嫉妬が憧憬に変わる時

ジャメヴ

文字の大きさ
上 下
8 / 15

高級寿司

しおりを挟む
  部屋の鍵を閉めずにベッドに横たわり、目をつぶっているうちに俺は20分程度眠っていたようだ。短時間の割にはスッキリした目覚めだ。俺はスマホの時刻を見るともうすぐ午後6時。最初の交代時間なので、関係無いけど一応出ておく事にした。
  サングラスとマスクをつけ、ドアを開けて廊下へ出る。階段まで歩き、下を見ると全員集合している。丸刈りの男は皆から離れている。俺と一緒で4人の大学生とは無関係みたいだ。
  ロマンスグレーの髪の執事が話す。
「それでは少し早いですが、次の方がいらっしゃってる様なので、交代にしましょう。お疲れ様でした。それと、私はこれから夕食を買いに街へ出掛けますので、30分程、留守番お願い致します」

  茶髪と丸刈りの男を残して、その他の人達は各々の部屋へ戻り、ロマンスグレーの髪の執事は館を出ていったので俺も部屋へ戻る事にした。
  部屋に戻ると、山田さんから返事が来ていた。
『えっ?!  アイツらもソコソコ空手強い筈だけどな。8万ケチる為に強い奴呼んだかな?  あっ!  その強い奴にお前は勝ったと言う自慢か?』
俺は返信を送る。
『いえ、俺は闘わずに合格って言われたんですよ。変ですよね?  日本一になった情報入っていたんですかね?  空手部の人達は、試験官が空手だから柔道部を避けたみたいな言い方してたんですけど……』
送信後、俺はスマホを机に置き考える。

  結構暇だな。楽な仕事だ。実際のボディーガードも、事件が起こったら大変だけど、何もなければ楽チンなんだろうな。

◆永遠はボディーガードを甘く見ていた。ボディーガードというのは、事件が起これば生死に関わるし、事件が起こらなくとも、常に集中しているので疲労困憊になる。軽視できる事ではない。◆

  俺はスマホで動画を見ながらストレッチをする。今流行りの『ながらストレッチ』だ。筋トレなどは鍛える部分を意識して行なった方が筋肉はつくのだけど、ストレッチは伸ばす部分を意識してはいけない。余計な力が入ってしまい伸びないんだ。そこで良いのが『ながらストレッチ』だ。動画等を見ながらストレッチを行なえば意識が動画にいっており、伸ばす部分に余計な力が入りにくくなる。

コンコンコン
  誰か来たようだ。
「はい、空いてます」
ガチャ
  俺がドアを開けに行こうとすると、ロマンスグレーの髪の執事が高級寿司が入っていそうな漆黒に金の装飾がされた器と500mlペットボトルを持って入ってきた。器とペットボトルを机の上に置いたので覗き見る。
「おおお!  旨そ~!」
予想通り高級寿司が入っている。12貫のようだ。12貫と聞くと、一般人の感覚だと少ないように感じるだろう。回る寿司チェーンなら6皿だ。だけど、ネタの大きさが違う!  更にネタの艶が違う!
「お召し上がりください。失礼します」
バタン
  そう言うと、ロマンスグレーの髪の執事は部屋を出ていった。俺はもう1度寿司を確認する。

  中トロを発見した!  流石高級寿司!  多分だけど、大トロ、中トロ、イカ、エビ、アナゴ、タイ、ヒラメ、カニ、ウニ、イクラ、ハマチ、サーモンだ。
  通は何から食べるのだろう?  白身魚から食べるのが基本だった筈だけど、そんな事は気にせずに食べるのが一番旨いよな。

◆料理の味は気持ちで決まる。「料理は心や~」と言う有名な料理人がいたが、全く、その言葉通りだ。作る側の気持ち、食べる側の気持ち。食べる人の事を考え、好きな食べ物、嫌いな食べ物が何かを調べて料理を作れば美味しいに決まっている。気持ちがこもった料理が美味しいのはそういう事だ。また、お腹がすいて食べたい気持ちが強い時は何を食べても旨い。ひもじい時にまずい物なし、という諺がある。まさに、そういう事だ。
  減量中のボクサーに至っては、水が最も美味しく感じられると言う。普段であれば味のしない水でさえ美味しいと感じられるのだから、気持ちが大事だという事がよく分かるだろう。他にも、友人などと楽しく話をしながら食べる時も美味しく感じる。逆に怒っていたりイライラしている時やスピーチ前などで緊張している時に高級料理を食べても味がしない。
  要するに、食べる側の気持ちによって味は変化するのだ。だから、食べたい時に食べたい物を食べるのが一番旨い。◆

  俺はいきなり大好物の中トロを頬張った。

  旨~い!  流石高級寿司!  さて、お次は……大トロか?  それともカニか?  ここで白身魚か?

  俺は色々考えて、嫌いなイカを頬張った。

  旨~い!  流石高級寿司!

  俺が嫌いなイカを好きになる程、高級寿司は旨かった。
  そして、高級寿司を食べ終え、ペットボトルのお茶を飲もうとして掴み、ふと思った。

  冷たい……。普通、お寿司の時は熱いお茶じゃないか?  そもそもペットボトルを客に出すって……。

◆寿司には基本熱いお茶が出てくる。もちろん、意味も無く、熱いお茶を出している訳では無い。脂分の多いネタを食べた時に口に残ってしまう脂を洗い流し、解消してくれるのだ。脂は熱に弱い。そのお陰で、次のネタの味の邪魔をせず、美味しく食べられるという事だ。◆

  執事さんは普段、王の世話をやっていけてるのか?  俺達が今回限りだからって手を抜かれてるのかな?  あっ!  そういえば、今、監視をしている人達は食事をしているのか?  トイレに行く振りをして見に行こう。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でもある時、マリアは、妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...