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第三章 知令由学園 後編

第二百二十七話 旅立ち前の道中で

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 アネスタをルーンの町へ案内したルインは、身支度を整えていた。
 モラコ族の癒しと町の設備、そして温泉に入ってしまったアネスタは
ここで生活することを決意して、家を出る支度をするため一度戻っている。

「おいメルザ、そろそろ出発するぞ。俺達だいぶ出遅れた。
ルシアが道中運んでくれるみたいだぞ」
「なんか義手の調子が悪くてよ。ボタン止めてくれよ。この服着連れーんだ」
「わかった。今度片手でも着やすい服、考えて作ってもらおう」
「ほんとか? やったー! ところでパモにいっぱい食料つめたのか?」
「ああ。どう考えても食いきれないと思うぞ」
「いっぱいある方が安心するからよ。えへへ、腹へってきちまったぜ」

 我が主は相変わらず食いしん坊です。

「アネスタが戻ってきたよ。二人とも行こうか」
『ああ!』

 俺たちは知令由学園方面から外に出た……が、そこには見覚えのあるやつが
待ち構えていた! 

「ジオ、お前!」
「おーっと待ってくれ。色々説明したいがここはまずくてねぇ。
安心してくれ、敵じゃない」
「あんな所に連れて行ってよく言えるな。死ぬところだったぞ」
「手違い……いや、さらわれたんだよねぇ。君を兵士にして協力してもらう
つもりだった。頼む、ここはまずいんだ。
どこに向かうかわからないが一緒に連れてってくれ」
「リル、こいつ縛れるか?」
「僕が動けなくなるけどいいかい?」
「ああ。縛ったら連れていく、それでいいか?」
「構わない。急いでくれ」

 リルの術でジオを縛り、ルシアと部下にお願いしてキゾナ大陸の遥か西へ出発した。

「まさかあのタイミングでジオと遭遇するとはな。
お前一体何者だ?」
「……それよりこの乗り物はなんだ? もしかして外部から見えないのか?」
「ああ。光を発して見えづらくさせる乗り物のようだ」
「そうか、これなら安全な場所に一時避難できるかねぇ。
今から話すことをすぐ信じるのは難しいかもしれない。
こう見えて私は円陣の第一王子、エッジマールウルキゾナだ」
「……第一王子? お前が?」
「そうだ。ジオとエッジマール二つの顔を持っていてねぇ。
あまり同一人物だと思われていない」
「それでなぜベルディアと俺に近づいた」
「この国の現状は知っているかい? かなり良くない状態でねぇ」
「円陣の都には殆どいなかった。いい印象はないな。それはこの大陸全体
でだが。」

 少し悲しい表情を浮かべるジオ。自分の国の印象が悪ければ落ち込むのも無理はない。
 だがこの大陸を好きにはなれない。現状は酷い有様だと思う。

「この国は昔から亜人を嫌う習慣がある。今ではもっと酷い状態だ。
特にここ近年、父上は人が変わられたように指示を出し始めた。
そして今、トリノポートへ攻め入ろうと計画している」
「なんだって!? どういうことだ。戦争を始めるつもりか?」
「ああ、平たく言ってしまえばそうだ。だが戦争ではなく一方的な侵略となる。
あちらの大臣と内通している」
「くそ、ジムロのやつが国を売ったのか!」
「君は何か知っているのか!?」
「俺たちはあの国出身といってもいい。故郷のようなものだ。
そのジムロってやつをどうにかする算段を立てるべく行動してるんだよ」
「本当か? ならニンファについても何か知らないか?」
「ニンファ? 確かイーファ……王様の娘だろう? 王女といえばいいのか?」
「そういうことじゃない。彼女は無事なのか? ずっと探している。
ジムロの周辺にはいないようなんだ。安否を確かめたくて」
「ルインよ。その者は間違いなくエッジマールだ。私の可愛い娘に惚れ込んでいて
手紙をしょっちゅう破いていた」

 イーファ、それは少し酷くないか? 

「お前の身元や言い分はわかった。それでどうしたいんだ、これから。
戦争を止める方法とかあるのか?」
「あれは父上ではない。正体さえ暴ければ止められるはずだ。だが恐らく
あれは化け物。この瞬剣のジオ一人では歯が立たない。君に協力してほしくてねぇ。
それで色々強さを確認していたのさ」
「そうだ! お前封印か何かしたろ! トウマが使えなくて大変だったんだぞ?」
「ん? あれは効かなかったはずだけど。後で解除を試みてみよう」
「なールイン。もしかしてジャンカの森とか三夜の町とかあぶねーのか? 
俺様心配だよ……」
「そうさせないためにもちゃんと材料持ち帰らないとな! ドーグル、もう一度
イーファと繋げてくれ」
「わかった。といってももうなれたからいつでも語り掛けるがよい」
「どうした? 可愛いスライムの私にまだ用事が?」

 あくまで可愛いを強調するあたり、既にスライムがお気に入りと思える。

「ジオについて聞きたいんだが、こいつ信用していいと思うか?」
「ニンファにはまだ指一本触れさせておらぬ。大切な娘故男選びは慎重にさせる
つもりなのだ。特にこの大陸は亜人に厳しいからな」
「敵の可能性や、イーファにたてつく可能性は?」
「それは無いだろう。特に私には絶対的服従精神を見せる。何せニンファの親だ」
「そ、そうか。ならイーファの事を話しても?」
「この状況なら問題なかろう。話して協力を仰ぎみるとよい」

 イーファの許可をもらったので、現状をジオに説明すると顔が真っ青になる。

「き、君は王様を封印して抱え込んでいるのかい? とんでもないことをするねぇ。
あのイーファウルトリノが従者に……呆れて空いた口がふさがらない」
「成り行きだって。こうするしかなかったしな。イーファも納得してくれているよ。
リル、縛りは解いてもよさそうだ」
「いいの? そんな簡単に信用しても」
「耳を貸してくれ……ごにょごにょ」
「へぇ、それなら平気だね。わかったよ」
「……一体何をふきこんだのかねぇ。まぁ自由になれるならいいか」

 自分がニンファに惚れているという事を知られているにも関わらず気にしないジオ。

「おい暴れるんじゃねえぞ。暴れたら叩き落すからなてめぇ」
「おっかないお嬢さんだねぇ。さて改めまして。イーファ王! 僕です! 
エッジマールウルトリノです! お元気でしたか!? ニンファ様はどちらに? 
ああ、謁見出来る日を楽しみにしておりました」
「おいリル、やっぱ縛ってくれ。うるさい」
「そうだね、現地に着くまでは縛っておこう」
「ちょっと待て! せめて挨拶させてほしい!」

 問答無用で縛り上げ、ジオをおとなしくさせた。
 メルザとリルのゆったりとした三人旅を味わえると思ったが、ルシアとアネスタも入れると
結局俺も入れて六人の大パーティだ。
 しかも封印にはイーファにパモにドーグルもいる。
 賑やかな空の旅はまもなく終わる。
 目的地であるキゾナ大陸の深溝の樹海という、大きな木が
群生する地帯へ降りていった。
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