上 下
17 / 43

17

しおりを挟む
翌日の昼前に瀧は興奮した母の声で起きることになった。一階へ降りるとヒューがリビングのソファで背筋をぴんと立てて母の茗子と雑談している。

瀧が顔を出すと茗子が振り返る。

「ああーん。もうたーきー、いつまで寝てるの。ヒューさん、来てくださってるのよお」

瀧の家族とヒューも顔合わせをしたことがあり、ヒューは瀧の家に何度か訪れている。その時にそれぞれとスマホのメッセージアプリで連絡先を交換しておりヒューと瀧の一家は頻繁にやり取りをしている。

瀧からの連絡を一晩中待ち、居ても立っても居られなくなったヒューは朝になって茗子と連絡を取った後、仕事を休み、瀧の家へとやってきた。

「突然来てごめんね。瀧と連絡が取れないから心配になって」

「瀧、ちゃんとヒューさんと連絡取りなさいよ」

「あー‥、ごめん。疲れて寝てた」
瀧は全く悪びれず、ぶっきらぼうに答える。

「ヒューさん、瀧が私のご飯食べたいって言うからレシピを教えてほしいって言ってくれるのよお」

「いや、それは後でいいから‥。とりあえず、ヒュー、俺の部屋行こ」

二階へ上がり、部屋に入るとすぐに名前を呼ばれ、後ろから抱きしめられる。

「瀧が居なくて昨日とても寂しかった。死んでしまうかと思ったよ」

明るく冗談めかしてヒューは言うが、何の連絡もなくマンションにも帰ってこない昨夜は気が気じゃなかった。誰と会っているのか、どのように過ごしているのか悪い妄想がヒューの頭を駆け巡り、最悪の事態を想像してはその可能性を否定して、また思いついては打ち消しての繰り返しだった。

深夜にやっと瀧から連絡があり、その文面をそのまま信じたわけではないが、ひとまず返事があったことに安堵し、ヒューも返事を返したがそれ以降、音沙汰が無い。

瀧の返信をいつまでも待ち、スマホを手から離せず、眠れずに夜明けまで送られてきた瀧のメッセージの文面に思いを巡らせ、朝になって母の茗子に事実確認と訪問の了解を取るためメッセージを送った。

「わざわざ来なくていいよ。連絡しただろ」

瀧は投げやりな口調で、ヒューと目を合わさずに部屋のベッドに腰掛ける。

瀧は瀧で昨夜は眠れなかった。女の子相手に勃たなかった自分に焦り、その出来事を忘れるため一所懸命にお気に入りの女優のエロいシュチュエーションを思い描くのだが、脳裏によぎるのはベッドでのヒューの甘い囁きや整った身体、色気のある息遣いで、それを思い出しては下半身に重い熱を感じている自分を戒め、いつの間にか夜は更けていった。

そのせいで瀧の機嫌はすこぶる悪い。瀧は男性の機能が異性に対して正常に作用しなかった原因をヒューのせいにしてその動揺や恐れを拭おうとしていた。

瀧のにべもない態度に、ヒューの頭には昨夜思い浮かべた数々のネガティブな可能性がよぎる。
瀧はそもそもストレートで同性に興味はない。そんな彼が自分から離れてしまうことは簡単なことのように思えた。

これまでもそれが怖くて高い頻度で瀧の性的欲求を満たすように夜に奉仕してきたのだ。

ヒューは瀧を誰にも渡したくなどない。


瀧を想う時に一番最初に思い出すのは、初めて彼を見た時だ。

自社の飲料水のCM撮りの日、燦々と輝く光を浴びた窓辺の作り付けのベンチで苦しそうに脂汗を浮かべていた。

その次は自分達の関係に慣れてきた瀧が自分からしてくれたキス。一緒にリビングでテレビを見ているちょっとした合間だった。驚いたヒューが少し目を見開くと、「何?」と、わざと怒ったような態度をとった時の顔。

いつからか瀧の瞳に浮かぶようになった好意の感情に気づいた時は地面から足がぷかぷかと浮きそうなくらい舞い上がったのを覚えている。


瀧を手放したくない一心からヒューは瀧の足元に跪くとおずおずと瀧の太腿の傍に手を置いて見上げた。ヒューは切なそう表情を浮かべ、その顔を瀧の太腿に横たえた。


「‥瀧、お願い。帰ってきてよ」


ヒューみたいな地位も美貌も財産も、何もかもを手に入れているような男が自分の足元に伏し、まるで甘える犬のように歓心を買うその姿を見た時、瀧の裡でぞわりとした暗い喜びが生まれた。

瀧は太腿で頬擦りすらしそうなヒューのこめかみ辺りから指を入れて手櫛で梳く。

「ヒュー、このまま出来る?」

梳いた手を頭の後ろで止めるとそのまま少し自らの股間のほうへ引き寄せるように力を入れた。

真っ昼間の他人ひとの家で、この上品を絵に描いたような男が同じ男の性器を咥える様を想像するだけで瀧の心は熱く乱れた。

窓から入る明るい日差しが瀧が中学生の頃から使っているベッドとその上の二人に降り注ぐ。


ヒューはほんの一瞬、躊躇いを見せたがゆっくりと瀧の太腿の際に顔を近づけると、柔らかく盛り上がったそこに唇を当てた。

そのまま喰み、そっと吸い付く。瀧の性器は服の上からの刺激でも十分で、すぐにぐぐっと容量を増した。

形がしっかりとわかるようになるとヒューは腰のゴムの部分に指を掛け脱がすように促す。瀧が緩慢に腰を上げると、ヒューは瀧の履いているスエットを丁寧に脱がした。

勃ち上がる瀧の性器を舌で包みながら唇を窄めて何度かじゅぷじゅぷと扱くと、溜まった欲はすぐに弾けてヒューの口内に吐き出された。

瀧に喜んで欲しいと訴えるように、口の中に放たれた精を飲み下すヒューを、快楽を手放したばかりのとろんとした目で瀧は見つめる。その瞳の中には翳りのある悦びがある。

「ヒュー。ヒューも気持ちよくなって」

瀧が自分の股の間で唇に僅かについた残滓を舐めとる魅惑的な男を見下ろすと、彼も熱の籠った目で見つめ返す。

「ヒューがイクとこ、俺に見せて」

ヒューは瀧の裡に咲いた爛れた感情をその目に見た気がしたがそれに触れることはしなかった。

瀧の望むままに振る舞うことに抵抗はなかった。

跪いた姿勢から腰を床に下ろし、ベルトに手を掛ける。まだ静かなその場所をボトムスから出すと緩やかに指を絡めた。

目を伏せ、思い描くのは苦しそうに眉を寄せる瀧の顔だ。再び出会えるまでの半年間、幾度となくあの日の瀧を思い出しては一人で慰めることもあった。

勃ち上がる性器を上下に律動させ快感を掬い取る。下げていた瞳を瀧に向ければ、熱に浮かされた顔でこちらを見ていた。

切長の美しい二重の瞳が蕩けて恍惚の境地にでもいるかのようだ。

官能的なその姿にヒューの劣情も煽られ、手の中にある自身がボリュームを増した。
次第に、絡まるように上下を行き来する指のスピードが上がり、ヒューが僅かに震えると同時に白濁の液が蒔かれる。


白い飛沫が弾け飛び、瀧の頬にぴちゃりと跳ねた。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島
BL
◆社会人+ドシリアス+ヒューマンドラマなアラサー社会人同士のリアル現代ドラマ風BL(MensLove)  甘いハーフのような顔で社内1のナンバーワン営業の美形、佐藤甘冶(さとうかんじ/31)と、純国産和風塩顔の開発部に所属する汐見潮(しおみうしお/33)は同じ会社の異なる部署に在籍している。  ある時をきっかけに【佐藤=砂糖】と【汐見=塩】のコンビ名を頂き、仲の良い同僚として、親友として交流しているが、社内一の独身美形モテ男・佐藤は汐見に長く片想いをしていた。  しかし、その汐見が一昨年、結婚してしまう。  佐藤は断ち切れない想いを胸に秘めたまま、ただの同僚として汐見と一緒にいられる道を選んだが、その矢先、汐見の妻に絡んだとある事件が起きて…… ※諸々は『表紙+注意書き』をご覧ください<(_ _)>

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

【本編完結済】ヤリチンノンケをメス堕ちさせてみた

さかい 濱
BL
ヤリチンの友人は最近セックスに飽きたらしい。じゃあ僕が新しい扉(穴)を開いてあげようかな。 ――と、軽い気持ちで手を出したものの……というお話。 受けはヤリチンノンケですが、女性との絡み描写は出てきません。 BLに挑戦するのが初めてなので、タグ等の不足がありましたら教えて頂けると助かります。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

処理中です...