上 下
19 / 1,085
第一部 主と紡ぐ道 第一章 出会い編

第十八話 宿屋に戻り

しおりを挟む
 俺たちはファーフナー、ニーメを連れて宿屋に戻った。

「まぁお帰りなさい! 無事だったのね!」

 と叫びながら突っ込んでくるせっちゃんを回避し、事の経緯を話す。

「そういう事なら仕方ないわね。今度盗みを働いたら容赦しないわよ」

 そういうとせっちゃんはニーメを見る。
 ファーフナーはまだ気を失っているようだ。

「なぁせっちゃん、この子たちの宿代を払いたい。それと傷薬をもらえないか?」
「わかったわ。今回はこちらの不手際もあるし
部屋も一緒でいいならサービスして銀貨二枚でいいわ」

 せっちゃんにお金を払い、傷薬を持って俺たちは部屋に戻る。
 セシルが追加で布団を持ってきてくれた。

「お休みでした」

 まだ起きてるよ! 語尾が過去形だとわけがわからん。

「メルザ、その子に傷薬を縫ってやってくれ」
「あぁ、わかった。うへー、こいつ胸でかいなー。ぽよぽよだ」

 どこ触ってるんだよ! まぁいい、俺は明日行く場所を再確認しよう。
 鍛冶屋と道具屋と……あと呪いを解くような場所はないかな。
 呪いってどうやって解くんだ? 現世だと祈りとか魔法だよな。
 魔法は現世にはないか。呪いもあるかわからん。

 幻魔神殿ってのがあるな。ここにも行ってみるか。

「うぅーん。お宝……」

 どうやらファーフナーが起きたようだ。

「よう、お前胸でけーな。おっきくする方法教えてくれよ」
「なっ……! お前たちは! きゃっ。ちょっとどこ触ってるのよ!」

 ファーフナーは目を覚ますとニーメの前に立ち、俺たちに身構える。

「私たちをさらってきたのね。そう簡単に売られてたまるもんですか!」
「いや落ち着けって。傷だらけだったから運んできたんだよ。
あんな何もないようなとこじゃ治療も出来ないだろ」
「姉ちゃん、この人たちなら大丈夫だよ。
俺たち子分なんだってさ! 親分が面倒見てくれるって。な、親分」
「そうだぞ、お前らはこの俺様、メルザ・ラインバウトの子分だ! にはは!」
「はぁ? なんで私があんたの子分なわけ? それにニーメまでなんで子分なのよ!」
「あー、まぁ落ち着けって」
「ぱみゅー? ぱーもぱーも!」

 俺たちが止めようとするとファーフナーはパモに釘付けになる。

「なにこの子ちょー可愛い! ふわっふわ。ナニコレ欲しいちょー欲しい! 
あなたのお名前は? ねぇねぇ!」
「ぱみゅ? ぱーみゅぱーみゅーー!」

 飛びついてパモをもふもふしている。その気持ちはわかる。
 俺もパモをしょっちゅうもふもふしている。

「そいつはパモだ。俺はルインでそいつがカカシ……ゴサクか? 俺らの主
がメルザだ」

 メルザはエッヘンとポーズをとっている。
 カカシは眠っているようだ。カカシって寝るんだな。

「いいわ、この子と一緒にいられるんならあんたたちについていくわ。
けど勘違いしないでよね。まだ認めたわけじゃないから!」
「それはいいけど、もう盗みは働くなよ。なるべく食べ物とかは
用意するから。その代わりちゃんと働いてもらうけどな」

 聞きながらファーフナーはパモをもふもふしている。
 パモの移動にはファーフナーが常に持ち歩いてくれそうだな。

「そうそう。聞いているかもしれないけど、私の名前はファーフナー。ファナでいいわ。
今日は疲れたからもう寝るわね。ニーメもこっちに来なさい」

 そういうと片方のベッドにニーメとファナが寝そべる。
 メルザも疲れたのかもう片方のベッドで横になっている。

 ……仕方ない椅子で寝るかと思っていたら、メルザが俺を呼んでいる。

「ちょっと心配だから手を繋いでてくれよ。
ゴサクみたいにルインが突然消えたら俺様は困るから……」

 仕方ない主だ。いなくなったりしないさ。
 俺はお前とずっと一緒だ。これまでも、そしてこれからも。

 俺はメルザの右手をしっかり握り眠りについた。


 翌朝……といっても夜なんだが、俺たちの部屋をノックする音が聞こえる。
 
「食事の準備が整いました」

 セシルが起こしにきた。過去形でも正しい表現になっている。

 俺とメルザ、ファナ、ニーメを連れて食事に行く。
 カカシはまだ寝ているな。

「あらぁおはよう。寝起きもいい男ねぇ。頂いちゃおうかしら」

 後ずさりする俺を「冗談よ」とからかうせっちゃん。
 朝からヘヴィなスケルトンジョークを食らった。

「朝食はパンに酸味の効いたジャムよ。それにスープと
ギガンポークの腸詰にレノンのジュースよ。パンはお代わり
してね」

 久しぶりのまともな食事なのか、ファナもニーメもがっついて食べている。 
 それを見て考える。前世は飽食だった。食べ物は捨てられ腐らせるような事もあった。
 この世界では考えられないだろう。
 ここまで見てきた場所は貧しい所が多く見える。

「食わないならもらっちまうぞ? いいのかルイン、ルーイーン!」

 考え込んでる俺を心配してか、メルザは俺の顔を覗き込んでいる。
 考えても仕方のない事か。今は忘れるとしよう。

 ファナとニーメは四回もパンをお代わりして、お腹をパンパンに膨らませていた。

 俺の肉はファナとニーメに少し分けてやると、メルザに羨ましそうな目で見られた。

 近いうちにでも美味しい物を沢山用意して、こいつらに食べさせてやろうと俺は誓うのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

処理中です...