上 下
243 / 1,085
第三章 知令由学園 後編

第二百十二話 落ち行く四人

しおりを挟む
「うわあーーーーーーーーー、死んじゃうようーー!」
「イビィーーー-ン! 落ち着けー-ー-!」

 俺たちは数万メートルほどの高さからフリーフォール中。
 婆さんとベルディアをしっかり抱え、しがみつかれている。
 このまま落ちればニーメ作の靴といえどぺちゃんこになるのは間違いないだろう。
 だが俺には頼れる仲間、巨体のドラゴントウマさんがいるのだ。


「よーし、トウマ頼むぞ!」
「キュピィ?」
「キュピィじゃなくて頼むぞトウマ!」
「キュピィ?」
「……」
「キュピィ?」
「ちょっとトウマさん? どうしたってんだ!? 
なんだそのキュピィ? とかいう可愛らしい返事は! いつも通りやばそうな
ギイイイイイイイはどうした!? 
喋ってないけど! いつも喋ってないけども!」
「キュピィ?」

 おかしい、トウマがおかしい。なんでこうなったんだ。
 トウマの封印は、ベルディアがあられもない姿でしがみついてるから確認
できない。

「うおーー、やべぇ、詰んだ。緊急事態だわ。婆さん! 
さっき術がどうとかいってたよな? なんとかしてくれ!」
「なんだってぇ!? 着地できないのかい? 全く仕方ないねぇ。 
わかったよ。上の坊やはあんたがなんとかしな。
……雄大なる魔の世界より這い出て力となれ。
汝を纏う水の塊となり、浮き上がれ。
シャボンボール!」

 突然俺達の身体を球状の水が包み込み
ゆっくり降りて行けるようになる。
 このままだとイビンがフリーフォールでここを貫通する。
 

「ドーグル! あいつ念動力で拾えないか?」
「やってみよう。あやつ一体だけならどうにかなるかもしれん」
「わああああああああ、僕だけ死ぬよおおおお、いやだよおおおお! たずけてよおおおお!」
「おいベルディア。俺に足だけかけて受け止めてやれ」
「いやっしょ。あいつタイプじゃないし」
「言ってる場合か!」
「いやだもーん。ルインにくっついてるっしょ」
「婆さん! たのむ!」
「年寄りに無理させるんじゃないよ!」
「私が受け止めよう。この可愛いスライムボディなら受け止められる」
「イーファ! 王様なのにすまない」

 イーファを水珠の中に出して落ちてくるイビンに位置を合わせる。

「念動力! ふぬ!」

 イビンの動きがかなりゆっくりになり、水玉を貫通して中に入る。
 そのままポヨンとイーファが受け止める。

「うわあーーーー! 魔物だーー! スライムだー--! 襲われる! 助けてぇーー!」
「おいおい、助けたのはその魔物の方だぞ! イーファに感謝しろって」
「そもそも君が落ちても大丈夫っていったんじゃないかー! 死ぬかと思ったよ……でもありがとう」
「そうだった。いやー予定違いで。着地したら確認しよう」

 俺たちは水玉中でふわふわ揺れながら下へ落ちるのを待つ。
 定員オーバーなのか、それなりの速さで落ちているが
 この高さからであればペシャンココースはまぬがれるだろう。

「にしても婆さんの術凄いな。魔術なんてこの大陸に来るまでほとんど見る事がなかった。
便利なもんなんだな」
「わしは適性がある水の魔術しか使えんよ。他に無数の魔術があるうえ、この大陸には
多くの魔術使いが存在する。見る事も多くなろうて。水術に関してはそれなりの腕じゃよ」
「私も魔術なんて全然見たことなかったし。使ってみたいっしょ」
「ベルディアは適性あるか調べてないのか?」
「調べてないっしょ。兄貴が術に興味なかったから」
「そういやベルドとミリルの方は大丈夫なのかな。ジオのやつが最後、仲間は平気とか
言ってた気がするが、信用できないし」
「もうちょっとで地面に着きそうだよ。
こんな怖いのはもうこりごりだよ……」
「あんた、情けないっしょ! それでも男?」
「ぼ、僕は臆病なんだ。自信もないし……」
「ふん。ルインみたいになれるよう頑張るっしょ」
「む、無理だよ。彼みたいにはなれっこない」
「そう自分で決めつけても仕方ないだろ? それに今すぐ変わる必要はない。
俺だってずっと自分を役立たずだって思っていた。
それより警戒しておけ! ここは町じゃない。いつモンスターに襲われても
おかしくないんだ」

 と話していたら、パチンっと突然水珠が割れた。

『えっ』

 まだ高さがある。
 俺が一人でイビン、ベルディア、婆さんを抱える。
「わあーーー! やっぱり死ぬーー!」
「三人は重い! イビン放り投げていいか?」
「私、ダイエットするっしょ……ひど」
「年を取ると瘦せづらくてねぇ」
「ぼ、僕は軽いよ! 力ないし! 捨てないでよ!」

落ちている場所が悪い! 草の無い木が真下にある!

「うおー! 剣戒! コラーダ、木を切ってくれぇぇぇ!」
 
 真下にあった木をコラーダで両断した。
 そのままだと絶対痛い! 

「念動力! わらが木をどかす!」
「ぱみゅー!」
「おい、パモ。合図ないのに出てきたら危ないぞ!」
「何この生物!?」

 パモが動かしきれなかった木材を吸い込んだ。
 この高さなら普段跳躍して落ちてるくらいの高さだ……が重かった。
 少しばかり足を痛めた。

「パモ、地上で勝手に出るといつ狙われるかわからないからちゃんと中にいてくれ」
「ぱ、ぱみゅう……」
「手伝ってくれる気持ちは嬉しいが、お前に何かあったら
メルザが悲しむぞ」

 俺はパモを撫でまわした後封印に戻した。
 
 ……しかし大変だったがどうにかみんな無事だ。

「まじ死ぬかと思ったし。落下はこりごりっしょ」
「すまんのう。わしも魔力の限界じゃった」
「僕、高所恐怖症になったよ……ちょっと休もう」
「いやー、すまん。本来ならドラゴントウマって仲間を出して
着地するはずだったが、なんか出てこなくて」

 俺は全員を地面に下してトウマの様子を確認しようとした……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。 エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。 俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。 処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。 こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…! そう思った俺の願いは届いたのだ。 5歳の時の俺に戻ってきた…! 今度は絶対関わらない!

【R18完結】愛された執事

石塚環
BL
伝統に縛られていた青年執事が、初めて愛され自分の道を歩き出す短編小説。 西川朔哉(にしかわさくや)は、執事の家に生まれた。西川家には、当主に抱かれるという伝統があった。しかし儀式当日に、朔哉は当主の緒方暁宏(おがたあきひろ)に拒まれる。 この館で、普通の執事として一生を過ごす。 そう思っていたある日。館に暁宏の友人である佐伯秀一郎(さえきしゅういちろう)が訪れた。秀一郎は朔哉に、夜中に部屋に来るよう伝える。 秀一郎は知っていた。 西川家のもうひとつの仕事……夜、館に宿泊する男たちに躯でもてなしていることを。朔哉は亡き父、雪弥の言葉を守り、秀一郎に抱かれることを決意する。 「わたくしの躯には、主の癖が刻み込まれておりません。通じ合うことを教えるように抱いても、ひと夜の相手だと乱暴に抱いても、どちらでも良いのです。わたくしは、男がどれだけ優しいかも荒々しいかも知りません。思うままに、わたくしの躯を扱いください」 『愛されることを恐れないで』がテーマの小説です。 ※作品説明のセリフは、掲載のセリフを省略、若干変更しています。

【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年 \ファイ!/ ■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ) ■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約 力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。 優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。 オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。 しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈ 学園イチの嫌われ者が総愛される話。 嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。

邪悪な魔術師の成れの果て

きりか
BL
邪悪な魔術師を倒し、歓喜に打ち震える人々のなか、サシャの足元には戦地に似つかわしくない赤子が…。その赤子は、倒したハズの魔術師と同じ瞳。邪悪な魔術師(攻)と、育ての親となったサシャ(受)のお話。 すみません!エチシーンが苦手で逃げてしまいました。 それでもよかったら、お暇つぶしに読んでくださいませ。

【R18】超女尊男卑社会〜性欲逆転した未来で俺だけ前世の記憶を取り戻す〜

広東封建
ファンタジー
男子高校生の比留川 游助(ひるかわ ゆうすけ)は、ある日の学校帰りに交通事故に遭って童貞のまま死亡してしまう。 そして21XX年、游助は再び人間として生まれ変わるが、未来の男達は数が極端に減り性欲も失っていた。対する女達は性欲が異常に高まり、女達が支配する超・女尊男卑社会となっていた。 性欲の減退した男達はもれなく女の性奴隷として扱われ、幼い頃から性の調教を受けさせられる。 そんな社会に生まれ落ちた游助は、精通の日を境に前世の記憶を取り戻す。

Sランクパーティーから追放されたけど、ガチャ【レア確定】スキルが覚醒したので好き勝手に生きます!

遥 かずら
ファンタジー
 ガチャスキルを持つアック・イスティは、倉庫番として生活をしていた。  しかし突如クビにされたうえ、町に訪れていたSランクパーティーたちによって、無理やり荷物持ちにされダンジョンへと連れて行かれてしまう。  勇者たちはガチャに必要な魔石を手に入れるため、ダンジョン最奥のワイバーンを倒し、ドロップした魔石でアックにガチャを引かせる。  しかしゴミアイテムばかりを出してしまったアックは、役立たずと罵倒され、勇者たちによって状態異常魔法をかけられた。  さらにはワイバーンを蘇生させ、アックを置き去りにしてしまう。  窮地に追い込まれたアックだったが、覚醒し、新たなガチャスキル【レア確定】を手に入れる。  ガチャで約束されたレアアイテム、武器、仲間を手に入れ、アックは富と力を得たことで好き勝手に生きて行くのだった。 【本編完結】【後日譚公開中】 ※ドリコムメディア大賞中間通過作品※

迅英の後悔ルート

いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。 この話だけでは多分よく分からないと思います。

処理中です...