上 下
39 / 1,085
第二章 闘技大会編 前編

第三十四話 皆で快鉄屋へ

しおりを挟む
 俺たちは師匠のいる三夜の町へ向かう最中だ。
 ニーメはそろそろ一人の工房が欲しいようで、師匠の許可は
もらっており、一通りの道具もあるらしい。
 
 メルザの領域で鍛冶をする許可が欲しくて、メルザもこれを快諾。

 「俺様の領域に鍛冶工房!」とメルザはぴょんぴょんしていた。

 ああいう少し子供っぽいところがメルザのチャームポイントだな。
 ココットとカカシは留守番をしているようなので、取り急ぎ快鉄屋へ向かっている最中だ。

 疾風の靴と無限闘舞を身に着けてから、俺の速度は
自分でも制御できない程速く感じてしまっている。
 
 感覚を掴むにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 メルザにも速度アップの装備を渡したいところだが……ファナは俺よりは遅いが
それでも相当早い。もうちょい急ぐとするか。

「ファナ、ニーメを担げるか? メルザは俺が担いでいく」
「いけるわ、いつも担いでたしね」
「えっ? お姉ちゃん……僕ちょっと恥ずかしい」
「何言ってるのよ、毎日担いでたのなんて一年ちょい前くらいじゃないの」
「で、でも……」
「いいから、ほら!」

 そういうとニーメは姉におぶさる。両手が腕のところに行くが……あ、なるほど。
 それはうらやま……じゃなかった。あたるよな……うん。

「メルザも俺の背中に乗ってしっかり捕まってくれ。飛ばすからな」
「えっ…? うん……わかった」

 メルザは俺の背中に乗ると、ぴっちりと身体をくっつける。
 うん、あたらないな。何がとはいうまい。

 俺とファナはかなり飛ばして走った。

 四十分程で三夜の町に着いた。かなり飛ばしたが
 ファナはちゃんとついてきた。さすがに息は荒いな。

「ぜぇっ……ぜぇっ。ちょっとあんた、どんだけ体力ついたのよ……」
「師匠にしごかれたからな。この装備がなくても片道この時間で行ける位は走らされたぞ」

 ファナの呼吸が整うのを待ち、俺たちは食事休憩をとりに
セサミの宿に寄り、せっちゃんに挨拶する。

「あらぁーいい男! 待ってたわよぉー!」
「いらっしゃいました」

 せっちゃんとセシルにお出迎えされる。

「相変わらずだなせっちゃん。かなりお腹空いてるから
飯にしたいんだが」
「つけ、だいぶたまってるわよ」
「うぐっ これで頼む」

 幻薬(極小)を五個せっちゃんに渡す。
 一つ銀貨一枚ほどだ。

「あら、それじゃ奮発して作ってくるわね! いつもの席で待ってて!」

 そう伝えると、せっちゃんは厨房へ消えていった。

 せっちゃんの料理を一通り平らげた俺たちは、師匠のいる店
レジンの快鉄屋に行く。
 中から声が聞こえるな。

「ダメよぉー、今日はもう離さないんだからぁ」
「だから引っ付くんじゃねぇ! 嚙み殺すぞ」
「あら、誘ってるの? そんなにチューしたいのね!」
「ちげぇ! くそっ、なんでおめぇは俺の言う事を捻じ曲げてきやがる!?」
「あら、私はいつも素直よー? 素直じゃないのはベルディスの方でしょ? うふっ」
「あの、師匠ー?」

 俺は扉を開けて部屋に入る。
 上半身が下着だけの女性が師匠にくっついていた。

「す、すみませんお邪魔しました……」

 俺はパタリと扉を閉めて何も見てないことにした。

「ち、ちげぇ! ルイン! 誤解だ! 頼む戻ってきてこいつをなんとかしてくれ!」
「よし、既成事実成功!」
「てめぇライラロ……今度覚えておけよ」
「あら、今度も何も私はダーリンとずっと一緒よ!」
「あぁぁー! ダメだ話にならねぇ!」
「うふっ」
「いいから服だけでも着やがれ!」

 ……中が落ち着くまでここで待とう。
 とてもじゃないがニーメには見せられない。

 しばらくして師匠が扉を開ける。

「入れ……」

 相当お疲れの様子だった。
 俺たちは中に入る。先ほどの女性は師匠お手製の
檻に閉じ込められて布をぐるっとかけられている。

「なぁにこれー、開かないーー! おかしいおかしい絶対変ー! はっ……これは
お前を檻に閉じ込めて俺だけのものにって意味ね! キャー!」
「わりぃ、あのうるせぇのはほっといていい……ちっと外出ようや」
「は、はい師匠……大変そうですね」
「全くだぜ。ライラロを呼んだこと、未だに後悔してるぜ」

 ちょっとやつれた師匠を連れて俺たちは近くの団子を売っている店に入った。 

 団子屋モギ。
 この辺りでは人気の店だ。
 お金は師匠が払ってくれた。

「んで、ルインの目的のものは見つかったのか?」
「いえ、ありませんでした。ただ、いい装備は手に入りましたが」
「あぁ、見せなくていい。少なくとも今装備してる物以外はな。
人目につくとまずいもんもあるだろうし」
「はい……そちらは後で店裏辺りで見てもらいます」
「あぁ。んで用件はガキの件だろ? こっちは問題ねぇ。選別に
鍛冶道具一式もくれてやる。ガキ……いやニーメはよく働いてくれたからな。
俺も感謝してるぜ。おかげで懐もあったけえからな」

 そういうと師匠はニーメの頭を撫でる。
 ちょっとうらやましいがニーメはまだ子供だしな。

「僕、初めてお師匠さんに名前で呼ばれました! すごく嬉しい!」

 師匠はフンっと鼻をならすと少し照れ臭そうにしている。

「ところでてめぇら、闘技大会にはいつ出発するんだ? あそこまで行くのに
それなりに時間がかかるが」
「ニーメに装備を整えてもらったらすぐ出発準備にかかります。
ジョブカードとかをバウザーさんに
引き渡してもらう用事もありますが」
「そうか。ルインよ、ちっと一日だけ面貸せるか?
そのスタイルになっての戦闘にはまだなれてねぇだろう
が、今の装備で一つ教えておきてぇ技があんだよ」
「この装備で? ですか?」
「あぁ、ちっと思いついちまってな。まぁ半分俺の趣味みてぇなもんだ」

 俺はサイクロプス戦を思い出す。
 あれくらい強いやつが闘技大会にいないとも限らない。
 覚えておくに越したことはないだろう。

「わかりました。よろしくお願いします」
「おう。そういえばライラロの奴も嬢ちゃんに用があるっていってたぞ。
後で聞いてみな。とりあえず今日はおれぁ逃げるからよ。明日また店にこいや」

 そういうと師匠は金だけ払い、ふらーっとどこかへ行ってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。 エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。 俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。 処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。 こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…! そう思った俺の願いは届いたのだ。 5歳の時の俺に戻ってきた…! 今度は絶対関わらない!

【R18完結】愛された執事

石塚環
BL
伝統に縛られていた青年執事が、初めて愛され自分の道を歩き出す短編小説。 西川朔哉(にしかわさくや)は、執事の家に生まれた。西川家には、当主に抱かれるという伝統があった。しかし儀式当日に、朔哉は当主の緒方暁宏(おがたあきひろ)に拒まれる。 この館で、普通の執事として一生を過ごす。 そう思っていたある日。館に暁宏の友人である佐伯秀一郎(さえきしゅういちろう)が訪れた。秀一郎は朔哉に、夜中に部屋に来るよう伝える。 秀一郎は知っていた。 西川家のもうひとつの仕事……夜、館に宿泊する男たちに躯でもてなしていることを。朔哉は亡き父、雪弥の言葉を守り、秀一郎に抱かれることを決意する。 「わたくしの躯には、主の癖が刻み込まれておりません。通じ合うことを教えるように抱いても、ひと夜の相手だと乱暴に抱いても、どちらでも良いのです。わたくしは、男がどれだけ優しいかも荒々しいかも知りません。思うままに、わたくしの躯を扱いください」 『愛されることを恐れないで』がテーマの小説です。 ※作品説明のセリフは、掲載のセリフを省略、若干変更しています。

【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年 \ファイ!/ ■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ) ■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約 力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。 優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。 オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。 しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈ 学園イチの嫌われ者が総愛される話。 嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。

邪悪な魔術師の成れの果て

きりか
BL
邪悪な魔術師を倒し、歓喜に打ち震える人々のなか、サシャの足元には戦地に似つかわしくない赤子が…。その赤子は、倒したハズの魔術師と同じ瞳。邪悪な魔術師(攻)と、育ての親となったサシャ(受)のお話。 すみません!エチシーンが苦手で逃げてしまいました。 それでもよかったら、お暇つぶしに読んでくださいませ。

【R18】超女尊男卑社会〜性欲逆転した未来で俺だけ前世の記憶を取り戻す〜

広東封建
ファンタジー
男子高校生の比留川 游助(ひるかわ ゆうすけ)は、ある日の学校帰りに交通事故に遭って童貞のまま死亡してしまう。 そして21XX年、游助は再び人間として生まれ変わるが、未来の男達は数が極端に減り性欲も失っていた。対する女達は性欲が異常に高まり、女達が支配する超・女尊男卑社会となっていた。 性欲の減退した男達はもれなく女の性奴隷として扱われ、幼い頃から性の調教を受けさせられる。 そんな社会に生まれ落ちた游助は、精通の日を境に前世の記憶を取り戻す。

Sランクパーティーから追放されたけど、ガチャ【レア確定】スキルが覚醒したので好き勝手に生きます!

遥 かずら
ファンタジー
 ガチャスキルを持つアック・イスティは、倉庫番として生活をしていた。  しかし突如クビにされたうえ、町に訪れていたSランクパーティーたちによって、無理やり荷物持ちにされダンジョンへと連れて行かれてしまう。  勇者たちはガチャに必要な魔石を手に入れるため、ダンジョン最奥のワイバーンを倒し、ドロップした魔石でアックにガチャを引かせる。  しかしゴミアイテムばかりを出してしまったアックは、役立たずと罵倒され、勇者たちによって状態異常魔法をかけられた。  さらにはワイバーンを蘇生させ、アックを置き去りにしてしまう。  窮地に追い込まれたアックだったが、覚醒し、新たなガチャスキル【レア確定】を手に入れる。  ガチャで約束されたレアアイテム、武器、仲間を手に入れ、アックは富と力を得たことで好き勝手に生きて行くのだった。 【本編完結】【後日譚公開中】 ※ドリコムメディア大賞中間通過作品※

迅英の後悔ルート

いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。 この話だけでは多分よく分からないと思います。

処理中です...