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第三章 闘技大会 後編

第五十四話 ファナの出来事

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 地下祭壇でファナを救った俺はライラロが来るのを待ちつつ
ファナの様子を見ていた。

 毛布を掛けてはある。時折うなされているからよほど怖い目にあったのだろう。

 先にメルザが起きたが、喋る前に口へ指をあてる。

「メルザ、ファナは一応無事だ。だが両足を失っている。
事情を聞きたいが、今は意識がない。
身体の状態を見てもらうためにライラロさんを呼んでおいた。
だから心配するな」

 メルザはこくこくと頷いたがひどい顔をしている。くそ、やっぱりこうなったか。
 ミリルも起きたようだ。とても心配そうな顔をしているが、話は聞こえたのだろう。 
 優しくメルザの頭を撫でてくれている。

 一番心配なのはニーメだ。ニーメはお姉ちゃん子だからかなり心配だな。
 そう考えているとまもなく、ライラロが部屋にきた。
 心配そうに俺を見たのでファナを指す。
 掛けてある毛布の中を少し覗き込みため息を吐く。

「どうしてこんなことを……大会で目をつけられたのかしらね。生贄か奴隷として」
「……わからない。ファナも俺も初戦でかなり目立ったと思う」
「そうね。特にこの子は司会まで攻撃しようとしたから少しやりすぎたわね。
止血はしてあるから目的は恐らく奴隷ね」
「この世界じゃ奴隷にするのにこんな酷い仕打ちをするのか」
「するわよ。こうすれば逃げられないじゃない」
「だからって、こんな! いや、すまない。確かにそうだよな。
現実でも障害を負えば扱いは酷い。世界が変わってもそれは一緒か」

 俺がため息をつくと、メルザが心配そうに手を重ねてきた。

 メルザの手をしっかりと握る。大丈夫だ……俺にはもうお前がいるからな。
 だからファナが目覚めたら、しっかりフォローしてやろう。
 あの日メルザに手を差し伸べてもらったように。
 俺たちでファナを受け入れよう。

「お兄さん、助けてくれてありがとう。僕ずっと一人で怖かったんだ」
「おっとこいつを忘れていたな。ヘンテコなぬいぐるみだ」
「ぬいぐるみじゃないよ。僕は人だよ。子供だったんだ。でも車に
引かれてこうなったの」
「今なんて言った?」
「僕、スマホゲームしてたの。でも車で引かれちゃって」

 ……額から汗が噴き出た。そんなまさか。

 この子は元々俺と同じ世界の人間だっていうのか? スマホで遊んでて? 車に? 

「……もしかして、誰かの手を振り払って引かれたのか?」
「うん、どうして知ってるの? 僕お話したっけ?」
「ああ、結局あの子まで死んじゃったのか。なんて残酷なんだ。せめてあの子が
助かればと思い手で止めたのに……こんな、こんなことって」

 目の前の残酷な出来事に目を伏せたくなった。けど事実は変わらない。

 そしてこの子を元の場所に帰してやる事も俺にはできない。
 出来る事はこの子に現状を受け止めさせてやる事。
 そしてあの時死んだのは俺で、この子のせいじゃない事を伝えてやることだ。

「なぁ君、名前はなんていうんだ?」
「僕は藤野真奈美っていうの。9歳だよ」
「女の子だったのか。真奈美ちゃん、あの時死んだのは俺なんだ」
「お兄さんが? でも全然違う人だよ」
「俺も真奈美ちゃんも死んで生まれ変わったんだ。
俺は生まれ変わっても両目が見えない人だった。
真奈美ちゃんはお人形さんとして生まれ変わった」
「そうだったんだ。お兄さん。ごめんなさい。僕のせいで
お兄さん、死んじゃったんだよね。ごめんなさい。ごめんなさい。
僕謝ったら、お母さんのとこに帰れるのかな?」
「お兄さんは怒ってないよ。あれは事故だから、真奈美ちゃんのせいじゃない。そして謝ってももう俺も真奈美ちゃんも
元の世界には帰れないんだ。
だから俺たちと一緒に生きて行こう」
「そうなんだ……お母さんに会いたいよ。会いたいよー……」

 そう言うとぬいぐるみの真奈美ちゃんは黙ってしまった。

 ライラロさんも、メルザも、ミリルも人形も誰も何もしゃべらない。

 静かな時がゆっくりと流れていく。

 しばらくしてニーメが起きた。

「おはよう……お姉ちゃんは? お姉ちゃん! お姉ちゃん! よかった、無事だったんだ……あれ?」
「大丈夫だ、気を失っているだけだよ。
お姉ちゃんは一応……無事だ。ただ、両足を失った」
「えっ……そんな……なんで? どうして?」
「俺たちにもわからない。後は本人に聞くしかない。だがしばらく目を覚まさないらしい」
「そ、そんな……」
「大丈夫よ、命にだけは別状ないから。ショックが強すぎるのよ。
それよりルイン。あんた今日の個人戦は……」
「もう時間切れですよ。けど大丈夫です。本選は必ず勝つんで。
これ以上こいつのこんな顔、見たくない」

 そういうと涙を一杯目にため込んでいるメルザの頭に手をぽんとやる。

「一応腕利きの治癒師お願いしてみるわ。
足の再生は無理だけどね。そっちの坊やは鍛冶師よね。
話があるからちょっと来なさい」

 そう言うとライラロさんはニーメを連れて出て行った。

「わたくし、決めました。集団戦はわたくしがお二人と一緒に
出場しますわ。ファナさんのためにも」
「けどそれじゃ……」
「いえ、お友達がこんな顔をしているときに、何もできないなんて悔しくていてもたってもいられませんもの」

それを聞きメルザはぎゅっとミリルに抱き着く。

「ありがと、ミリル」
「いいえ、今度こそあなたのお力になってみせますわ」


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