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フィーア・ブースト
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ざっくり数えて、敵の数は五十近いのに対しプレイヤー側は三人チームが四組。
奮闘している人達もいるけど、圧倒的な数に押されて戦況は劣勢だった。
「うーん、初期装備の人達にこれは厳しいね」
初期装備の彼等では、スライムやゴブリンを倒すのに最低でも四~五回の攻撃が必要だ。
連携して倒したとしても、この状況では間髪入れずに次がやってくる悪循環となっている。
視野を広げてみると、それなりに武装が整っている大人達が、この様子を遠巻きに見学していた。
助ける気配がないところから察するに、これは恐らく〈ディバイン・ワールド〉初心者に対する洗礼的なイベントなんだろう。
中には見定めるような者達もいて、こちらに関しては只者ではない気配がした。
肌に感じるアバターの圧から、第三層クラスの装備を身につけていると推測できる。
なんだか怪しい臭いがプンプンする。
どんな意図があるのか分からないけど、先ずはこの状況を何とかする方が先決か。
手すりを跳び越え、以前校内で見た事のある少女達の前に降り立つ。
眼前にいる100センチ足らずのゴブリン達を、手にしたガンソードで纏めて両断した。
鎧も身につけていない敵のHPは、たった一撃でゼロになる。
真っ赤なダメージエフェクトが発生し、砕け散るゴブリン。それを尻目に、縮こまっている少女達にアドバイスをした。
「落ち着いて。攻撃力は高くなってるけど、冷静に対応したら怖い敵じゃないよ」
「は、はい」
「カッコイイ……」
「やだ、惚れちゃう……」
次に向かうべき戦地を見る。
背後からは「シエル様ってPNなのね!」「チャンネル登録して布教しなきゃ!」と緊張感のない会話が聞こえてきた。
しかし構っている暇はない。
今度は十数体程に囲まれているチームに向かって、地面を強く蹴った。
AGIは20しかないけど〈ソニックダッシュ〉の加速を利用すれば、序盤くらいなら問題なく戦える。
それにこの程度の敵に、貴重な〈セラフ・ブレット〉は使うまでもない。
攻撃を防ぎながら、必死に突破口を探そうとしている男女混合チーム。
ボクはガンソードを一閃し、敵の囲みを大きく切り崩した。
「みんな、こっちから出て体勢を立て直すんだ」
「あ、ありがてぇ!」
「ありがとうございます!」
感謝の言葉に笑みで返す、そこから〈ソニックダッシュ〉で他のチームも同様に救出する。
大立ち回りを演じることで、流石に敵のヘイトが全てこちらに向いた。
溶解液や矢が飛んでくるけど、持ち前の反射神経で全てを回避していく。
『メタ~?』
「ううん、この程度ならメタちゃんの力は借りなくて済むかな」
肩に乗っているパートナーが協力を申し出るが、今のところ手に負えない状況ではない。
それに現実世界では体力が持たないけど、この世界なら自分はパフォーマンスを十二分に発揮できる。
まるで舞踏会で踊るような気持ちで、向かってくる敵を全て返り討ちにする。
ボクが引き付けていると、落ち着きを取り戻した新人プレイヤー達は敵の討伐を開始した。
劣勢は切り抜けた。
これならば後は彼等だけでも倒せる。
もう手助けする必要はないだろう。
頃合いを見て、この場を速やかに離脱しようと思ったのだが。
「ん? これは……」
ピリッと、肌に強い殺意を感じた。
第一層の序盤にこんな圧を放つ存在は、自分のベータ時代の知識にはない。
こういう何かを感じる時は、大抵ヤバいのが出てくると長年のゲーマー直感が警鐘を鳴らす。
離脱するのを中断し、一体何が来るのか身構えると遠く離れた地面に赤い光が発生した。
光は粒子となって一箇所に集まりだし、徐々に何か生き物の姿を形成していく。
そして完成したのは、巨大な角が特徴的な全長3メートルの大牛だった。
頭上に表示されている名は〈ホーンオックス〉。
このエリアで見たことがない牛の怪物は、まるで馬のように上半身を持ち上げ、そのまま両前足を地面に強く叩き付けた。
威嚇なのか、と一瞬だけ思ったけどそれは違うのだと即座に気がつく。
地面を叩いた前足を中心にして、周囲に大きな衝撃波が発生したからだ。
これは……!?
以前似たような攻撃を体験した事があるボクは、とっさにその場から高く跳躍して回避した。
しかし初見であり、初心者だった人達は防御を選択してしまいマトモに受けてしまう。
「え、なにこれ動けない!?」
「ウソだろ、スタン攻撃!?」
うん、アレは恐らく〈スタンウェーブ〉だ。
5秒間だけ、相手を行動不能にするダメージのない貫通する衝撃波。
主に第一層の中ボス〈ミノタウロス〉が使用する。
ベータテストの時は回避をミスして、何度か大戦斧とのコンボ技に真っ二つにされた苦々しい思い出があった。
動けなくなった者達を、大牛は頭部の鋭い角で貫こうとする為に、力をためる動作を見せる。
幸いにも他のモンスター達も、先程の衝撃波で硬直してるので一方的になる心配はないが。
このまま放置したら奴によって、彼らは蹂躙されてしまう。
やるしかないと判断したボクは、眦を釣り上げトリガーに指を掛けた。
「一瞬で決着をつける。──いくよ、フィーア・ブースト」
四回連続で引いて、シリンダーに込められた弾丸を消費する。
消費した弾丸はガンソードを媒体に、セラフ魔術を展開させた。
金色に輝く魔術の陣が、足元から頭の天辺まで駆け上る。
込められている強化の術式が、アバターに力を与える感覚に目を細めた。
ステータスのSTRとAGIは40ずつ強化されて、一時的に二つとも合計値が60となる。
実に三倍のステータスを獲得したボクは、前傾姿勢になると移動系スキル〈ソニックダッシュ〉で大牛との距離を一気に詰めた。
周囲の景色を後方に置き去りにし、狙うは身体を支える筋肉質な前足。
敵の反応速度を超え、勢いを利用した鋭い横薙ぎの斬撃を四足歩行の弱点に叩き込む。
第一層で破格の威力を秘める刃は大牛の足に食い込み、防御値を突破して半ばから切断。
『ウシッ!?』
牛を強調した大きな鳴き声が、敵の口から出る。
突進しようとしていたヤツは片足を失い、勢いを失った巨体は前のめりに倒れた。
だが欠損した部分は再生が始まり、〈ホーンオックス〉は直ぐさま立ち上がろうとする。
「まさかボスの再生能力を持ってるなんて、これは流石にびっくりだね。……でもちょっと遅いかな」
構えたガンソードが、鮮烈な金色の輝きを放つ。
刃を構えたボクは、再生するコンマ数秒の隙をついて〈セラフィック・スキル〉を発動した。
──〈セラフ・ツヴァイソード〉。
右上から左下に振り下ろす、強烈な一撃目。
そして斬撃をなぞるように、左下から右上に振り上げた二撃目が巨体に大きな一本の線を刻む。
ボスクラスの意地か、最後に鋭い角で悪あがきの斬撃を放ってくるけどメタちゃんが身体の一部で盾を作って防いでくれた。
合計二回のクリティカルヒットを受けた大牛は、HPゲージが減少してゼロになる。
身体はポリゴンとなって砕け散り、大きな光の粒子となって消滅した。
「す、すげぇ!」
「たったあれだけの攻撃で倒したぞ!」
「きゃー! かっこいい!」
奴を倒したことで他のプレイヤー達の士気はこの上なく高まり、雑魚モンスターを次々に倒していく。
脅威が無くなったのを確認したボクは、話し掛けられる前にこの場から速やかに退散した。
奮闘している人達もいるけど、圧倒的な数に押されて戦況は劣勢だった。
「うーん、初期装備の人達にこれは厳しいね」
初期装備の彼等では、スライムやゴブリンを倒すのに最低でも四~五回の攻撃が必要だ。
連携して倒したとしても、この状況では間髪入れずに次がやってくる悪循環となっている。
視野を広げてみると、それなりに武装が整っている大人達が、この様子を遠巻きに見学していた。
助ける気配がないところから察するに、これは恐らく〈ディバイン・ワールド〉初心者に対する洗礼的なイベントなんだろう。
中には見定めるような者達もいて、こちらに関しては只者ではない気配がした。
肌に感じるアバターの圧から、第三層クラスの装備を身につけていると推測できる。
なんだか怪しい臭いがプンプンする。
どんな意図があるのか分からないけど、先ずはこの状況を何とかする方が先決か。
手すりを跳び越え、以前校内で見た事のある少女達の前に降り立つ。
眼前にいる100センチ足らずのゴブリン達を、手にしたガンソードで纏めて両断した。
鎧も身につけていない敵のHPは、たった一撃でゼロになる。
真っ赤なダメージエフェクトが発生し、砕け散るゴブリン。それを尻目に、縮こまっている少女達にアドバイスをした。
「落ち着いて。攻撃力は高くなってるけど、冷静に対応したら怖い敵じゃないよ」
「は、はい」
「カッコイイ……」
「やだ、惚れちゃう……」
次に向かうべき戦地を見る。
背後からは「シエル様ってPNなのね!」「チャンネル登録して布教しなきゃ!」と緊張感のない会話が聞こえてきた。
しかし構っている暇はない。
今度は十数体程に囲まれているチームに向かって、地面を強く蹴った。
AGIは20しかないけど〈ソニックダッシュ〉の加速を利用すれば、序盤くらいなら問題なく戦える。
それにこの程度の敵に、貴重な〈セラフ・ブレット〉は使うまでもない。
攻撃を防ぎながら、必死に突破口を探そうとしている男女混合チーム。
ボクはガンソードを一閃し、敵の囲みを大きく切り崩した。
「みんな、こっちから出て体勢を立て直すんだ」
「あ、ありがてぇ!」
「ありがとうございます!」
感謝の言葉に笑みで返す、そこから〈ソニックダッシュ〉で他のチームも同様に救出する。
大立ち回りを演じることで、流石に敵のヘイトが全てこちらに向いた。
溶解液や矢が飛んでくるけど、持ち前の反射神経で全てを回避していく。
『メタ~?』
「ううん、この程度ならメタちゃんの力は借りなくて済むかな」
肩に乗っているパートナーが協力を申し出るが、今のところ手に負えない状況ではない。
それに現実世界では体力が持たないけど、この世界なら自分はパフォーマンスを十二分に発揮できる。
まるで舞踏会で踊るような気持ちで、向かってくる敵を全て返り討ちにする。
ボクが引き付けていると、落ち着きを取り戻した新人プレイヤー達は敵の討伐を開始した。
劣勢は切り抜けた。
これならば後は彼等だけでも倒せる。
もう手助けする必要はないだろう。
頃合いを見て、この場を速やかに離脱しようと思ったのだが。
「ん? これは……」
ピリッと、肌に強い殺意を感じた。
第一層の序盤にこんな圧を放つ存在は、自分のベータ時代の知識にはない。
こういう何かを感じる時は、大抵ヤバいのが出てくると長年のゲーマー直感が警鐘を鳴らす。
離脱するのを中断し、一体何が来るのか身構えると遠く離れた地面に赤い光が発生した。
光は粒子となって一箇所に集まりだし、徐々に何か生き物の姿を形成していく。
そして完成したのは、巨大な角が特徴的な全長3メートルの大牛だった。
頭上に表示されている名は〈ホーンオックス〉。
このエリアで見たことがない牛の怪物は、まるで馬のように上半身を持ち上げ、そのまま両前足を地面に強く叩き付けた。
威嚇なのか、と一瞬だけ思ったけどそれは違うのだと即座に気がつく。
地面を叩いた前足を中心にして、周囲に大きな衝撃波が発生したからだ。
これは……!?
以前似たような攻撃を体験した事があるボクは、とっさにその場から高く跳躍して回避した。
しかし初見であり、初心者だった人達は防御を選択してしまいマトモに受けてしまう。
「え、なにこれ動けない!?」
「ウソだろ、スタン攻撃!?」
うん、アレは恐らく〈スタンウェーブ〉だ。
5秒間だけ、相手を行動不能にするダメージのない貫通する衝撃波。
主に第一層の中ボス〈ミノタウロス〉が使用する。
ベータテストの時は回避をミスして、何度か大戦斧とのコンボ技に真っ二つにされた苦々しい思い出があった。
動けなくなった者達を、大牛は頭部の鋭い角で貫こうとする為に、力をためる動作を見せる。
幸いにも他のモンスター達も、先程の衝撃波で硬直してるので一方的になる心配はないが。
このまま放置したら奴によって、彼らは蹂躙されてしまう。
やるしかないと判断したボクは、眦を釣り上げトリガーに指を掛けた。
「一瞬で決着をつける。──いくよ、フィーア・ブースト」
四回連続で引いて、シリンダーに込められた弾丸を消費する。
消費した弾丸はガンソードを媒体に、セラフ魔術を展開させた。
金色に輝く魔術の陣が、足元から頭の天辺まで駆け上る。
込められている強化の術式が、アバターに力を与える感覚に目を細めた。
ステータスのSTRとAGIは40ずつ強化されて、一時的に二つとも合計値が60となる。
実に三倍のステータスを獲得したボクは、前傾姿勢になると移動系スキル〈ソニックダッシュ〉で大牛との距離を一気に詰めた。
周囲の景色を後方に置き去りにし、狙うは身体を支える筋肉質な前足。
敵の反応速度を超え、勢いを利用した鋭い横薙ぎの斬撃を四足歩行の弱点に叩き込む。
第一層で破格の威力を秘める刃は大牛の足に食い込み、防御値を突破して半ばから切断。
『ウシッ!?』
牛を強調した大きな鳴き声が、敵の口から出る。
突進しようとしていたヤツは片足を失い、勢いを失った巨体は前のめりに倒れた。
だが欠損した部分は再生が始まり、〈ホーンオックス〉は直ぐさま立ち上がろうとする。
「まさかボスの再生能力を持ってるなんて、これは流石にびっくりだね。……でもちょっと遅いかな」
構えたガンソードが、鮮烈な金色の輝きを放つ。
刃を構えたボクは、再生するコンマ数秒の隙をついて〈セラフィック・スキル〉を発動した。
──〈セラフ・ツヴァイソード〉。
右上から左下に振り下ろす、強烈な一撃目。
そして斬撃をなぞるように、左下から右上に振り上げた二撃目が巨体に大きな一本の線を刻む。
ボスクラスの意地か、最後に鋭い角で悪あがきの斬撃を放ってくるけどメタちゃんが身体の一部で盾を作って防いでくれた。
合計二回のクリティカルヒットを受けた大牛は、HPゲージが減少してゼロになる。
身体はポリゴンとなって砕け散り、大きな光の粒子となって消滅した。
「す、すげぇ!」
「たったあれだけの攻撃で倒したぞ!」
「きゃー! かっこいい!」
奴を倒したことで他のプレイヤー達の士気はこの上なく高まり、雑魚モンスターを次々に倒していく。
脅威が無くなったのを確認したボクは、話し掛けられる前にこの場から速やかに退散した。
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