上 下
43 / 43

43

しおりを挟む


◇◇◇



「瀬っ乃生くーん」


週明けの月曜日、瀧の勤めるショッピングモールの従業員用のエレベーター前で先輩社員が元気よく声を掛けてくる。まだ七月の頭だというのに朝からうだるような暑さで参っていた瀧も明るい彼を見て笑顔を返す。

「おはようございます」

「いやー、瀬乃生くん今日もイケメンだねえ。あー、さわやか。暑さぶっ飛ぶわあ。しっかしこの暑さどうにかならん?」

やってきたエレベーターに乗り込み階数ボタンを押すと先輩社員はすかさず閉めるのボタンを連打する。

「このくそあちいのに狭いとこに、これ以上人入れたくないわ」

「ですね」

「そーいや、瀬乃生くん夏休みどうすんの?何連休?」

「土日入れて五連休です」

「どっか行くの?俺?俺はハワイ。なんかもー暑くって。どっか涼しいとこにすりゃよかったよー。で、瀬乃生くんは?」

「カルフォルニアに」

「いいねー!何?ディズニー?ハリウッド?サンタモニカ?グーグル?」

「いえ、ちょっと婚姻届を出しに」

あっさりした返事と合ってない内容に先輩社員は驚きの声を上げた。

「‥‥‥え?ちょお、待って!!聞いてないよ!!瀬乃生くん!!えっ、何?結婚のお相手外国人なの?国際結婚?!あれ?年上だったよね?いや、待ってそうじゃなくて、ん?何でわざわざ外国行くの?外国人と結婚しても向こうで届けって出す必要あった?あれ?ん?あれ?」

「はい、年上で今年30です。日本だと結婚できないので向こうで」

「‥‥‥‥‥‥‥‥。瀬乃生くんってさ、え?え?!」

そのときエレベーターの扉が開き、驚いて動けない先輩社員のために瀧は開くボタンを押し続ける。

呆然としながらものろのろとエレベーターを降りた先輩社員は瀧の方へ振り向いた。

すこし聞きづらそうにぽりぽりと頭を掻く。

「あー‥、瀬乃生くんはあれ?夫を二つ書いて夫夫ふうふってやつ?」


その言葉に瀧はヒューの顔を思い浮かべる。

今日は暑いから二人とも早く帰れたら一緒に冷やし中華を作ろうか。ヒューの好きな醤油味。辛子をたっぷり乗せたやつ。錦糸卵はちょっと自信がないからヒューに任せよう。

でもその前に部屋の掃除を軽くしとかないとな。土日は暑いからって外に出ずに家の中に居たのにほとんどベッドから出なかったから。

まあ、やり過ぎて埃だらけの部屋になったって別に構わない。ヒューがいればそれでいい。どこだって天国だよ。


大きく口を開き瀧は最高の笑顔で答えた。


「はい。外国人男性と結婚して夫夫になります!」






⌘おわり⌘


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

飴
2023.06.19

お互いの葛藤からすれ違ったり、絆が深まったり、素敵な夫夫になる物語面白かったです。

盲腸で苦しんでる姿に一目惚れするって、ヒューさんったら性癖が変態さん♡
ヒューさんの性癖に付き合っていく瀧君の人生に幸あれ。

ミネ
2023.06.19 ミネ

感想どうもありがとうございます!とても嬉しいです(˶ᵔᵕᵔ˶)✿

ヒューは結構な遊び人だったので、きっと数多ある恋愛遍歴のどこかで目覚めちゃったのだと思います。
瀧もそのうち、なんらかの性癖が生まれてヒューとさらにいちゃいちゃできるといいなと思ってます(⋆︎ᵔᵔ⋆︎) .。o♡

解除
みあ子
2022.09.09 みあ子

初めて読ませて頂きました!
とてもよかったです☺️

ミネ
2022.09.09 ミネ

お読みいただきありがとうございます(⸝⸝ᴗ͈ˬᴗ͈)楽しんで貰えたなら嬉しいです!

解除

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

【本編完結済】ヤリチンノンケをメス堕ちさせてみた

さかい 濱
BL
ヤリチンの友人は最近セックスに飽きたらしい。じゃあ僕が新しい扉(穴)を開いてあげようかな。 ――と、軽い気持ちで手を出したものの……というお話。 受けはヤリチンノンケですが、女性との絡み描写は出てきません。 BLに挑戦するのが初めてなので、タグ等の不足がありましたら教えて頂けると助かります。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。