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第二章

フラワーガーデン

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 アレから詳細を説明をするため場所を移動した。
 選んだのは第二階層セカンドエリア内にある、主に女性プレイヤー達に人気のある名所。

 その名はフラワーガーデン。

 花で動物の姿を模したオブジェが並ぶ庭園。
 足を踏み入れると、そこはファンシーな世界に迷い込んだ不思議な感覚を体験できる

 猫とか犬とかパンダとか、点在するオブジェ周辺にはそれぞれ異なる花の香りが漂っている。
 視覚だけでなく嗅覚も楽しめる空間は、今日も沢山の女性達が観光する。

 東西南北にあるセーフエリアと同じように、この場所はモンスターが寄って来ない。
 ベータ版時代を思い出しながら、ボクはお気に入りのオブジェに真っ直ぐ向かう。

「ねこちゃん、ねこちゃん♪」

 猫のオブジェの前で立ち止まり、この場に充満している日向の香りを胸いっぱいに吸い込む。
 大きく吐き出しながら、ボクは両手で抱えているパートナーに笑いかけた。

「いつ来ても、かわいい場所だね」

「メタ~?」

「え、洞窟の方が好きだって? うーん、メタちゃんは金属が採れる場所が好きだからなぁ……」

 花には興味ないメタちゃんに苦笑しながら、後ろについて来ているミカゲ先輩を見る。
 どこか落ち着かない様子だけど、彼女はボクの視線に気付くと頬を赤く染めた。

「ここ良いよね。ミカゲもお花が大好きなんだ」

「それなら今度東区にある花屋に一緒に行きますか? 店員さんがガーデニングした、小さな庭を見る事ができますよ」

「り、リアルはちょっと遠慮しようかな……」

 顔を真っ青にして、後ろに一歩だけ下がったミカゲ先輩。
 親睦を深めるために誘ってみたのだが、いきなり二人でショッピングはハードルが高いようだ。

 他にも小さな個人店で可愛いケーキを食べられる店や、雑貨類を売っている店を知っているけど、誘っても迷惑にしかならない気がした。
 やはりゲーム内で距離を縮めるのが最短ルートか。

 気分としては恋愛シミュレーションゲームをしている感覚。
 しばらく歩いて人気がない場所を探していると、ブタさんのエリアに人がいないのに気付き、ボクはミカゲさんとそこに足を運んだ。

 観賞用に設置されている、木製の小さなベンチに腰掛けた。
 正面にある三匹のブタさんはピンクの花をメインに構成されており、目のところは黒い花と細部の色も実にこだわっているのが分かる。

 三匹といって頭の中に浮かぶのは、超有名なおとぎ話。
 小さい時は何度も従姉さんに読んでもらってた事を思い出しながら、ボクはミカゲ先輩に注意事項を伝えた。

「えっと、一応言っておきますね。ここでボクが話す内容は全て他言無用でお願いします」

「わかった、大丈夫だよ。リアルで友達はいないから安心して」

 なんだろう。別の意味ですごく不安になってきた。
 いや、彼女の性格を考えたら仕方ない事だけど、こうも断言されると心にグッとくるというか反応に困るというか。

 またこれを本人が躊躇うことなく、笑顔で自信満々に言うのがヤバい。
 一つ年上の先輩だけど、余りにも純粋な目をしている彼女に思わず涙が出てくる。
 黙って話を待つ彼女に向き直ったボクは、自分が進めているユニーク関連について話を始めた。

「かくかくしかじか──という感じで、第一階層でガーディアン君を仲間にしたボクは、この第二階層でも特殊なクエストを進行させてるんです」

「ほえー、シエルさんってそんな特殊な能力を持ってたんだ。誰も直せない状態異常を治せるなんてすごいね、びっくりしちゃった」

「あれ、感想ってそれだけですか」

 もっとびっくりすると思っていたのだが、ミカゲ先輩の反応は想定していたよりも薄かった。
 ついジッと見てしまうと、彼女は恥ずかしがって明後日の方角を向いてしまう。

「ちょっ、そんな風に見られると恥ずかしいかも……」

「すみません、意外とびっくりしないんだなと思ってしまって」

「もちろん、驚きはしたよ。でもシエルさんはユニークモンスターを二体も連れているし、そういう特別なイベントが起きても不思議じゃないと思ったから……」

「なるほど、たしかに言われてみたらそうですね」

 ユニークモンスターを二体使い魔にしているのは、どう考えても普通から逸脱している。
 一般プレイヤーからしてみたらボクは既に特殊なので、追加で何か特別な事が発覚しても『まぁ、あの子だからな』としか思われない状況になっているっぽい。

 現にチラッとSNSを覗いて見たら呟きコメントで『ガンブレ娘がバトルエリアの森民を尋ね回っているらしい』『まーた特殊クエやってんのかね』『良いな、ユニーク羨ましい』と既に広まっていた。
 ネガティブな意見も多々見られるが、それは有名人には付き物なのでスルーする。

「なるほど……。でも分かってるのに、なんでみんなクエストのことを直接聞きに来ないんだろ」

「あー、それはみんな〈ホワイトリリーズ〉を敵に回したくないからじゃないかな」

「シース姉さん達のチームを敵にしたくない?」

「イベントで対人戦がきた時に、シエルさんに迷惑をかけると〈ホワイトリリーズ〉や上位チームのブラックリストに入れられるって噂があるの。
 シエルさんは上位の人達に注目されている有名人。もしもリストに入ってるプレイヤーやチームを真っ先に潰しに来るとしたら、報酬を狙う事は今後難しくなる。
 それでプレイヤー達は全員リスクが大きいって干渉を極力避けてるらしいよ」

「……こっわ。たしかにそれは、みんな避けますね」

 絶対に噂を流したの、広報担当のソフィアさん辺りだよね。
 周りのチームも巻き込んで効果を倍にしているあたり、相変わらず恐ろしい人だ。

 流石に牽制の為のブラフであって、本気でやることはないと信じたいが……。

 第二階層進出記念の時、リアルで全員集まって焼肉食べ放題パーティーを行った時「シエルちゃんは絶対に私が守るから」と言っていたけど、もしかしてこの事を言っていたのかな。

「……えっと、シエルさん」

「どうしました、ミカゲ先輩」

「最後に古い民を探してるって言ってたけど、サードエリアは全部回ったんだよね」

「はい、そうですよ」

「なるほど、それなら……」

 なにやら真剣な様子のミカゲ先輩。
 姿勢を正して、ボクは彼女の言葉を待った。

「ミカゲは一人だけ、心当たりがあるかも」

「マジですか」

「うん、サードエリアじゃないけどファーストエリアの方に皆が大っ嫌いなNPCが一人だけいるよね」

「ミカゲ先輩、それってまさか……」

「あのNPCに三回くらいハチミツ交換をした時、お礼と一緒にミカゲは聞いたの。──ハチミツを集める理由は、遥か古から旅立った賢者に感謝の捧げものをする為だって」

「やっぱりアイツかー!?」

 衝撃的な話を聞いたボクは、驚きの叫んでしまう。
 周囲の目が集まる中、お膝の上にいるメタちゃんはスヤスヤ眠っていた。
 
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