58 / 75
Trash Land
impossible is made possible IV
しおりを挟む
土煙りが舞い上がる結界内で、ゆっくりと崩れ落ちるT-REXの傍に着地し、そして懐から煙草を取り出して火を点けるリケットを見た観衆は、その意外な展開に言葉を失い静まり返った。
T-REXに勝利したからではない。
その方法が、信じられないのである。
あの巨大な頭を吹き飛ばし、更に巨躯を穿って勝利するなど、一体誰が考え付くだろうか。
『………………あ……え…………?』
あの五月蝿い司会のロッディですら、何が起きたのかが理解出来なく間抜けな声を出すだけだ。
だが観衆はそれにすら気付いていない。
それを尻目に、リケットはゆっくりとタバコを燻らせ煙を吐き、そして更に懐から錠剤を取り出して口に含む。
それは、ファウル・ウェザー病院で処方されたもの。一錠で5万キロカロリーある高カロリー薬。
それをまとめて飲み込み、再び煙をゆっくりと吐く。
〝サイバー〟の胃は、摂取した食物を即座にエネルギーに変換出来る。
そして今のリケットは、それが必要なほど消耗していた。それほどまでにT-REXとの戦いで消耗したエネルギーは、莫大なものだった。
もっともそれは〈EM-C-HEC=Breaker!=〉を使用した所為なのだが。
『こ……こいつぁ驚いた……』
暫く後、司会のロッディがやっと口を開いた。
『今の出来事、しっかり見たかい皆の衆!? いやいや、私もおったまげたぞ! なんとあのT-REXの頭を一瞬で吹き飛ばしてしまった!! 流石は最強の〝サイバー・ドール〟!』
絶賛する司会を尻目に、リケットはまだ火の点いている煙草を咥えたままポケットに手を突っ込む。
摂取したカロリーが、急速にエネルギーに変換され全身を満たす。
『此処で彼の心境をインタビューしたいところだが、もう〝結界〟に入ってしまっているからねぇ。インタビュー出来ないのは哀しいが、それは仕方ないか! では、続けて次の勝負だぁ!!』
司会の声と共に花火が上がる。民衆が吼え、それが音のうねりとなって中央公園に木霊する。
中央公園は、異様で異常な熱気と狂気に包まれていた。
――T-REXの死体はその場に残らず、大気に溶け込むかのように薄くなり、やがて完全に消失した。
『第二幕、破壊神降臨!!』
その声と共に〝結界〟に展開してあった景色が消滅し、今度は雪山になる。そしてその周囲に雪が降り始め、それはすぐに吹雪となった。
更に気温も極低温となり、体感気温は零下50度を下回るであろう。
結界壁が歪み、其処に先ほどと同じく漆黒の穴が現れる。其処から二人の男女が姿を現した。
男は腕が四本あり、長い髪を後ろで乱暴に縛っている。その首には頭蓋が鈴なりに連なっている首輪をしていた。
そして女はその両手に曲刀を持ち、宝冠を被り、その隙間から髪が数束零れ落ちている。
どちらも上半身裸で全身に奇妙な文様の刺青がしてあり、更に双眸は虚ろで、その表情だけではなにを思っているのかを窺い知ることは出来ないだろう。
『この二人は「シバ」と「カーリー」。男がシバで女がカーリーだ! さあ、早速始めて貰おうじゃないかぁ!!』
司会の絶叫が終了するなり、シバが拳を振り上げてリケットを襲う。
口から煙草を吐き出して後退し、突き立ててある蛮刀を掴む。
吹き付ける吹雪に充てられて既に冷たくなっているが、そのスイッチを入れた瞬間、蒸気を上げて発熱した。付着した雪が、振動によって発生した熱により一瞬にして蒸発したのだ。
シバの拳は空を切り、だがその凄まじい衝撃波が地面に積もっている雪を打つ。
雪が舞い上がり、その視界を塞いだ。だがそれを空気ごと斬り裂いて視界を確保したカーリーが、持っている曲刀をリケットに叩き付けた。
それを蛮刀で受け流し、雪を掻き分けて移動するリケットをシバの拳が再び襲う。
だがやはりそれも空を切る。雪が弾け飛んで、視界を全て塞いだ。
拳を振り下ろして体勢がまだ整っていないシバに、リケットの鋼の鞭が雪を突き破って飛来し絡み付く。
空気が白色の光を発して爆発した。
それにより、弾け飛んでいる雪と降り続いている雪が蒸発し、その場に大きな穴を空ける。
その光の渦中にあるシバは、白煙を上げて両膝をついた。
それを尻目に曲刀を振り下ろすカーリーのそれを蛮刀で砕き、即座にその手で頭を鷲掴みにする。
再び空気が爆発し、掴んでいるカーリーの全身を超高圧電流が駆け巡る。
だがそれでも、カーリーは動いた。
残る曲刀を振り上げ、斬りつける。それを避けるべく手を放して離れたリケットの背で、衝撃波が弾けた。
シバが絡み付いている鋼の鞭を力尽くで振り解き、そして拳を振り上げている。
漆黒のコートが弾け、その下に装備している戦闘服が露わになるが、それを全く気にせずに移動を始めた。
蛮刀は、彼方の雪に埋もれている。今リケットが持っている武器、それはその両腕に内蔵された鞭のみ。
高速移動するリケットにシバとカーリーが迫る。
カーリーの曲刀からの斬撃と、とシバの拳から発せられる衝撃波が反撃の暇すら与えず襲い、リケットはそれを避けつつ移動し続けた。
そして蛮刀を拾い振動のスイッチを入れようとした刹那、シバの衝撃波が蛮刀を貫き粉々に砕いた。
T-REXに勝利したからではない。
その方法が、信じられないのである。
あの巨大な頭を吹き飛ばし、更に巨躯を穿って勝利するなど、一体誰が考え付くだろうか。
『………………あ……え…………?』
あの五月蝿い司会のロッディですら、何が起きたのかが理解出来なく間抜けな声を出すだけだ。
だが観衆はそれにすら気付いていない。
それを尻目に、リケットはゆっくりとタバコを燻らせ煙を吐き、そして更に懐から錠剤を取り出して口に含む。
それは、ファウル・ウェザー病院で処方されたもの。一錠で5万キロカロリーある高カロリー薬。
それをまとめて飲み込み、再び煙をゆっくりと吐く。
〝サイバー〟の胃は、摂取した食物を即座にエネルギーに変換出来る。
そして今のリケットは、それが必要なほど消耗していた。それほどまでにT-REXとの戦いで消耗したエネルギーは、莫大なものだった。
もっともそれは〈EM-C-HEC=Breaker!=〉を使用した所為なのだが。
『こ……こいつぁ驚いた……』
暫く後、司会のロッディがやっと口を開いた。
『今の出来事、しっかり見たかい皆の衆!? いやいや、私もおったまげたぞ! なんとあのT-REXの頭を一瞬で吹き飛ばしてしまった!! 流石は最強の〝サイバー・ドール〟!』
絶賛する司会を尻目に、リケットはまだ火の点いている煙草を咥えたままポケットに手を突っ込む。
摂取したカロリーが、急速にエネルギーに変換され全身を満たす。
『此処で彼の心境をインタビューしたいところだが、もう〝結界〟に入ってしまっているからねぇ。インタビュー出来ないのは哀しいが、それは仕方ないか! では、続けて次の勝負だぁ!!』
司会の声と共に花火が上がる。民衆が吼え、それが音のうねりとなって中央公園に木霊する。
中央公園は、異様で異常な熱気と狂気に包まれていた。
――T-REXの死体はその場に残らず、大気に溶け込むかのように薄くなり、やがて完全に消失した。
『第二幕、破壊神降臨!!』
その声と共に〝結界〟に展開してあった景色が消滅し、今度は雪山になる。そしてその周囲に雪が降り始め、それはすぐに吹雪となった。
更に気温も極低温となり、体感気温は零下50度を下回るであろう。
結界壁が歪み、其処に先ほどと同じく漆黒の穴が現れる。其処から二人の男女が姿を現した。
男は腕が四本あり、長い髪を後ろで乱暴に縛っている。その首には頭蓋が鈴なりに連なっている首輪をしていた。
そして女はその両手に曲刀を持ち、宝冠を被り、その隙間から髪が数束零れ落ちている。
どちらも上半身裸で全身に奇妙な文様の刺青がしてあり、更に双眸は虚ろで、その表情だけではなにを思っているのかを窺い知ることは出来ないだろう。
『この二人は「シバ」と「カーリー」。男がシバで女がカーリーだ! さあ、早速始めて貰おうじゃないかぁ!!』
司会の絶叫が終了するなり、シバが拳を振り上げてリケットを襲う。
口から煙草を吐き出して後退し、突き立ててある蛮刀を掴む。
吹き付ける吹雪に充てられて既に冷たくなっているが、そのスイッチを入れた瞬間、蒸気を上げて発熱した。付着した雪が、振動によって発生した熱により一瞬にして蒸発したのだ。
シバの拳は空を切り、だがその凄まじい衝撃波が地面に積もっている雪を打つ。
雪が舞い上がり、その視界を塞いだ。だがそれを空気ごと斬り裂いて視界を確保したカーリーが、持っている曲刀をリケットに叩き付けた。
それを蛮刀で受け流し、雪を掻き分けて移動するリケットをシバの拳が再び襲う。
だがやはりそれも空を切る。雪が弾け飛んで、視界を全て塞いだ。
拳を振り下ろして体勢がまだ整っていないシバに、リケットの鋼の鞭が雪を突き破って飛来し絡み付く。
空気が白色の光を発して爆発した。
それにより、弾け飛んでいる雪と降り続いている雪が蒸発し、その場に大きな穴を空ける。
その光の渦中にあるシバは、白煙を上げて両膝をついた。
それを尻目に曲刀を振り下ろすカーリーのそれを蛮刀で砕き、即座にその手で頭を鷲掴みにする。
再び空気が爆発し、掴んでいるカーリーの全身を超高圧電流が駆け巡る。
だがそれでも、カーリーは動いた。
残る曲刀を振り上げ、斬りつける。それを避けるべく手を放して離れたリケットの背で、衝撃波が弾けた。
シバが絡み付いている鋼の鞭を力尽くで振り解き、そして拳を振り上げている。
漆黒のコートが弾け、その下に装備している戦闘服が露わになるが、それを全く気にせずに移動を始めた。
蛮刀は、彼方の雪に埋もれている。今リケットが持っている武器、それはその両腕に内蔵された鞭のみ。
高速移動するリケットにシバとカーリーが迫る。
カーリーの曲刀からの斬撃と、とシバの拳から発せられる衝撃波が反撃の暇すら与えず襲い、リケットはそれを避けつつ移動し続けた。
そして蛮刀を拾い振動のスイッチを入れようとした刹那、シバの衝撃波が蛮刀を貫き粉々に砕いた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
RGB:僕と浮世離れの戯画絵筆 ~緑色のアウトサイダー・アート~
雪染衛門
ファンタジー
「僕の描いた絵が本物になったらいいのに」
そんな夢を抱く絵描き好きな少年・織部緑光(おりべ ろくみつ)は、科学の発展によって可視化された人の魂の持つ「色」を重視する現代に生まれる。
情熱の赤色、ひらめきの黄色、冷静な青色など人気色と比べ、臆病と評される「緑色」の緑光だが、色に囚われず前向きな幼少期を過ごしていた。
時を同じくして都心では、人類を脅かした感染症のパンデミックとネット社会の相乗作用が、放置されたグラフィティから夜な夜な這い出して人を襲う落画鬼(らくがき)を満天下に知らしめる。
その悪鬼に唯一、太刀打ちできるのは、絵を具現化させる摩訶不思議な文房具で戦う、憂世の英雄・浮夜絵師(うきよえし)。
夜ごとに増える落画鬼の被害。それに決死の覚悟で挑む者への偏見や誹謗中傷がくり返されるネット社会。
月日の流れによって、夢を見なくなるほど「緑色」らしくなっていた緑光だったが、SNS上に浮上した「すべての絵師を処せ」という一文を目にし……。
エンシェントソルジャー ~古の守護者と無属性の少女~
ロクマルJ
SF
百万年の時を越え
地球最強のサイボーグ兵士が目覚めた時
人類の文明は衰退し
地上は、魔法と古代文明が入り混じる
ファンタジー世界へと変容していた。
新たなる世界で、兵士は 冒険者を目指す一人の少女と出会い
再び人類の守り手として歩き出す。
そして世界の真実が解き明かされる時
人類の運命の歯車は 再び大きく動き始める...
※書き物初挑戦となります、拙い文章でお見苦しい所も多々あるとは思いますが
もし気に入って頂ける方が良ければ幸しく思います
週1話のペースを目標に更新して参ります
よろしくお願いします
▼表紙絵、挿絵プロジェクト進行中▼
イラストレーター:東雲飛鶴様協力の元、表紙・挿絵を制作中です!
表紙の原案候補その1(2019/2/25)アップしました
後にまた完成版をアップ致します!
No One's Glory -もうひとりの物語-
はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `)
よろしくお願い申し上げます
男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。
医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。
男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく……
手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。
採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。
各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した……
申し訳ございませんm(_ _)m
不定期投稿になります。
本業多忙のため、しばらく連載休止します。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる