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「あれ、ヒュー、ネクタイ少し曲がってない?」
飲み終えたカフェラテのマグをキッチンに片付けに行く瀧はヒューの少しばかり歪んだネクタイに気づいた。
「ん」
シンクに行く瀧の後を追いかけて両手のマグを置くのを見計らうとヒューは上半身を前に突き出して直して欲しいのポーズを取る。
「はいはい」
瀧がきちんとネクタイを直し終えると「ありがとう」とこめかみにキス。
ソファの上に置いておいた通勤カバンを持つヒュー。
「瀧も今日は大学一限目から?」
「うん。もうすぐ出る」
もう一度身体を寄せると今度は行ってきますのキスを強請る。
「はいはい」
瀧からヒューにキス。朝、一緒にいるときは必ず出勤前のヒューからキスをせがまれる。
「また連絡するね」
ヒューはマメで一緒に暮らし始めても、お昼やちょっとした休憩、仕事終わりなど時間があると瀧にすぐメッセージを送る。同棲前よりもマメなくらいだ。モテる瀧が年頃の男女が溢れるようにいる大学に行くのが心配なのだろう。
「はいはい」
適当に相槌を打ち瀧はヒューをその場で見送った。
ヒューが玄関を出ていくと瀧は軽く伸びをして先ほどのマグを濯ぎ、食洗機へと入れる。
ヒューも瀧も朝はあんまり食べないタイプなので、カフェラテと少しのスイーツだ。ヒューは甘いものが好きで、菓子メーカーの御曹司とだけあって舌も肥えているようで、この朝のスイーツはお取り寄せや、デパ地下、果ては並んでしか手に入らないような有名店(これはわざわざ代行業の人に頼んで買ってきてもらう)などで購入するこだわりようだ。
瀧も衣類や荷物を置いてあるゲストルームだった部屋に着替えに入る。ヒューのマンションに越してからは大学までの通学時間が短くなったのが嬉しい。
ヒューと暮らし始めて早一ヶ月。
支度を整えるとちらりと棚の上の箱に入ったままの腕時計をみた。
この時計はヒューと触れ合いだけの夜を共にした次の日に婚約指輪の代わりにと送られたものだ。
いつも身につけていて欲しいと言われて喜んで包みを開けた。確かにゴテゴテとした派手なものではなく、濃紺の革のベルトにゴールドのケースのトノー型の文字盤でカジュアルにもフォーマルにもよく合いそうなシックなデザインの腕時計だったのだが、箱の重厚感と時計の輝きが今までに見たことのない高級感を存分に振り撒いており、瀧は失礼ながら思わず値段を聞いてしまった。
もちろんヒューはその質問を軽くいなして答えなかったが、正直瀧はこの腕時計を毎日普段使いできるか気後れし、こっそりスマホで値段を調べてしまった。
スマホを見て瀧は心臓がちびりそうなくらい驚いた。
都内の一番小さな部屋のマンションが買えそうなくらいその腕時計はしたからだ。
「た、大切に取っておくね」
そう言うのが精一杯で、瀧は自分とヒューの格差に少し落ち込んだ。
ヒューはいとも簡単にこんな高額のものをプレゼント出来てしまうのだ。
瀧は代わりに何を返せばいいかもわからないし、そもそも婚約指輪を貰う側なのも正直腑に落ちない。じゃあ、自分もと言ってヒューに相応しいようなプレゼントを、姉に借金すらあるような瀧は出来るはずもない。
そんな腕時計を眺めながら、その重みに少しため息をついて瀧は大学へと向かうため二人が暮らす家を出た。
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