桜の花が散る頃に

ジャメヴ

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入団テストの合否

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  逆転狙いか……。僕の単独優勝は難しそうかな?  今のところ単独トップだけど、次もイジメっ子になりそうだしね。最後のゲームだから、負けている人達は朝礼ステージで勝負しにいかないといけない。中川さんと小園は玉砕覚悟でイジメっ子を指名するだろうな。そんな事より手塚の順位だ。順位がそのまま合格の基準になるとは思えないけど、ドベだと不合格ってのはありそうだ。そうなると、手塚は下手に動けない。中川さんと小園が動いて漁夫の利を得た方が得だろう。あっ!  薬丸の性格上、正義感が有ったとか無かったとか言うのかも知れない。正義感……。誰かが困っている時に助けるのが正義なのか?  このゲームで困る事ってなんだろうか?  マジョリティーゲーム……。多数決で困っている人を助ける方法……。イジメっ子……。ん?

「それでは、時間となりましたので最終戦を始めます」
全員が中央の机へ向かう。いつものように薬丸は机の上でカードを交ぜた後、僕達の前へカードを配った。全員がカードに手を伸ばす。僕は、当然ジョーカーなのだろうと思いながらカードをめくった。違う!  ハートのエースだ。さすがに僕はリアクションをとってしまった。という事は、薬丸が意図的に僕へジョーカーを配っていた訳では無く、今までは偶々《たまたま》ジョーカーがきていたって事だったんだろうか?

「それでは投票ステージを開始します」
僕は軽く周りを見た後、机へ向かう。全員が後ろを向いているのを確認して、『手塚』と記入し、薬丸へ渡すと直ぐに席を立って、後ろの黒板の定位置へ戻る。

  最終戦なんだ。投票ステージで手塚が消えるのは避けたい。不合格になるにしても、手塚の判断ミスに寄るものでないと、手塚本人はもちろんの事、僕としても納得出来ない。そして、薬丸の合格基準の考えが何となくだけど、分かったような気がする。このマジョリティーゲーム……世の中のイジメがどうすれば無くなるかを考えさせるゲームなんじゃないだろうか?  イジメを無くす方法とは……?

「それでは結果を発表します。親盛4票、中川さん1票手塚1票で、排除者は空です」
「え~!  また負け~?!」
「それでは朝礼ステージへ進みます。1分程待ちますので、全員外を向いて、指名するかどうかを考えてください」

  さて……中川さんは、まず指名するだろう。指名しなければイジメっ子確定と言って良いかも知れない。手塚は下手に動けない。人見は……微妙だな。まあ、僕が手塚を勝たせる為に出来る事は人見を指名する事じゃないかな?

「それでは、指名したいと言う人は挙手お願いします」
僕は右手を挙げた。しばしの沈黙が流れた後、薬丸が話す。
「では、挙手された方はこちらを向いてください」
僕はゆっくりと薬丸の方を向いた。と同時に中川さんも薬丸の方を向いた。中川さんはイジメっ子では無かったという事。しかも、僕を見てビックリしている。なるほど……僕を指名しようと思ったけど、僕が指名者だったからビックリしたんだな。

「それでは、イジメっ子だと思う人を指差してください」
当然、僕は人見を指名する。中川さんも人見を指名した。もし、手塚がイジメっ子なら手塚の優勝だ。そう思っていると、薬丸が机で何かを書き出した。という事は、人見がイジメっ子か?
「それでは、皆さんこちらを向いてください。朝礼ステージでイジメっ子の確定に成功しましたので、イジメっ子の負けです」
「おお~!」
小園が声をあげた。薬丸は話す。
「親盛と中川さんが人見のイジメっ子指名に成功しました。今回のポイントは、人見がマイナス1ポイントで親盛と中川さんがプラス2ポイント。手塚はプラス1ポイントで空は0ポイントです。最終結果は……親盛が5ポイントで優勝、中川さんと手塚3ポイント、人見と空は1ポイントでした」
「手塚君の合否はどうなの?」
中川さんが声をあげた。結局のところ、これはゲームでは無く、入団テスト……。僕の優勝とかどうでも良い。
「では手塚、入団条件を読んでくれ」
薬丸は手塚へ茶封筒を渡した。特に封はされていないようで、手塚は茶封筒から中の紙を取り出す。全員が紙を覗き込む中、手塚は皆に内容を読み上げる。
「合格条件は、
①優勝
②子分に1度もならない
③外れても良いから1度でもイジメっ子を指名する
のどれか1つを満たす事」

「という事はどっち?」
中川さんが聞いたので人見が答える。
「手塚さんは2位タイで、子分にもなりましたよね。でも、イジメっ子を指名していました」
薬丸は答える。
「いや、あれは練習の時だ。本番は指名していない」
「えっ?!  じゃあ……」
「不合格です」
薬丸は遠慮もせず言い切った。最悪の空気が教室内に流れる。更に薬丸は続ける。
「もちろん、今回は不合格ですが、手塚の入団を認めないと言う意味では無く、次回合格であれば問題ありません。今回は不合格と言う意味です」
「そうか……」
手塚は多くを語らず、教室を後にした。
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