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あれから毎日、いや、毎時間おきにと言ってもいいくらい唯継からかまってLINEがくる。俺は大体無視している。だから1/3くらいしか返してない。‥まあ本当はもうちょっと返してる。多分半分くらい‥。‥‥‥もうちょっとだけ多いかもしれん。

そんで俺が返すと唯継から即レスで返事がある。てか、ほんと仕事しろよ、御曹司。

初めて会った時の印象だともっとしっかりした感じだったし、おじいちゃんが返却しなかった本をわざわざ返しに来てくれたりしてもっと真面目なタイプかと思ったのに。

ぽろん、ていう通知音と共に今日も構って欲しげなおめめうるうるなうさぎがこっちを向いてごろごろ寝転んでいるスタンプが送られてきた。うさぎめ、そんな目でこっち見んな。ついつい返信してしまいたくなってしまうじゃないか。


唯継、元気してるのかな?元気そうなのはLINEでわかるんだけど、ちょっとだけ顔が見たい。じつはこの間の図書館の一件から連絡は山のようにくるけど実際に会いに来てはくれては無いんだよなあ。そのせいもあるのか、ついついメッセージに返信しちゃうんだ。

なんで連絡はこんなにくれんのに会いに来てはくれないんだろ。

それはつまり、俺に絡んできたのって美形の気まぐれってやつだったのかな。そうだよな、恋愛だって慣れてそうだし、場数だってこなしてそう。ちょっと毛色の変わった俺にちょっかい出してるだけなのかも。

くそ、ちょっとだけ好きになっちゃってるからこんなこと考えてしまう自分がなんかくやしい!

でもあっちじゃん。恋人になりたいみたいな匂わせしてきたのって!だから俺は変に意識しちゃうんじゃん!?そうだよな??そうだよね?

そんで色々考え出したら妄想が止まらなくなって、手元のスマホの画面には『初心者でも大丈夫!気持ちいいアナルセックスのやり方』。

これはつまりあれだ。唯継が図書館で言い寄って来てキスとかするからちょっとだけ男同士の恋愛ってどんなのか興味が湧いて単に調べてるだけ。決して唯継とやりたいとか思ってるわけじゃないから。それだけは言わせて?

ふーん‥、ほーん、へえ‥。スマホをスクロールして記事を読めば、結構うしろって大変そう。俺童貞だから唯継に負担かけたりしないかな?でも、俺に声を掛けるくらいだし、あの美形だから唯継は慣れたりして。そんで結構テクニシャンだったりして‥。俺の頭には、裸できれいな背中の筋肉をくねらせて腰を突き出しながら俺を誘う唯継の姿が‥。

そこまで考えて俺は自分の頭を掻きむしった。いやなに考えてんだよ!違うだろ!方向が!!

俺は自分に叱咤する。俺は女の子を抱きたい!そう!!ぜったいそう!!だから、唯継は抱かない!!!

そんで俺はいま急に思いついた決意を胸に、座ってたベッドから勢いよく立ち上がると自分の部屋を出て、乱暴に隣の姉ちゃんの部屋のドアを叩いた。

「姉ちゃん、居る?!」

俺の大きな声にうるさそうにしながら姉ちゃんはドアを開けた。どうやら起きたばっかりみたいですっぴんの目鼻立ちの薄い顔が眠そうにこっちを見てくる。

「なあに」

なんかエモ可愛いアニメのTシャツとショートパンツ姿の姉ちゃんはだるそうに首をぼりぼり掻いている。その指先のネイルだけは完璧だ。

「‥そ、その」

「なによー」

ちょっと恥ずかしいからもじもじする俺。本当はこんなことあんましたく無いけど。

「なにー、早く言ってー」

「‥‥お、俺を、お、おしゃれにして」

頬染めてうつむくと姉ちゃんが満面の笑みで、がばりと抱きついてきた。

「百介ー!ようやくやる気になったかー!!」

姉ちゃんは嬉しそうにうんうんとうなずく。

「百介はちょっとつり目ぎみで奥二重だけど私より目ぇぱっちりしてるし、目も口も小さいから身だしなみをもっと整えればぜったいかわいいんだよ!もう前からずっと言ってんじゃんー」

「可愛いじゃなくかっこよくして!」

「はいはい、はいはいはいはい」

「いいからちょっと待ってて」と言うと姉ちゃんは倍速で着替えて、ちゃちゃっとメイクするとあっという間にそれなりの美人になって出てきた。

「じゃあ、ほら百介いくよ」

そんでその日、一日俺は姉ちゃんに連れ回されて美容院に行って、そのあと服屋を何軒か、それからプラザでメンズコスメ(化粧水と乳液だけだけど)を買って、色んな店で店員さんと姉ちゃんに可愛いですねって何度も言われて帰ってきた。

俺は部屋に戻ると、短くいいかんじにセットされた髪と丸メガネのなんか洒落た服着た自分の姿を鏡で見る。

は、恥ずかしいいい。

思わず俺は顔を手に当ててその場にしゃがみ込んだ。

「おっ、おっ、おっ」

なんか声出た。これ何?雄叫びかなんか?はあ~、知り合いが見たら何お前が洒落っ気出してんの?とか思われねえかな?

俺みたいな地味タイプがこんなチャラついた風な格好してるのルール違反じゃない??

とまあ、思うことは多々あるが自分が選んだ道だ。俺はぐっと込み上げる恥ずかしさを堪え、スマホのマッチングアプリを起動させた。

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