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第二部 主と働く道 第一章 地上の妖魔

第百五十六話 見えざる目の中で

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 俺が再び意識を戻した。多分ベッドの上だ。
 目が開けられないのはオペラモーヴを使用した影響だろう。

 相当なダメージを負ったうえ、密着で撃った代償は大きいようだ。
 
 すぐ隣に誰かいる感覚がある。
 身体は痛くて今は殆ど動かせない。傷も結構深いようだ。

 骨は大丈夫そうだから、しばらくすれば動けるようになりそうだ。

 封印指定はしておいたが、封印されたかどうかは確認出来ない。
 
 装備は外してもらったのか、衣類だけなのだろう。

「ルイン……ごめん、ごめんよ……ルイン」
「……メルザ?起きてる?」
「ああ、ルイン。よかった……よかったよ、気が付いた?」
「ああ、けど目が開けられないし、身体もあまり動かない」
「すごい血が出て、俺様もう心配で、でもよかった……よかったよ」
「お前、寝てないんじゃないか?」

 会話の内容がかみあっていないから意識が朦朧としているのだろう。
 どうにか動く右手でメルザを探るようにして探すと手を握られた。
 そのまま身体ごと引き寄せる。

「大丈夫だ。メルザが無事で本当によかった。あの後どうなったか
話しながらこのまま寝てくれ」
「あの鳥でよ、攻撃したんだけど倒せなくて。そしたらルインが
オペラモーヴって技で攻撃して、砂カバは倒れたよ。
けどルインが全身から血を流して。ミドーがロッドの町まで
運んでくれたんだ。それで……」

 そこまででメルザの反応は止まった。何日も寝ていなかったのかも知れない。

 俺自身どの位寝ていたのかはわからないが。メルザの手は
明らかに弱っている人のそれだった。
 片腕で布団をひっぱりメルザにかけてやる。

「あら、起きたのね。よかったわ……あんたまた無茶したのね」
「ライラロさん。多分メルザが今眠りについたとこだ。
俺ももう少しこのまま寝るとするよ」
「ええ、その子ずっと寝ないで看病してたから。二日もよ。
他の二人もだけど、あの子達は私が寝かせにいったわ。
無理やりね。まだ寝てないようだったらバカ弟子もそうする
つもりだったわ。労わってやりなさいよ」
「ああ。メルザに気を遣ってくれて有り難う、ライラロさん」

 パタリと扉が閉じた音を聞き、俺はメルザの頭を撫でながら
眠りについた。


 しばらくして起きたがまだ目は空かないし、メルザも寝ている
ままだ。
  この町で仕事をする予定だったんだが、参ったな。
  
身体は痛むが幻薬を使ってくれたのだろう。起き上がってみるか。
 
 光は感じるから失明はしていない。
 言うなれば封印された感じか。あの技自体未知数だ。この程度で済んでよかったのだろう。


 両腕だけはかなり動くようになった。
 メルザを越さないように枕へ移した俺は、寝かされていたベッドを後にした。
 
 この見えない感じはとても懐かしく思える。
 見えてない頃から習慣づいている動きが、見えない人にはある。
 
 それは空間把握能力だ。幼い頃から弱視であった俺は、なんとなく物がこの辺りにある
という感覚がずば抜けて上がった。それと物事を覚える記憶力だ。
 位置さえ変えなければ、何をどこに置いたか、把握しておかないと場所がわからなくなる。

 その影響か、記憶力がとても高い。数十年前の大したことがない出来事でも
深く記憶してしまう習性がついてしまった。
 一言一句とまでは言わないが、会話内容も記憶してしまう。

 入口や窓、テーブルの位置が把握できるので
見えないまま椅子にたどり着き座る。

 目の前に何が並んでいるかはわからないから手探りで調べてみた。

 グラスと、これは俺の籠手かな。それから指輪。
 俺はグラスを取り、中が空なのを確かめた。よし、何も入っていない。

「妖赤星の指先」

 俺は意識を指先に集中させて赤星術を使う。
 ベルローゼさんにこの練習方法を教わった。赤星のコントロールが一番んお課題。
 まともにコントロールして最大限に放てば、こうはならなかっただろう。

 強くはなった。だがまだまだ未熟だ。特に大型モンスター相手に一人で立ち回らないと
いずれは大型モンスターが複数襲ってくるかもしれない。

 「常に最悪を想定しやがれ小僧!」

 師匠の声が聞こえたきがした。
 俺はもっともっと強くなれる。妖魔の力もまだまだ。ジョブコンバートも出来ていない。

 そういえばこの町に幻魔神殿があるか確認しに行こう。

 俺は部屋を出ると受付の前に行く。

「あの、どなたかそこにいますか?」
「ええ、いますよ。どうなさいましたか?」
「この町に幻魔神殿はありますか?あれば案内してほしいんです」
「あるよ。全く君はそんな身体で出歩くつもりかい?」
「黙ってみてはいられませんね。我々が連れていきましょう」

 急に別の声がしたのでそちらを振り向く。
「リルとフェドラートさん。来てたんですね」
「……君、その目見えていないだろう。そんな身体では連れ歩けないよ」
「ええ、もう少し回復してからでよいのでは?」
「いや、どうしても今行って確認したいことがあるんだ」

俺は半ば強引に二人に案内してもらう事にして、宿屋を出た。 

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