上 下
8 / 9

マジシャン

しおりを挟む
「……では、このカードを弾くと……」
「わ~、凄い!」「何で~?!」
「以上です。ありがとうございました」
パチパチパチパチパチパチ……

  今日は少し大きめの居酒屋でマジックショーを行なった。 そう、僕はマジシャンになったんだ。現在35歳。何とか生活出来る程度の安月給だけど、嘘をつかずに皆を驚かせる事が出来るマジシャンを天職だと感じている。皆の前でマジックを披露するのは緊張するけど、もう随分慣れてきた。実は、いきなりマジシャンになった訳では無くて、高校卒業後は2年間、中小企業でサラリーマンとして勤めた。百田達と和解して以来、嘘をつかずに過ごしてきたけど、会社では、子供の頃は悪とされてきた嘘も、大人になると必要だと気付かされた。だけど、悪だという意識を植え付けたせいか、上手に嘘をつく事は今更無理だった。同僚からは「もう良い大人なんだから」と言われたけどね。僕は建前を上手く使いこなせず辞職したんだ。

  お客さんの温かい拍手の中、今日の最後のショーを終え、控え室代わりの部屋へ向かおうとした時、急激な頭痛と眩暈めまいに襲われた。僕は、たまらず片膝をついてうずくまった。周りが「救急車~!」とか騒いでいるけど、気にする余裕が無い。
  痛い……。頭が割れるように痛い……。こんなに順調な日々が続いていたのに……。すると、小さい頃の記憶がよみがえってきた。そういえば、嘘ばっかりついてきたな……。バチが当たったのかも知れない……。原因も分からずこのまま死んでしまうのか?  

ドサッ

  僕は意識を失った……。
しおりを挟む

処理中です...