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漢数字
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淡いピンクのポロシャツとグレーの7分丈のズボンに穿き替えて、ササキは戻って来た。それを見てヨツバが話し出す。
「では、私の推理を聞いてください。証拠も無いので、あくまでも仮説として考えてください」
全員がヨツバの話に聞き入る。
「まず、皆さんは進行役の人が何処に行ったと考えていますか?」
アラカワが縛られたまま話す。
「犯人はドアから出たんじゃなくて、窓から出たような音を聞いたんだ。この建物に隠れているかもしれないけど、この島に隠れているか、既に海を渡った確率が高いと思う」
アラカワは自分が犯人扱いされそうなので必死だ。それを聞いて七音が話す。
「隠れている可能性は低そうだな。隠れる理由が無い。もし、生きているなら、島を出ているかもしれない。後でボートがあるか見に行こう」
もし、生きているなら・・・か。自殺してくれていれば良いのに、という願望が入っているのだろうか。
「私の名前はヨツバと言います。漢数字の四に葉っぱで四葉です。そして、彼が・・・」
四葉は右手を俺に向けた。
「双六さん。漢数字の六が入ってるんじゃないですか?」
「ああ、入ってる」
「そして、彼が・・・」
四葉は右手を七音に向けた。
「ナオトさん。漢数字の七が入ってるんじゃないですか?」
「ああ、入ってる」
皆がざわつく。そういう事かと俺は思った。産まれた順の数字が名前に入っているのだろう。四葉は続けて話す。
「多分、全員に漢数字が入ってるんじゃないですか?」
「俺はケンジ。二が入ってる」
アラカワが言った。続けてミヤモトが言う。
「俺はミツテル。三だ」
全員がササキを見る。ササキは少しためてから言う。
「・・・ああ、俺はカズマ。一が入ってる」
「ここに集められた人は、名前に漢数字が入ってるんです」
「凄いけど・・・だから、何なの?」
ミヤモトが尋ねる。
「犯人は名前に漢数字の入った私達を集めました」
「だから、この部屋に居た進行役の男が犯人って事だろ?!」
アラカワが声を荒げた。
「念押しになりますが、あくまでも仮説として聞いてください。進行役の人は隣の部屋の人物を殺す為か、私達を殺す為に漢数字の入った人達を集めました」
「私達?!」
俺はビックリして聞き返した。
「ええ、今は隣の部屋の人物しか亡くなっていませんが、これから私達の誰かが襲われる可能性があります」
「何で?」
ミヤモトが聞いた。
「それは、隣の部屋の人物の顔の『五』という傷です。これは、彼の名前に漢数字の『五』が入っているという事を私達に伝える為に犯人がつけたんだと思います。で、名前に『五』が入っている場合と入っていない場合が考えられますが、どちらの場合でも、私達、例えば私を殺して『四』と傷つける事が考えられます」
「そうか、それはヤバいな・・・。死人が増える可能性が高そうだ」
ミヤモトが心配そうに言った。
「で、進行役の人物なんですが、アラカワさんが1人2役をしていた可能性があります」
「はあ?!」「そういう事か!」
アラカワが、意味が分からないと言ったリアクションをとったと同時に、七音が納得の声をあげた。
「アラカワさんは、昨日までサングラスにマスクをしていたから、顔を誰にも見られていない。進行役もサングラスにマスクで顔を見られていない。同一人物説も納得できる」
「納得できねーよ!」
アラカワが再び声を荒げた。七音はアラカワに質問する。
「何か理由があったりしますか?」
「・・・理由なんか・・・取り敢えず、俺は進行役に縛られたんだ!」
全く理由になっていない。だけど、アラカワが嘘をついているようにも見えない。相当な演技派なのか? さらに七音はアラカワに質問する。
「どうやって縛られたんですか? ボーッと縛られるのを待っていた訳でも無いでしょう?」
「進行役が、両手を後ろでくっつけて目を閉じてくださいって言うもんだからその通りにしたら、結束バンドで留められて、口にテープをされて目隠しされたんだよ!」
何と! 七音が冗談半分で言ったように、ボーッと縛られるのを待っていたようだ。
「ええっ?! そんな言われるがままに拘束されたんですか?」
「だって、進行役が悪人だなんて思わないから言われた通りにするだろ?!」
アラカワは怪し過ぎる。ただ、演技だとも思えない。言われるがままに拘束されるか? と言う七音の意見も分かるし、アラカワの言い分も分からなくは無い。
「アラカワさんが犯人である証拠も無いですが、同時に犯人でない証拠も無いんです。だから、拘束を解くのはちょっと早いかなと・・・」
四葉が全員に了承を求めるように言った。
「犯人は進行役だって! それより、トイレに行かせてくれ! 動けないんだ!」
アラカワが懇願するように言った。その時、ササキが口を開く。
「手か足、どっちかだけ切ってあげたらどうだ? さすがにそれで襲えるのは四葉さんぐらいだろう」
「・・・そうですね。皆さん良いですか?」
七音が皆に尋ねる。皆は渋々納得の表情だ。
「手にしてくれ! この体勢はキツ過ぎる!」
「分かりました。では・・・」
七音が包丁を拾い、アラカワの手を縛っている結束バンドを切った。
「良かった。よし」
アラカワは両足を縛られながらも立ち上がり、ピョンピョン跳ねながらトイレに向かうようだ。ササキが気を使ってドアを開ける。
「ありがとう」
アラカワは礼を言って、ピョンピョンととび跳ね、トイレのドアを開けた音がした。ドアが閉まる音を聞いて四葉が話す。
「皆さんどう思います?」
「四葉さんの説に穴は無いけど、アラカワさんのリアクションだと犯人じゃない気がする」
俺は思った事を伝えた。すると、ササキが話し出す。
「まあ、犯人かもしれないって言うなら、監視すれば良いんじゃないか? 四葉さん以外の4人で順番って事でどうだ?」
「良い案ですね」
七音が言った。ササキは続けて話す。
「俺、夜型だから深夜担当するわ。別に朝までだって良いぞ」
「ササキさん、ありがたいです。じゃあ、昼の担当はこっちで決めます。俺が勝手に決めて良いかな?」
七音は俺とミヤモトを見て言った。
「ああ」「決めてくれ」
「じゃあ、今から午後3時までがミヤモトさん、3時から午後10時までが俺、10時から午前5時までがササキさん、5時から正午までが双六でいきましょう」
「分かった」「了解」「オッケー」
「じゃあ、私、忘れないように書いときますね」
その時、アラカワがトイレから帰って来た。七音はアラカワに告げる。
「アラカワさん、明日まで皆であなたを監視する事になりました」
「・・・分かった。まあ、逆に襲われ難くなったと思えばラッキーだけど、足がなあ・・・」
「一応、容疑者なんで、足の拘束は解けないです」
「・・・しょうがないな・・・」
アラカワは渋々納得したようだ。四葉が時間割を作る為、皆に漢字を確認している。俺も名前を書かされた。俺は勝手に決めてくれて良いと言っておきながら、1回が長いな! と感じた。俺は朝方タイプなので、早朝でも問題無いけど、午前5時から正午だと、7時間も監視しないといけない。俺だけ長いんじゃないだろうなと、四葉が書く時間割を覗き込む。
荒川健二さんの監視担当
宮本三輝さん、今から午後3時
横浜七音さん、午後3時から午後10時
佐々木一馬さん、午後10時から午前5時
速水双六さん、午前5時から正午
全員きっちり7時間だ。あの短時間でこの正確性。凄い! これが理系の西京大学生の力か! ん? 凄いと思ったけど待てよ・・・。今8時として、24時間後の8時までなら1人6時間・・・1時間ずつ追加しただけか・・・。まあ、それでも賢いけど、驚くような事でもないな。
「じゃあ、荒川さん、行きましょうか。朝御飯でも食べます?」
宮本が荒川に話し掛けた。荒川が返す。
「そうだな。取り敢えず何か飲みたい」
「じゃあ、行きましょう。肩貸しますよ」
「悪いな」
荒川は左手を宮本の左肩に軽く回し、ピョンピョンと部屋を出ていった。俺は、早く四葉に1875の謎が解けた事を伝えないといけないと思ったけど、それより先に調べないといけない事がある。
「俺、ボートがあるか見てくるよ」
「双六、頼んだ。俺達は部屋を調べるよ」
俺はボートが無い事を期待しながら別荘を出た。ボートが無ければ、父さんであろう進行役が、島を出ている可能性が高まるからだ。だけど同時に、俺達の父親が殺人を犯したという事も濃厚になってしまう。
桟橋が見えてきた。無い! ボートが無い! 俺は、ほっとした気持ちと残念な気持ちとで力が抜けた。いつの間にか両膝が砂浜についている。
そんな・・・。父さんが殺人を犯した上に、荒川を拘束したって言うのか? 信じられない・・・。
俺は肩を落としながら別荘へ戻った。父さんが居た部屋に入ると荒川と宮本も戻って来ているようだ。七音が俺を見て話し掛ける。
「どうだった?」
「・・・無かった・・・」
「だろ? 逃げたんだよ」
荒川がやっぱり、という感じで言った。七音が話す。
「そうか! 良かったな。まあ、安心は出来ないけど、殺人鬼がこの別荘に残っている可能性は低くなったという事だ」
良くねーよ、父親が殺人犯なんだぞ! と思ったけど今言っても理解してもらえないので、俺はフーッと大きくため息をついた。一通り部屋探しを終えた四葉が話す。
「この部屋には進行役の持ち物は何も残って無いわ。全て片付けられてる」
「そもそも、持ち物なんてほとんど無かったのかもな」
成果を得られなかったからなのか、七音は残念そうに言った。
「じゃあ、隣の部屋へ行きましょうか・・・」
「やっぱり、行かないとダメだよな」
俺は渋々という感じを出しながら言った。さすがに死体がある部屋を調べるのは嫌だ。その時、佐々木が低い声で言う。
「悪い。俺、ちょっと体調悪くなってきたから、部屋で休んで良いかな?」
意外。クールな佐々木がそんな事を言うとは思わなかった。表情を変えずに対応していたけど、案外ストレスを感じていたのかもしれない。ほとんどの人が殺害された人物を見るなんて初めての経験なのだから・・・。
「では、私の推理を聞いてください。証拠も無いので、あくまでも仮説として考えてください」
全員がヨツバの話に聞き入る。
「まず、皆さんは進行役の人が何処に行ったと考えていますか?」
アラカワが縛られたまま話す。
「犯人はドアから出たんじゃなくて、窓から出たような音を聞いたんだ。この建物に隠れているかもしれないけど、この島に隠れているか、既に海を渡った確率が高いと思う」
アラカワは自分が犯人扱いされそうなので必死だ。それを聞いて七音が話す。
「隠れている可能性は低そうだな。隠れる理由が無い。もし、生きているなら、島を出ているかもしれない。後でボートがあるか見に行こう」
もし、生きているなら・・・か。自殺してくれていれば良いのに、という願望が入っているのだろうか。
「私の名前はヨツバと言います。漢数字の四に葉っぱで四葉です。そして、彼が・・・」
四葉は右手を俺に向けた。
「双六さん。漢数字の六が入ってるんじゃないですか?」
「ああ、入ってる」
「そして、彼が・・・」
四葉は右手を七音に向けた。
「ナオトさん。漢数字の七が入ってるんじゃないですか?」
「ああ、入ってる」
皆がざわつく。そういう事かと俺は思った。産まれた順の数字が名前に入っているのだろう。四葉は続けて話す。
「多分、全員に漢数字が入ってるんじゃないですか?」
「俺はケンジ。二が入ってる」
アラカワが言った。続けてミヤモトが言う。
「俺はミツテル。三だ」
全員がササキを見る。ササキは少しためてから言う。
「・・・ああ、俺はカズマ。一が入ってる」
「ここに集められた人は、名前に漢数字が入ってるんです」
「凄いけど・・・だから、何なの?」
ミヤモトが尋ねる。
「犯人は名前に漢数字の入った私達を集めました」
「だから、この部屋に居た進行役の男が犯人って事だろ?!」
アラカワが声を荒げた。
「念押しになりますが、あくまでも仮説として聞いてください。進行役の人は隣の部屋の人物を殺す為か、私達を殺す為に漢数字の入った人達を集めました」
「私達?!」
俺はビックリして聞き返した。
「ええ、今は隣の部屋の人物しか亡くなっていませんが、これから私達の誰かが襲われる可能性があります」
「何で?」
ミヤモトが聞いた。
「それは、隣の部屋の人物の顔の『五』という傷です。これは、彼の名前に漢数字の『五』が入っているという事を私達に伝える為に犯人がつけたんだと思います。で、名前に『五』が入っている場合と入っていない場合が考えられますが、どちらの場合でも、私達、例えば私を殺して『四』と傷つける事が考えられます」
「そうか、それはヤバいな・・・。死人が増える可能性が高そうだ」
ミヤモトが心配そうに言った。
「で、進行役の人物なんですが、アラカワさんが1人2役をしていた可能性があります」
「はあ?!」「そういう事か!」
アラカワが、意味が分からないと言ったリアクションをとったと同時に、七音が納得の声をあげた。
「アラカワさんは、昨日までサングラスにマスクをしていたから、顔を誰にも見られていない。進行役もサングラスにマスクで顔を見られていない。同一人物説も納得できる」
「納得できねーよ!」
アラカワが再び声を荒げた。七音はアラカワに質問する。
「何か理由があったりしますか?」
「・・・理由なんか・・・取り敢えず、俺は進行役に縛られたんだ!」
全く理由になっていない。だけど、アラカワが嘘をついているようにも見えない。相当な演技派なのか? さらに七音はアラカワに質問する。
「どうやって縛られたんですか? ボーッと縛られるのを待っていた訳でも無いでしょう?」
「進行役が、両手を後ろでくっつけて目を閉じてくださいって言うもんだからその通りにしたら、結束バンドで留められて、口にテープをされて目隠しされたんだよ!」
何と! 七音が冗談半分で言ったように、ボーッと縛られるのを待っていたようだ。
「ええっ?! そんな言われるがままに拘束されたんですか?」
「だって、進行役が悪人だなんて思わないから言われた通りにするだろ?!」
アラカワは怪し過ぎる。ただ、演技だとも思えない。言われるがままに拘束されるか? と言う七音の意見も分かるし、アラカワの言い分も分からなくは無い。
「アラカワさんが犯人である証拠も無いですが、同時に犯人でない証拠も無いんです。だから、拘束を解くのはちょっと早いかなと・・・」
四葉が全員に了承を求めるように言った。
「犯人は進行役だって! それより、トイレに行かせてくれ! 動けないんだ!」
アラカワが懇願するように言った。その時、ササキが口を開く。
「手か足、どっちかだけ切ってあげたらどうだ? さすがにそれで襲えるのは四葉さんぐらいだろう」
「・・・そうですね。皆さん良いですか?」
七音が皆に尋ねる。皆は渋々納得の表情だ。
「手にしてくれ! この体勢はキツ過ぎる!」
「分かりました。では・・・」
七音が包丁を拾い、アラカワの手を縛っている結束バンドを切った。
「良かった。よし」
アラカワは両足を縛られながらも立ち上がり、ピョンピョン跳ねながらトイレに向かうようだ。ササキが気を使ってドアを開ける。
「ありがとう」
アラカワは礼を言って、ピョンピョンととび跳ね、トイレのドアを開けた音がした。ドアが閉まる音を聞いて四葉が話す。
「皆さんどう思います?」
「四葉さんの説に穴は無いけど、アラカワさんのリアクションだと犯人じゃない気がする」
俺は思った事を伝えた。すると、ササキが話し出す。
「まあ、犯人かもしれないって言うなら、監視すれば良いんじゃないか? 四葉さん以外の4人で順番って事でどうだ?」
「良い案ですね」
七音が言った。ササキは続けて話す。
「俺、夜型だから深夜担当するわ。別に朝までだって良いぞ」
「ササキさん、ありがたいです。じゃあ、昼の担当はこっちで決めます。俺が勝手に決めて良いかな?」
七音は俺とミヤモトを見て言った。
「ああ」「決めてくれ」
「じゃあ、今から午後3時までがミヤモトさん、3時から午後10時までが俺、10時から午前5時までがササキさん、5時から正午までが双六でいきましょう」
「分かった」「了解」「オッケー」
「じゃあ、私、忘れないように書いときますね」
その時、アラカワがトイレから帰って来た。七音はアラカワに告げる。
「アラカワさん、明日まで皆であなたを監視する事になりました」
「・・・分かった。まあ、逆に襲われ難くなったと思えばラッキーだけど、足がなあ・・・」
「一応、容疑者なんで、足の拘束は解けないです」
「・・・しょうがないな・・・」
アラカワは渋々納得したようだ。四葉が時間割を作る為、皆に漢字を確認している。俺も名前を書かされた。俺は勝手に決めてくれて良いと言っておきながら、1回が長いな! と感じた。俺は朝方タイプなので、早朝でも問題無いけど、午前5時から正午だと、7時間も監視しないといけない。俺だけ長いんじゃないだろうなと、四葉が書く時間割を覗き込む。
荒川健二さんの監視担当
宮本三輝さん、今から午後3時
横浜七音さん、午後3時から午後10時
佐々木一馬さん、午後10時から午前5時
速水双六さん、午前5時から正午
全員きっちり7時間だ。あの短時間でこの正確性。凄い! これが理系の西京大学生の力か! ん? 凄いと思ったけど待てよ・・・。今8時として、24時間後の8時までなら1人6時間・・・1時間ずつ追加しただけか・・・。まあ、それでも賢いけど、驚くような事でもないな。
「じゃあ、荒川さん、行きましょうか。朝御飯でも食べます?」
宮本が荒川に話し掛けた。荒川が返す。
「そうだな。取り敢えず何か飲みたい」
「じゃあ、行きましょう。肩貸しますよ」
「悪いな」
荒川は左手を宮本の左肩に軽く回し、ピョンピョンと部屋を出ていった。俺は、早く四葉に1875の謎が解けた事を伝えないといけないと思ったけど、それより先に調べないといけない事がある。
「俺、ボートがあるか見てくるよ」
「双六、頼んだ。俺達は部屋を調べるよ」
俺はボートが無い事を期待しながら別荘を出た。ボートが無ければ、父さんであろう進行役が、島を出ている可能性が高まるからだ。だけど同時に、俺達の父親が殺人を犯したという事も濃厚になってしまう。
桟橋が見えてきた。無い! ボートが無い! 俺は、ほっとした気持ちと残念な気持ちとで力が抜けた。いつの間にか両膝が砂浜についている。
そんな・・・。父さんが殺人を犯した上に、荒川を拘束したって言うのか? 信じられない・・・。
俺は肩を落としながら別荘へ戻った。父さんが居た部屋に入ると荒川と宮本も戻って来ているようだ。七音が俺を見て話し掛ける。
「どうだった?」
「・・・無かった・・・」
「だろ? 逃げたんだよ」
荒川がやっぱり、という感じで言った。七音が話す。
「そうか! 良かったな。まあ、安心は出来ないけど、殺人鬼がこの別荘に残っている可能性は低くなったという事だ」
良くねーよ、父親が殺人犯なんだぞ! と思ったけど今言っても理解してもらえないので、俺はフーッと大きくため息をついた。一通り部屋探しを終えた四葉が話す。
「この部屋には進行役の持ち物は何も残って無いわ。全て片付けられてる」
「そもそも、持ち物なんてほとんど無かったのかもな」
成果を得られなかったからなのか、七音は残念そうに言った。
「じゃあ、隣の部屋へ行きましょうか・・・」
「やっぱり、行かないとダメだよな」
俺は渋々という感じを出しながら言った。さすがに死体がある部屋を調べるのは嫌だ。その時、佐々木が低い声で言う。
「悪い。俺、ちょっと体調悪くなってきたから、部屋で休んで良いかな?」
意外。クールな佐々木がそんな事を言うとは思わなかった。表情を変えずに対応していたけど、案外ストレスを感じていたのかもしれない。ほとんどの人が殺害された人物を見るなんて初めての経験なのだから・・・。
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