幽霊の足跡

ジャメヴ

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幽霊の足跡

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「そうですか、分かりました」
俺は、これ以上の話は無意味だと考え、会釈をしてその場を去った。
「小牧さん」
日吉が後ろから声を掛けてきた。俺は日吉の車を指差し言う。
「車で話そうか」
俺はスマホで今日のこの辺りの天気を確認しながら車に乗り込んだ。
「こうなってくると家政婦さんも怪しく見えてきましたね」
「まあ、彼女は無いな。犯行は当然可能だが、足跡が無かったと自分が不利になる証言をしている。犯人心理からすると考えられない言動だろう」
「そうですね。足跡が無いなら、雨が止んだ後は自分しか離れに行っていない事になりますもんね。恋人の美園はどうですか?」
「保険金の受取人になっているし、愛人関係にあったというのは間違い無いだろうが、足跡の問題がある。家政婦が言っているように、午後1時過ぎから20分程度、強い俄雨《にわかあめ》が降っているようだ。美園はここに、午後2時に着いたのだから、それ以降に犯行を行なえば足跡がつくだろうからな」
「何かトリックを使ったとは考えられませんか?」
「美園は学に呼び出されて来ている。殺すチャンスですよ~って言われても、素人が瞬時に足跡を残さないトリックを考えつくとも思えない。まあ、学はミステリー小説家の卵なんだから、彼だったら瞬時に思いついても不思議じゃないが、学なら雨が降る前に犯行を成立させられるしな」
「そうですね、う~ん……。ちょっとタバコ吸ってきます」
日吉は車を降り、電子タバコを咥《くわ》えた。俺は目を閉じ、考える。

  学が犯人……。そんな簡単な事件とは思えない。足跡がついていない現場……。争った形跡の無い被害者……。保険金受取人の愛人……。しかも、息子の恋人……。幽霊……は関係無いとして……ん?
  その時は幽霊というワードで思考を停止してしまったが、家政婦は奥さんの香水の残り香がしたと言っていた。もしかして、犯人は亡くなった奥さんの遺品を持っていたのか?

ガチャ
運転席側のドアの開く音がしたので、日吉が戻ってきたと思い、俺は目を開け、そっちを見た。
「小牧さん、今、青山タクシーから連絡があって、今日の午後2時頃に、派手な若い女性を中井邸へ送り、午後2時半頃にまた連絡があって、迎えに行ったと確認が取れました」
「なるほど。それは篠原美園で間違い無いだろう」
「あっ、そう言えば……」
日吉は何かを思い出したようにスマホで調べだした。ふと、日吉越しに運転席側の窓から外を見ると、1台のタクシーが停まり、派手な若い女性が降りてきた。ファッションに詳しくない俺でも知っている高級ブランドのカバンを持ち、ウエーヴ掛かった茶色の長髪をなびかせている。濃いメイクで、目の周りは真っ黒に塗られ、真っ赤なルージュが印象的だ。
  俺は直感的に篠原美園じゃないかと思い、車を降り彼女に近付き声を掛ける。
「すみません。もしかして、篠原美園さんですか?」
「はい、そうです。お役にたてればと思いまして……」
彼女は緊張した面持ちで会釈をしながら言った。俺は「犯人は現場に戻る」という言葉が頭を過《よぎ》った。
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