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『どけ』
二月の頭、寒空の下、瀧とヒューのマンションにやって来た早々セオドアは瀧を押し退け、キャリーケースを片手で軽々持ち上げるとずかずかと部屋の中に上がり込んで来た。
案内せずともなぜ分かったのかセオドアは勝手にゲストルームに入りケースから荷物を出しクロークに服を掛けて行く。
『ヒュー、土産』
セオドアは無造作にドアの前にいるヒューに荷物を投げる。
ヒューはすかさずキャッチするとその包みを見て声を上げた。
『テディ!ありがとう!』
瀧がそれをのぞき込めば小さな透明のビニール袋にたくさん詰まったチープな向こうの駄菓子だった。日本でも海外のお菓子は扱っているがパッケージは見た事ないものばかりだ。
瀧の視線に気づいたヒューが手元にあるお菓子の数々を見せてくれる。
「昔、こういうお菓子が好きで」
カラフルな包みを抱えながらヒューはそれをしまいにキッチンへと向かう。
瀧はつまんなそうな顔でヒューの後をついて行った。
「そういうやつ、食べないと思ってた」
瀧が知っているヒューはいつも朝食代わりに有名店や高級店の菓子を食べる姿で、子供向けの発色も鮮やかな駄菓子を口にするところなんて見たこともなかった。
それにわざわざセオドアが買ってこなくてもヒューならば簡単に手に入れられる筈だ。
ヒューはくすりと優しく微笑む。
「これはテディと私のお決まりのやり取りみたいなものだよ」
瀧にわざわざ説明はしなかったが小さな駄菓子たちはヒューとセオドアの思い出の品だ。
元々の家業が菓子メーカーだったこともあってかヒューの家には小さい頃からたくさんの菓子が溢れていた。
周囲の人間から贈られる高級菓子から海外の珍しい菓子、スーパーでも買えるような身近な菓子から自社の製品。
兄妹の多いヒューはおやつの時間にみんなでそれを楽しんだ。とりわけヒューが気に入ってたのは色鮮やかでチープな駄菓子で面白い風味や変わったパッケージなどが好きだった。
ハイスクールになりセオドアと付き合い始めたある日、ヒューの部屋で性行為をした後、机の上にあるリップクリームの形をしたキャンディやタバコの箱に入ったチョコレートなどのポップなパッケージをセオドアが手に取って不思議そうに眺めていた。
セオドアは駄菓子の存在をそれまで知らなくてヒューに説明されると大いに興味を持って、嬉しそうに口に放り込んだ。味は好みでは無かったらしく、一言暴言を吐くとティッシュに包んで捨てた。
『おまえって趣味わりいの』
セオドアはピンク色に染まった舌を出しながら、悪戯心でちょっと子供っぽいその趣味をバカにしてやろうとヒューをにやにやと見た。
『かもね。だからテディと付き合ってるのかも』
ヒューは笑みを浮かべて平然と答える。やったつもりがやり返されセオドアはほんのり頬を赤らめながらちえっ、と舌打ちした。
セオドアは自分と同じようになんでも手に入る環境にいるにも関わらず子供でも買える安い駄菓子を好むヒューのその部分がなぜか気に入り、それからというもの、セオドアがヒューの機嫌を損ねた時や、セオドアのお気に入りの家庭教師が辞めてしまい寂しく人恋しかった時、二人が所属していたバスケットチームが勝利を飾った時など、いつの間にか何か出来事がある度にチョコレートの一個、ガムを一個とセオドアからヒューへプレゼントされるものになっていた。
ハイスクールを卒業する頃にはヒューも自分で買ってまで駄菓子を食べなくなっていたが、大人になった今でも日本に来る時にはお土産と称してセオドアはヒューに駄菓子をいつも持ってきて、ヒューも笑顔でそれを受け取っていた。
二人の間で通じるやり取りがあることに瀧は内心ムッとしたが、その気持ちを見せまいとこれ以上この話を続けるのをやめてリビングへと向かった。
二月の頭、寒空の下、瀧とヒューのマンションにやって来た早々セオドアは瀧を押し退け、キャリーケースを片手で軽々持ち上げるとずかずかと部屋の中に上がり込んで来た。
案内せずともなぜ分かったのかセオドアは勝手にゲストルームに入りケースから荷物を出しクロークに服を掛けて行く。
『ヒュー、土産』
セオドアは無造作にドアの前にいるヒューに荷物を投げる。
ヒューはすかさずキャッチするとその包みを見て声を上げた。
『テディ!ありがとう!』
瀧がそれをのぞき込めば小さな透明のビニール袋にたくさん詰まったチープな向こうの駄菓子だった。日本でも海外のお菓子は扱っているがパッケージは見た事ないものばかりだ。
瀧の視線に気づいたヒューが手元にあるお菓子の数々を見せてくれる。
「昔、こういうお菓子が好きで」
カラフルな包みを抱えながらヒューはそれをしまいにキッチンへと向かう。
瀧はつまんなそうな顔でヒューの後をついて行った。
「そういうやつ、食べないと思ってた」
瀧が知っているヒューはいつも朝食代わりに有名店や高級店の菓子を食べる姿で、子供向けの発色も鮮やかな駄菓子を口にするところなんて見たこともなかった。
それにわざわざセオドアが買ってこなくてもヒューならば簡単に手に入れられる筈だ。
ヒューはくすりと優しく微笑む。
「これはテディと私のお決まりのやり取りみたいなものだよ」
瀧にわざわざ説明はしなかったが小さな駄菓子たちはヒューとセオドアの思い出の品だ。
元々の家業が菓子メーカーだったこともあってかヒューの家には小さい頃からたくさんの菓子が溢れていた。
周囲の人間から贈られる高級菓子から海外の珍しい菓子、スーパーでも買えるような身近な菓子から自社の製品。
兄妹の多いヒューはおやつの時間にみんなでそれを楽しんだ。とりわけヒューが気に入ってたのは色鮮やかでチープな駄菓子で面白い風味や変わったパッケージなどが好きだった。
ハイスクールになりセオドアと付き合い始めたある日、ヒューの部屋で性行為をした後、机の上にあるリップクリームの形をしたキャンディやタバコの箱に入ったチョコレートなどのポップなパッケージをセオドアが手に取って不思議そうに眺めていた。
セオドアは駄菓子の存在をそれまで知らなくてヒューに説明されると大いに興味を持って、嬉しそうに口に放り込んだ。味は好みでは無かったらしく、一言暴言を吐くとティッシュに包んで捨てた。
『おまえって趣味わりいの』
セオドアはピンク色に染まった舌を出しながら、悪戯心でちょっと子供っぽいその趣味をバカにしてやろうとヒューをにやにやと見た。
『かもね。だからテディと付き合ってるのかも』
ヒューは笑みを浮かべて平然と答える。やったつもりがやり返されセオドアはほんのり頬を赤らめながらちえっ、と舌打ちした。
セオドアは自分と同じようになんでも手に入る環境にいるにも関わらず子供でも買える安い駄菓子を好むヒューのその部分がなぜか気に入り、それからというもの、セオドアがヒューの機嫌を損ねた時や、セオドアのお気に入りの家庭教師が辞めてしまい寂しく人恋しかった時、二人が所属していたバスケットチームが勝利を飾った時など、いつの間にか何か出来事がある度にチョコレートの一個、ガムを一個とセオドアからヒューへプレゼントされるものになっていた。
ハイスクールを卒業する頃にはヒューも自分で買ってまで駄菓子を食べなくなっていたが、大人になった今でも日本に来る時にはお土産と称してセオドアはヒューに駄菓子をいつも持ってきて、ヒューも笑顔でそれを受け取っていた。
二人の間で通じるやり取りがあることに瀧は内心ムッとしたが、その気持ちを見せまいとこれ以上この話を続けるのをやめてリビングへと向かった。
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