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第四章 戦いの果てに見出すもの

第二百五十五話 覚悟を決めた妖魔皇女

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「空蛇……しっかりするのだ、メルザよ。起きよ!」
「ううーん、ここ……は」
「我が蛇の上ぞ。無事か、よかった」
「フェル……様? フェル様! ああ、血がこんなに。どうしよう。カノン!」
「カノンも傷を負い、リルが連れておる。まさかあやつが一兵卒に身を落としてまで
復讐しようとは……油断した」
「カドモスは? へーきなのか?」
「平気ではない。再生するのに随分と時間がかかろう……アネスタよ。メルザを頼む」
「そんな! お供させてはもらえないのですか?」
「ダメじゃ。命令だ。メルザを守れ……こやつは我が妹も同然。失いたくないくらい愛しくなってしもうた」
「……はっ。全てはフェルドナージュ様の意のままに」
「えっ? フェル様? そんな怪我でどこいくんだ? だめだぞ、俺様が」
「眠蛇の夢」
「フェル……さ……」

 フェルドナージュは愛おしい妹を撫でるようにメルザの髪を撫でた。
 大切な妹。フェルデシア。今一度こうしてお前の髪を撫でる事が出来たのを、嬉しく思う。

「フェドラートを回収し、リルとカノンとで合流しろ。後の事は全てベルローゼに託すと。
ジオにつけたアルカーンに、兵士を避難させるよう指示を出せ。ピュトン……参るぞ。妖神・真化」
「ああ、フェルドナージュ様……もう私の声は耳に入らないのですね……」


 フェルドナージュ全身を蛇が覆いつくし、一体の禍々しい存在へ向かっていく。
 アネスタにはその背を見送る事しか出来なかった。どの妖魔もその御身にはせ参じる事叶わず。
 空間が歪められ、その二体の存在だけが入ることを許される領域へと変貌する。


「決着をつけるときが来たようだ、蛇女。俺はまだベルータスのままだぜ。
てめぇは違う意思じゃねえのか?」
「童は童。下劣なるお前が呼び起こしていい存在ではない」
「はっ、満身創痍でボロボロのてめぇがよく言うぜ。クックック! ぶち殺してやる!
霧爆霊!」

 モヤ状の零体が無数フェルドナージュを取り囲み襲うが、全て蛇が薙ぎ払い、届く前に起爆されていく。

「蛇ノ意思」

 黄色い目を光らせた巨大な蛇群がベルータスを一気に取り囲むが、攻撃が全て霧と化し、当たらない。

「ラーンの捕縛網」

 領域全体を覆うほどの蛇網が展開される……が、ラーンの捕縛網は対象を見つけられない。

「クックック。いいじゃねえか霧神。憎悪が、悪夢が、残虐が! 俺たちは最強のタッグだぜ! 
怨念呪縛!」
「ピュトン、参るぞ」

 ピュトンは霊気ガスを噴出し、周囲に色を付けた。実体を認識したラーンの捕縛網が
ベルータスを攻撃する。しかし……捕縛できない。

「いったろ、実体がねえんだよ! もうおめぇの攻撃は効かねぇ! 呪縛濃霧怨霊!」

 無数の濃霧が発生して、ピュトンを攻撃していく。
 左腕に絡まり攻撃していたピュトンに濃霧がまとわりつく! 
「勝負ありだ。怨霊爆散!」
「うぐっ! おのれ……」

 フェルドナージュの左腕ごとピュトンを吹き飛ばした。神話級アーティファクト、怨念の勾玉。
 ベルータスと完全に一致したこのアーティファクトこそ最大級のベルータスの武器。
 勝ちを完全に確信したベルータスは姿を現し、表情が残忍に歪む。

 【いやだ、俺様が守るんだ】

 その一瞬だった。決して狙ったわけではないだろう。偶然に過ぎないその一発が全てを変えた。

燃紅蓮斗モルグレンド

 燃斗級絶級幻術が、姿を現したベルータスの勾玉を撃ち落とした。

「メル……ザ? なぜじゃ、眠らせたはずなのに。しかも一人、空中に浮いておる」
「アアアァァァ! 詠唱遮断。ウガヤ! 幻魔獣クレルクラージャ、ミストラージャ、ユビルラージャ招来」
「なっ!? なんじゃこの生物たちは。メルザ、お主まさか……これは幻魔の真化か?」
「てめえええええ、俺の怨念の勾玉が! くそ、拾いにいかねえと!」
「させるか! 今の貴様なら容易にとらえられよう! ラーンの捕縛網!」

 無数の蛇が飛翔してベルータスをとらえる。霧化もできていない。

 三体のラージャという奇妙な形をした飛翔竜種がベルータスを取り囲み……口から紅色のブレスを
一気に吐いた! 

「ぐおぉおおおお! 俺の計画はまだ終わ……」

 ラージャはベルータスをチリにまで消滅させ、フッと姿を消す。

「まずい! メルザ!」

 フェルドナージュは片腕で、落ち行くメルザを抱きしめる。

「助けられた。そしてメルザよ。この腕を見よ。其方と同じじゃ。ふふっ、またこうして其方の顔を
見れるとは、思わなんだのう。フェルデシアよ、まだそちらには行けぬようじゃ。今しばらく
お主の生まれ変わりのようなこの子を、守り続けようぞ」

 二人はゆっくりと地上へ降りていった。空には暗雲が立ち込めており、いつしか雨が降り注いでいた。
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