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第二章 知令由学園 前編
第百七十五話 絶壁の先はどう進む?
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「……ぼうやのお守りは……どこへ行った。
あの山こえて、里へ行った」
……懐かしい声を聴きながら、俺は少しずつ意識がはっきりしていく。
「おはよ……う。無事ね?」
目を開くと、そこには疲れ切った少女がいる。
すぐ横にはリルがいた。今は眠っているようだ。
全員、生きてる。捕らわれていない。
「カノン、すまない。ずっと看病を……っつ」
「まだ、動かない方が……いいわ」
「駄目だ、お前寝てないだろう? 封印する」
「酷いわ。……ううん。あれでよかったのよね。きっと」
「すまないとは思った。出入りは自由だ。ただ、俺達と生きていかなきゃいけない」
「ううん。いいの。私にはもう、帰る場所も、何も、無かったから……」
「そうか。だったら俺達がお前の家族だ。今はもう休め」
「そうするわ。リルさんの事、よろしくね」
彼女を封印して休ませる。俺はリルの方を見た。
酷かった傷も大分良くなった。リルも封印しておこう。
その方が安全だ。
ミドーを見ると、なんら問題なく元気だ。
俺は一体どのくらい寝てたんだろう。お腹がすごい減っている。
持っていた食料はあるがそう多くはない。予定より
かなり遅れているのだけは確かだ。
全員起きたら食事を取れるようにしないと。
「生きてただけで御の字だ。全く。行く先々でこうも不幸にみまわれるかね」
やるせなさを吹き飛ばすように呟き、俺はミドーの方へ行く。
こいつにも感謝だな。
「有難う、ミドー。俺達を守ってくれて」
「シュルー」
表情はないが嬉しそうだ。
さて、あの後どうなったんだろうな。
俺はどうにかカノンを封印出来ないか試したところ
無事封印出来た。最悪そこから囮を使って逃げる予定だったんだが
そこから先の事は覚えていない。
ミドーを穴の入口から移動してもらって外を見ると、だいぶ明るかった。
早朝かな。置いてあるアドレスを
蛇籠手に収納して身体全体の調子を確かめた。
ここでじっとしていても埒が明かない。
俺はミドーに乗り、先を急ぐことにした。
空洞を出ると、食いちぎられたような跡がそこら中にある。
林のほとんどにかぶりついた傷跡が残ったままだ。
暗くて見えなかったところもあるが、こんな形だったか?
しばらく道なりに進む。
道中襲われるか心配はしたが、ミドーのおかげか敵に襲われず
この林を抜け出る事ができた。
目の前にあるのは文字通り幸福の絶壁。どの辺が幸福なんだ?
名付けた奴の意味がわからないな。
この断崖絶壁、上から落ちればまず助からない。助からない? ああ、そういうことか。
死ねば幸福。生きている間は捕らわれの地獄。そう言いたいのか。
だが死んで生まれ変わった俺には理解できない。
幸福かどうか決めるのは自分だ。死んでも不幸な場合はある。
生まれ変わりたての頃は、不幸で地獄だった。
人との出会いが俺を変えた。それでも手を振り払い共に行動しなければ
不幸のままだったかもしれない。
自分自身で切り開いて幸福をつかみ取るしかないんだ。
そのために互いが歩み寄り生きていけばいい。
俺が死ぬ前に全くやらなかったことを、俺は二度目の生で行うことができた。
だからこその幸福。失う訳にはいかない。
幸福の絶壁を見ながら先へ進むと……巨大なトンネルがあった。
警戒しつつ中を覗き込む。
一本道だと待ち伏せには有利。姿を消せる幻馬車と違い俺たちは丸見えだ。
常闇のカイナがまだいるかも知れない。一本道は通りたくない。
疲弊した状態で正規ルートは避けるべきだ。
少し思案しながら絶壁を見上げる。
いくつか上方に穴が開いてる。
何かの巣だとも考えられるが一応確認しよう。
「バネジャンプ」
俺は蛇佩楯とバネジャンプの応用で高く飛翔する。
ニーメの靴のおかげで着地に痛みもない。
穴の空いた場所を見ると、中は真っ暗だった。少し入ってみようとしたが……何かいる!
土の塊? いや青銅? すんどうか何かか? 突然襲ってきた!
不用心だったか。慌ててバックステップで回避する。
「ここまで上がって襲いに来たか、人間!」
「っ! 喋れるってことは意志疎通できるのか? こいつ」
「何を言ってる! どうせ追い回して殺しを楽しみにきたのだろう?」
「違う! そもそも俺は人間じゃない! 敵対するつもりもない!」
「なぬっ。人間じゃないと? ちみは人間に見えるが」
動きを止めた。どうみてもそいつは土偶だ。
青銅で出来たへんてこなのが喋っていた。
あの山こえて、里へ行った」
……懐かしい声を聴きながら、俺は少しずつ意識がはっきりしていく。
「おはよ……う。無事ね?」
目を開くと、そこには疲れ切った少女がいる。
すぐ横にはリルがいた。今は眠っているようだ。
全員、生きてる。捕らわれていない。
「カノン、すまない。ずっと看病を……っつ」
「まだ、動かない方が……いいわ」
「駄目だ、お前寝てないだろう? 封印する」
「酷いわ。……ううん。あれでよかったのよね。きっと」
「すまないとは思った。出入りは自由だ。ただ、俺達と生きていかなきゃいけない」
「ううん。いいの。私にはもう、帰る場所も、何も、無かったから……」
「そうか。だったら俺達がお前の家族だ。今はもう休め」
「そうするわ。リルさんの事、よろしくね」
彼女を封印して休ませる。俺はリルの方を見た。
酷かった傷も大分良くなった。リルも封印しておこう。
その方が安全だ。
ミドーを見ると、なんら問題なく元気だ。
俺は一体どのくらい寝てたんだろう。お腹がすごい減っている。
持っていた食料はあるがそう多くはない。予定より
かなり遅れているのだけは確かだ。
全員起きたら食事を取れるようにしないと。
「生きてただけで御の字だ。全く。行く先々でこうも不幸にみまわれるかね」
やるせなさを吹き飛ばすように呟き、俺はミドーの方へ行く。
こいつにも感謝だな。
「有難う、ミドー。俺達を守ってくれて」
「シュルー」
表情はないが嬉しそうだ。
さて、あの後どうなったんだろうな。
俺はどうにかカノンを封印出来ないか試したところ
無事封印出来た。最悪そこから囮を使って逃げる予定だったんだが
そこから先の事は覚えていない。
ミドーを穴の入口から移動してもらって外を見ると、だいぶ明るかった。
早朝かな。置いてあるアドレスを
蛇籠手に収納して身体全体の調子を確かめた。
ここでじっとしていても埒が明かない。
俺はミドーに乗り、先を急ぐことにした。
空洞を出ると、食いちぎられたような跡がそこら中にある。
林のほとんどにかぶりついた傷跡が残ったままだ。
暗くて見えなかったところもあるが、こんな形だったか?
しばらく道なりに進む。
道中襲われるか心配はしたが、ミドーのおかげか敵に襲われず
この林を抜け出る事ができた。
目の前にあるのは文字通り幸福の絶壁。どの辺が幸福なんだ?
名付けた奴の意味がわからないな。
この断崖絶壁、上から落ちればまず助からない。助からない? ああ、そういうことか。
死ねば幸福。生きている間は捕らわれの地獄。そう言いたいのか。
だが死んで生まれ変わった俺には理解できない。
幸福かどうか決めるのは自分だ。死んでも不幸な場合はある。
生まれ変わりたての頃は、不幸で地獄だった。
人との出会いが俺を変えた。それでも手を振り払い共に行動しなければ
不幸のままだったかもしれない。
自分自身で切り開いて幸福をつかみ取るしかないんだ。
そのために互いが歩み寄り生きていけばいい。
俺が死ぬ前に全くやらなかったことを、俺は二度目の生で行うことができた。
だからこその幸福。失う訳にはいかない。
幸福の絶壁を見ながら先へ進むと……巨大なトンネルがあった。
警戒しつつ中を覗き込む。
一本道だと待ち伏せには有利。姿を消せる幻馬車と違い俺たちは丸見えだ。
常闇のカイナがまだいるかも知れない。一本道は通りたくない。
疲弊した状態で正規ルートは避けるべきだ。
少し思案しながら絶壁を見上げる。
いくつか上方に穴が開いてる。
何かの巣だとも考えられるが一応確認しよう。
「バネジャンプ」
俺は蛇佩楯とバネジャンプの応用で高く飛翔する。
ニーメの靴のおかげで着地に痛みもない。
穴の空いた場所を見ると、中は真っ暗だった。少し入ってみようとしたが……何かいる!
土の塊? いや青銅? すんどうか何かか? 突然襲ってきた!
不用心だったか。慌ててバックステップで回避する。
「ここまで上がって襲いに来たか、人間!」
「っ! 喋れるってことは意志疎通できるのか? こいつ」
「何を言ってる! どうせ追い回して殺しを楽しみにきたのだろう?」
「違う! そもそも俺は人間じゃない! 敵対するつもりもない!」
「なぬっ。人間じゃないと? ちみは人間に見えるが」
動きを止めた。どうみてもそいつは土偶だ。
青銅で出来たへんてこなのが喋っていた。
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