「オラァ! 命はとらねぇ、気絶してろ!」
もんどりと崩れ落ちる兵士。危なかった。だが次が来るとも限らねぇ。都内は既に火の海。
フーなら大丈夫だろうが、大した食料も持ってねぇままだ。
兵士が意識のないことを確認して木を背もたれにして置いておく。武器はちゃっかりもらっておいた。
「ベルディスーーー! 受け止めてーーー!」
「なっ!? ライラロてめぇ、どんな降り方してきやがる。はしたねぇ」
「何いってるのよ。待たせるあんたが悪いんじゃない。さぁこんな場所、さっさと出ましょ」
「あの、僕たち……」
「一緒にいっていいのですか?」
「はぁ。おめぇらもまとめて来い。亜人、獣人に住みやすいっつー場所まで行くぞ。おめぇら名前は?」
「……わかりません」
「僕もわからないです」
「……んじゃスラっとしたそこの木みてぇな女がシャージャ。
そこの石みてぇな髪色のおめぇさんはハジャルでどうだ」
「ええ。命を助けて頂いたあなたがつけてくれるなら。私はシャージャです。よろしくお願いします」
「僕、女の子だけどハジャルってちょっと男の子っぽいです」
「何よあんた。ベルディスがつけちゃった名前に文句でもあるの?」
「いいえないです。よろしくお願いします。あの、ご主人様。食べ物沢山持ってきちゃいました」
「おぅ、でかしたぞハジャル。さぁ兵士に見つかる前にとっととずらかるぞ」
こうして彼らは無事エデンを脱出して旅に出る。
ライラロは固い決意を胸に、ベルディスと共に歩みだす。
未来永劫彼を夫にするために。
0
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる