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第二章 知令由学園 前編

第百八十六話 入学手続き

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 建物の中に入ると、一面真っ白な壁に、謎の文字がびっしりと書かれている部屋だった。
 全て何かの効果を発動するためのものだろう。

 ライラロさんの話だと、ここで色々な術を学ぶ事もできるとか。
 俺が今までに見た魔術はおそらくカカシが使った術だ。
 詠唱が必要だが効果は一定。契約を要して発動する。
 幻術や妖術と違って発動までに時間がかかる。

 少々使いづらい気もするが、ここで覚えれば俺でも使えるのか? 
 魔法と聞くとちょっと期待してしまう自分がいる。

 なにせゲームや小説では定番中の定番。例えば……
 大いなる雷の神よ。我が意を持って真なる敵を打ち滅ぼせ!
 電撃! とか出来たらやってみたい。地球でやれば笑いものか頭のおかしい人物確定だろう。
 中二病というキャラ認定も否めない。だがそれが現実に発動可能となればこぞってやるだろうな。


 ……と考えにふけっていると、受付の人が早く来いよ目線で見ているのでさっさと向かう事にする。

「ようこそ知令由学園へ! ライラロさん、お待ちしておりましたよ! 受付のユーミルです。皆さんよろしくね!」

 明るく元気な受付嬢だ。視線が怖いけど。

「あらユーミル。あんた受付始めたの? もう学園卒業したわけ?」
「はい! 先生からもうよい……といわれました! ここで働き始めてまだまもないですけど
頑張ってます!」
「ふーん。それって諦められたんじゃない? まぁいいわ。それより入学の手続きよろしくね。
随分増えたけど」
「当初の予定だと二名とのことでしたけど、何名様でしょうか? お名前と合わせて教えてくださいね」
「ルイン・ラインバウト、メルザ・ラインバウト、ファーフナー、ニーメ、サラカーン、リルカーン、フェドラート、ベルローゼ。全部で八人だ」
「ふむふむ。苗字からお二人がご夫婦。他の方は親族でしょうか。ライラロさんは再受講ですからこちらもお金がかかります。全部で九名分なのでレギオン金貨九枚頂きますね!」
「な!? ちち、ちがう! その、家族だけど。まだ妻じゃない!」
『私が妻よ』
「あの、全員家族でいですから。これお金です。話を進めて」

 このパターンになると話が進まないのでさっさと説明をしてもらうことにした。
 入学費用でこの金額なら相当安い。必要となる物がほぼ持ち込みだからか? 
 レギオン金貨の価値はおおよそ前世の三万から五万といったところだろう。

「単純に入学するだけならこれでいいのですが、受講するにあたり試験が必要ですし
お金もかかります。
試験を受けるのに少額のお金がかかります。じゃんじゃん受けていってくださいね! 
そうしないと私達の賃金が心配ですし!」

 ストレートな子だ。わかりやすくていいけど。
 学校の受講項目は大まかに武芸、術、知識、教養、製作技術。
 武芸も術も闇に関わる術以外ならどれでも使用は自由。
 学べる内容を知る前に、まずは試験を受ける必要があるようだ。

「試験は明日からになりますので、西側にある白い本の建物でご宿泊くださいね! 
お安くなっておりますので!」

 ここでも商売気質バリバリだ。抜け目がないというか経営不振なのだろうか? 

 俺たちは言われた通り全員宿に向かう。白い巨大な本は建物の中で一番大きく
多くの人がここで宿泊しているのだろう。沢山ある受付の中から空いている場所を選び
宿泊手続きを済ませた。
 明日早速試験があるらしく、入学の時にもらったプレートのようなものを受け付けに見せると
スムーズに部屋に案内される。ここからは個室だ。よかった。

 全員に明日の朝落ち合う旨を伝えて俺は部屋へと赴いた。
 といってもカノンやドーグル、イーファは俺の封印の中なんだが。
 明日に備えて装備のメンテナンスをしていると、ライラロさんがフェドラートさんを
連れて入ってきた。

「フェドラート、お願い」
「承知しました。妖結界防音」

 部屋に防音が張られる。要件はイーファの件だろうな。

「お願いがあるのよ。王様と直接話がしたいのだけれど出来るかしら?」
「ああ、ドーグルの念話で出来るよ。少し待ってくれ」
「わらの準備なら出来ている。話してみるといい」
「ありがとう。意思で会話できるのよね」
「ああ。やってみてくれ。俺はフェドラートさんと少し話があるんだ」
「はい、何でしょうか?」
「俺に付けていた位置を把握するマジックアイテムって複数保有していたりします?」
「ええ。あれは私が作成した物ですから。必要であれば人数分ご用意できますよ」
「そうだったんですか? でしたら全員分お願いしたいんです。監視したいわけじゃなく
安全が確認されるまでの間だけです」
「そうですね。この大陸は少々過激です。用意しておきましょう。
私からもお願いを一つよろしいですか?」
「ええ、俺に出来る事なら」
「では。この学園にいる間は、表立って強力な妖術を使用しないで貰いたいのです。
弱い妖術であれば問題ありませんが、中級妖魔以上が地上にいる事を知られるのはあまり
好ましくありません。出来る限り伏せてもらいたいのです」
「わかりました。リルやベルローゼさんにはもう?」
「はい。彼らは承諾済みです」

 やはり地上で使用すると目立つしな……そうすると俺は術がほぼ使えない事になる。
 うまいことモンスターの技を一部偽装して出せばいける……か? 

「終わったわ。これからしばらく私は別行動をとって、王を戻す方法を
探ってくるわね。必ずあるはずよ」
「本当ですか!? イーファがスライムのままだと意思疎通するのも大変なので助かります。
よろしくお願いします」
「ええ。あなた達はまず明日の試験に一つでも合格しなさい。そうすれば古代樹の図書館
の一部が利用できるわ。
私はこの学園で学べる事がもうないから。恋愛関係は特に完璧ね」
「いえ、そちらは一から学んだ方が……」
「じゃあ行くわ。邪魔したわね。フェドラートもありがとう」
「では私も戻ります。ゆっくりお休みください」

 相変わらず大事な部分を聞いてない……! 

 ……全員去り、一人アクリル板を確認する俺。
 学園に行きがてら買ってきた食糧などをカノンに渡して
 少し早く眠りにつくことにした。
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