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夕食に連れて行かれたのは高層ビルの多分とっても素敵な夜景が見えるであろうリッチそうなレストランだった。

「え、まじかよー‥。ここ入るの?」

店先で尻込みする俺。イタリアンだかフレンチだかしんないけどマナーもちょっと怪しいし、格好もちまむらだし、気まずいんだけど。

俺がちらっと唯継を見ると「ここのご飯、美味しいよ」って、唯継にとっては普通の飯屋と同じ感覚で行く店のようで気にしている様子もない。

「おー‥」

俺は悩んだが、恥を忍んで隣に立つ唯継を見上げ見つめた。

「ドレスコード‥」

「ないから安心して」

「マナーちょっと危うい‥」

「個室だし気にしなくていいよ」

気が利くね。でも緊張してなに食ってるかわかんなくなりそ。家族のお祝いでもこんなところ来たことない。

たじろぐ俺に唯継はやっと気がつくと「あー‥」って呟いてちょっとしょんぼりした顔をしてこっち見てきた。

「失敗した。好きな子のリサーチが甘かった。なに食べたいかこういう時は事前に聞いておくべきだよね」

冗談めかして唯継は俺を見る。うんうん、そうだなそうだな。

「だよな。まあこれは練習だから気にすんなよ」

明らかに機嫌が良くなる俺に唯継はくすりと笑う。

「じゃあ練習。ももはなにが食べたい?」

俺は満面の笑みでその質問に答えた。

「焼肉」




「く、あーーー!!」

キンキンに冷えたジョッキの半分を一気に飲み干すと俺は盛大に声を上げた。美味い、美味すぎる。

とりあえずの生最高。コーヒーの苦味は苦手だけどビールの苦さは全然別。俺はジョッキ片手にうきうきしながらメニューを眺める。

なに食おっかなあ。うお、なんだこの店メニューに値段がねえ。‥まあこの店の雰囲気だと大丈夫だろう。俺が敷居の高い店に躊躇していたことに気づいた唯継はアットホームぽくて、とても綺麗な焼肉屋に連れてきてくれた。

「ももは焼肉好きなんだね」

「嫌いなやついないだろ」

俺はジョッキを空にすると店員さんを呼び、ビールのおかわりと上タンとキムチとナムルを注文する。

やってきた上タンをトングで嬉しそうにひっくり返す俺を見ながらにこにこと唯継が俺に聞く。

「今日は最後失敗しちゃったな。今度のデートはもっと喜んでもらえるように相手の行きたいところを聞こうと思うんだけどどうかな」

てか、この上タンくそ美味え!!!口いっぱいの幸せの味の上タンを噛み締める間もなく、俺はそれを途中でごくっ、と飲み込んだ。それ、俺に聞いてるんだよね?

「さ、さあ‥。女子の好みなんて俺わかんねえし‥」

「僕、別に相手は女性だと言ってないし、ももは僕の恋の応援をしてくれるんじゃなかったっけ?」

からかうようにとぼけた様子で唯継が瓶ビールを自分のコップに注ぐ。

「次のデート、ももはどこ行きたい?」

「‥‥男ならスポーツ観戦とかいいんじゃねえの‥」

「ももは野球が好き?それともサッカー?」

「‥‥カーリング」

俺はスポーツあんま観ない。家で本読んだりする方がいい。俺のふざけた返答にも唯継は笑って返す。

「じゃあカーリングの動画探しとくよ。ルールいまいち良くわからないから観ながら教えてよ」

「やだよ。俺もルール知らないもん」

「だめじゃん」

ぷっ、と唯継は笑う。

「ほんとはどっか出かけるよりもクーラーが効いた涼しい部屋でだらだら本読みながら過ごすのが好き」

軽快な会話につい本音が出た。聞いた瞬間、ぱあっと唯継の顔がほころぶ。

「じゃあ、今度はうちに遊びにおいでよ。快適な部屋で二人で読書しよう?夕食もなにか頼んでさ。のんびりうちで過ごそうよ」

なんか魅力的な誘いになってきた。はっきり言って唯継は雰囲気もいいし、一緒にいて居心地がいい。

でも、たまに練習で変なスキンシップを取られるとあれだしな。あれっていうのは、それは、その、そうなるとあの胸がまたトゥンクするかもだろ。だから練習とはいえ家行ったらだめじゃねえ?てか、そろそろ俺だって気づいている。唯継の好きなやつって、だから、その、あれだろ。

‥‥‥。

‥俺だろ?


「‥‥行かない」

俺はジョッキのビールを飲み干し、半分こした締めの冷麺をかき込むと会計の札を手に取り、席を立った。

「今日はもう帰る」

ちなみにどうでもいいけど、唯継の店のチョイス高級すぎるだろ。レジで会計したら値段にびっくりしたわ。

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