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第三章 知令由学園 後編

第二百十七話 勇気を出せ

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 ルインの術によって流されたイビン。
 落とさないように必死にマァヤとベルディアを抱える。

「うわぁあーーー! ルインー! ルイーーーン! 助けて、誰か助けて! 
死んじゃうよー! 怖いよぉー! ……うわぁーー! 僕より、僕よりルインが死んじゃうよ!」

 上空には移動牢の足と思われる物がある。動きは遅いが
危険極まりない。
 
 海水により流されていたが徐々に収まっていく。
 どこまで流されたのだろう。先ほどまでいたモンスターは見当たらない。
 だが円陣の都とはまるで違う方向だとイビンにはわかる。

「と、とにかく二人を休ませないと。あの洞窟へ運ぼう!」

 洞窟内は狭く、明かりもない。
 だが宝箱が偶然にもあり、恐る恐る開けた中に洋服と槍が入っていた。

「ごくり。の、呪われてたらどうしよう……ぞーっ……でもこのままじゃあの子風邪引いちゃうし
僕のナイフ、どっかいっちゃったし……怖いよぅ……」

「ブシャアーー!」
「ぎゃーーー、わーーー! な、何今の!? どどど、どうしよう」

 洞窟の外から奇声が上がる。一匹の大きな魔吸鼠が洞窟の周辺にいた。

「ま、魔物だ。気付かれたらどうしよう。こここ、怖いよう。助けてよルイン……ルイン……」

 僕は臆病だ。何にも出来やしない。
 ずーっとそうだったんだ。

「おーいイビン。俺達がさぼってる間ちゃんと見張ってろよ」
「見張るだけなら出来るだろ? どうせモンスターなんて気やしねえよ」
「来たとしても、お前が泣き叫べばちゃんと来てやるよ。雑魚だもんなお前。ぎゃっはっは」
「ぼぼ、僕一人じゃ無理だよう……一緒に来てよー……」
「いいからいけよ。俺たちゃ折角手に入れた遊び道具で賭けするんだ。早く行け」

 一人で行った見張りでモンスターに襲われた。僕は逃げまわった。
 責任を一人で背負い込み、移動牢へ配属された。そこでも同じような目にあった。

 その最中、普通の女の子が同僚に連れ去られそうになった。僕は悪い事を防ぐために
兵士になったのに。ここの兵士達は悪い事ばかりしているように見える。

 助けに行くか迷ってる途中で変な人に襲われた。脱走犯だと思う。死ぬかと思った。
 でも僕は助かった。それにその人の仲間があの子だって言われた。

 僕は流されてばかりだ。怖がって、逃げて、気付いたらこんな所にいた。
 彼は牢屋に捕らわれたはずの人なのに、牢屋を破って女の子を助けに向かう途中だったんだ。

 凄く特別な人に思えた。怒鳴られ、勇気づけられ、僕は助けたいと思った子に
手を差し伸べる事が出来た。

「お前には弱い者を守ろうと必死になる才能が
あるように見えた」

 そう言ってくれたルインの言葉で、生まれて初めて認められた気がしたんだ。

「雑魚だもんなお前」「俺らが助けてやるよ」「ぎゃっはっは」
「役立たず」「弱虫」「泣いてばっかり」「兵士なんて向いてない」

 誰も僕になんか期待してなかった。弱くて泣き虫で、逃げてばっかりだったのに。
 彼の前でもそうだったのに。

「俺達が落ちるのを助けてくれた婆さんを救え! ベルディアを今度こそ助けてみせろ! 行けぇーー!」
 
 彼だけが、僕を信じてくれた。頼ってくれたんだ。
  
「頼んだ……ぞ」

こんな僕を! 僕なんかを頼って大切な仲間を預けたんだ! 

「うわあああーーーー! 僕は守る! ルインに託された二人を! 命に代えても守るんだぁぁ! 
僕はイビン! ルインの一番弟子になるんだぁあーーー!」

 槍を携え一直線に魔吸鼠へ突っ込む。
 巨大な魔吸鼠に突き刺さるが、同時に爪で顔を攻撃され血が噴き出る。

「ぐっ 痛ぐない、痛ぐないよぉ! ルイン、ルイーン! お願いだ、僕に勇気と力を! 今だけでいいがら!」

 イビンの左腕がつよくえぐれる。だがイビンは負けなかった! 

「うわあああーーー! 絶対にお前を倒すんだ! ルイン! ルインーー!」
「ブシュウウーー!」
「うぐう! あああああああーー!」

 イビンは渾身の力を込めて突き刺した槍を上空へ引き上げ、魔吸鼠の身体を持ち上げ切り裂いた。

 イビンは強くない。だが槍には特殊な効果が付与されていた。
 その槍の名前は憧れの槍。
 憧れたものに対する思いのたけが強ければ強い程、持つ者へ力を与えてくれる。
 魔吸鼠は倒れた。
 そしてイビンも血まみれでその場に倒れた。
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