ゴーストライター

ジャメヴ

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ゴミ屋敷のコラおっさん 1

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  中学校に入学して早半年。夏休みもあっという間に終わり、休みボケのまま2学期を迎えている。
  僕は阿藤良あとうりょう、背が低い事を気にしている、ごくごく普通の中学1年生。運動は苦手やけど見んのは好き。特に格闘技は、よく見てる。
  格闘家って、全員が全員や無いやろうけど、結構ヤンキー上がりが多い筈。僕は少しだけヤンキーに憧れがある。下っぱのヤンキーは好きや無いけど、頂点になった人は、やっぱり凄い。武勇伝を聞くと、自分の信念を曲げてこなかったって人が多い。僕も信念を貫いて生きてみたい。まあ、そっちの道には進まれへんから、正しいと思った事を突き進みたいって意味やけどね。

  学校へ徒歩で向かう途中、目の前にはトンボが飛んでいて、もう秋やなあと感じていた時。
「コラ!  ここ通んな!」
「あ?」
前から怒号が聞こえてきた。

  け、喧嘩や。

  僕は見ぃひんようにして走って逃げた。

  仲裁なんて出来へんよ。だって、2人とも、この辺りではかなりヤバい有名人やもん。

  1人はコラおっさんと呼ばれるヤバいおじさん。白髪交じりの短髪で痩せ型、背は高めで175ぐらいかな。70歳ぐらいやと思うけど、昔から怒っているところしか見た事がない。この細い道路は、車が通る事は殆ど無く、コラおっさんの家の門と面していて、反対側は営業されなくなって久しい閉まったままの喫茶店がある。

  コラおっさんは、短気でちょっとした事に文句を言う、よくいる頑固オヤジって感じやったのに、最近、何かおかしなっとる。まず、家の前の道を通るなって言うんや。公道やのにやで?  ほんで、ホースを持って近付いてきた人に水を撒くねん。ヤバない?  皆の噂では、ゴミ屋敷化してきてるから文句を言われんように人が近付かれへんようにしてるんちゃうかって話や。1年ぐらい前はそんな事無かってんけどな。確かに、今は遠目からでもゴミが散らかっとる。でも、家もボロボロやから荷物一杯にしとったら潰れてしまいそうやけどな。

  もう1人は椿つばきさんていう僕の中学の3年生で、最も恐れられとる不良。180ぐらいの高身長で100キロ近い体型。茶色の短髪をツンツンに逆立てとる。怖すぎて遠目からしか見た事がないんやけど、眉は細くつり上がるように整えられとって、ハンサムな顔立ち。普通の生徒には絡んで来~へんて聞いとるけど、男子では絶対に目ぇ合わされへん。学校で椿さんとすれ違う時には、僕達は頭を下げて椿さんが通り過ぎるのを静かに待つだけなんや。

「ぶち殺すぞ!!」
左斜め後ろから信じられへん大声が聞こえてきた。僕は首を竦めて、走るスピードを上げた。

  椿さんが恐れられる理由の1つがあの大声。腹筋が強いんか喉が強いんか分からんけど、ドキッ!  とさせられる。

  ライオンって百獣の王とか呼ばれてる割には、そんな強くないみたいやねんけど、咆哮が信じられへんぐらい怖い。ライオンの鳴き声は?  って聞いたらガオーって言う人が多いと思うけど、実際、そんな可愛い無いで。至近距離に雷が落ちたみたいな声なんや。だから、ハッタリだけやったらライオンが1番強いんちゃうかな?  知らんけど。

  とにかく、椿さんは見た目も声も何もかも最強なんや。ほんで、信念を貫くタイプで、とにかく口が固く、仲間を売ったりせんから不良の中でも信頼が厚いらしい。だから、僕もちょっとだけ尊敬しとる。
  そんな事もあって、椿さんはコラおっさんが文句言うた事に引かんかったんやろな。
  
  野次馬根性でコラおっさん対椿さんを見たいと思うんやけど、何見とんじゃコラーって言われたら怖いから取り敢えず逃げた。

  いつもより10分以上早く学校に着いた。さっきの事は誰にも言わんとこ。広まって、余計な事言いやがってとかインネンつけられても困る。
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