52 / 75
Trash Land
stage of struggle V
しおりを挟む
どんどん人が集まり、だんだん此処にいることが苦痛になってきたフィンヴァラがハズラットに帰ると言うべきかどうか思案し始めた頃、
『Ladies & Gentlemen!』
公園の至る所に設置されたスピーカーから、アナウンスの声が響いた。
『御来場の皆々様、大・変お待たせい・た・し・ま・し・た! 只今より「ウルドヴェルタンディ・スクルド」主催、「バトル・シティ」を開催致・し・ま・す!!』
アナウンスの宣言とほぼ同時に、盛大な花火が上がる。
下らない。
フィンヴァラはそう思った。
そしてそれは、きっとハズラットも思っていることだろう。
だが……このイベントに無理矢理参加させられる〝彼〟自身は、一体どう思っているのだろうか?
きっとなんとも思っていないのだろう。
「可哀想ニ……」
フィンヴァラは呟き、ハズラットを一瞥……出来なかった。彼は既に、何処にもいなかったのである。
〝魔導士〟である彼は、その姿を人々に認識不能にすることが可能だ。
だから、其処にいる筈なのに人々が認識しなくなる。認識しないということは、其処にいないのと同等。
やれやれと呟き、フィンヴァラは意識してハズラットを見ようとした。
認識をずらしている〝魔導士〟を『視る』者は、〝ハンター〟か〝能力者〟だけである。
そしてハズラットをそうやって認識出来る者は、【Vの子供達】の他には彼くらいであろう。
『長者』達を除けば、だが。
そしてそのことを、フィンヴァラは自覚している。
『出来損い』のフィンヴァラ。
彼がラッセル・Vと出会う以前、そう呼ばれていた。
〝サイバー〟なのに感情がある。たったそれだけで『出来損い』と呼ばれた。
だがラッセル・Vは、それを彼自身の長所として残存し、更に当時としては最強の〝能力〟を与えたのである。
〝最強・最凶・最狂〟の〝サイバー・ドール〟。
今となっては数少ない精神感応物質の使い手……だった。
今は、もう以前の彼ではない。
生業としていた〝ヘッド・ハンター〟も引退して久しい。
なにより、彼は既に自分の全てを託した。
ラッセル・Vに最も愛されたと人々に言われている、D・リケットに。
「……アノ人ハ、誰モ愛シテイナカッタケドネ……〝Seelie Court〟以外ハ……誰モ。僕ノコトモ、DBモ、ふぁうるモ、ソシテりけっとモ……。僕達ハ、所詮全員『出来損イ』ダッタ……」
自分や【Vの子供達】にしか出来ない〝能力〟を使う度、そのことが思い出される。
そしてそれは、決して曲げられないない真実。
研究にしか興味がなく、生涯独身で過ごし、親も子供も一切いない。
その周りには、彼が作り出した〝サイバー〟だけがいた。
その中で、一体なにを生み出そうとしていたのか……それを知る者は一人だけだ。
【Vの子供達】の中に在り、唯一その身体に機械を埋め込んでいない者、ファウル・ウェザー。
だが彼は、その重い口を開かない。いや、開けないのかも知れない。
彼自身、『出来損い』だから。
「……アンナ処ニイルノカ……」
周囲を見回して、フィンヴァラは呟く。ハズラットは空中にいたのだ。然も結界のすぐ傍に。
なにをしているのやら……。
そう思い、だがすぐにその考えを打ち消してフィンヴァラはその場を立ち去った。
もうハズラットの興味は自分に向いていない。そして自分がいなくなっても、彼は捜すことはないだろう。
このイベントに興味がないということを、初めから知っていたから。
誘ったのは、この場に入り易くするためだけだ。
〝魔導士〟は、『ウルドヴェルタンディ・スクルド』が関係している場所には単身で入ることを許されない。
それは〝魔導士〟と〝PSI〟の確執そのものの象徴でもある。
遥けき太古より脈々と受け継がれている秘法と、新しい『力』。それらが衝突するのは当然のことなのだろう。
フィンヴァラがこの場を立ち去ったのを、実はハズラットは知っていた。
それだけの〝能力〟を、自分は持っているから。それにそうなることも初めから知っていた。
ハズラットは彼を利用したに過ぎない、自分の目的のために。
「……この程度で〝結界〟か……。実に雑だ。大したことがないぞ、『ウルドヴェルタンディ・スクルド』」
そう呟き、手を翳して呪文を唱えた。そして結界の片隅に、常人には絶対には見えない――いや余程熟達した者にしか見えないほどの傷を付ける。
「これが兄として出来る最後のことだと思えよ。多少――いや、かなり、私怨もあるがな」
独白し、更に呪文を唱えた。
『本日の司会進行を勤めさせて頂くのはこの私、DJ・ロッディ! それではこれより、説明に入らせて頂きます……』
アナウンスが響く中、フィンヴァラに続きハズラットも、その姿を消した。
そして二人が中央公園にいなくなった後、17.50タイムに〝彼〟――D・リケットは中央公園に現れた。
いつもと変わらない漆黒のロングコートを纏い、光の加減で虹色に見えるサングラスを掛けて。
『おおっとぉ、此処で今回の主役の御登場だぁ!!』
リケットを見付けた司会が、マイクに向かって大声で叫ぶ。
それを聞いた観衆が一斉に周囲を見回し、そしてカメラがリケットに向けられる。
司会の後方に巨大なスクリーンが現れ、カメラが捉えている映像を映し出した。
『Ladies & Gentlemen!』
公園の至る所に設置されたスピーカーから、アナウンスの声が響いた。
『御来場の皆々様、大・変お待たせい・た・し・ま・し・た! 只今より「ウルドヴェルタンディ・スクルド」主催、「バトル・シティ」を開催致・し・ま・す!!』
アナウンスの宣言とほぼ同時に、盛大な花火が上がる。
下らない。
フィンヴァラはそう思った。
そしてそれは、きっとハズラットも思っていることだろう。
だが……このイベントに無理矢理参加させられる〝彼〟自身は、一体どう思っているのだろうか?
きっとなんとも思っていないのだろう。
「可哀想ニ……」
フィンヴァラは呟き、ハズラットを一瞥……出来なかった。彼は既に、何処にもいなかったのである。
〝魔導士〟である彼は、その姿を人々に認識不能にすることが可能だ。
だから、其処にいる筈なのに人々が認識しなくなる。認識しないということは、其処にいないのと同等。
やれやれと呟き、フィンヴァラは意識してハズラットを見ようとした。
認識をずらしている〝魔導士〟を『視る』者は、〝ハンター〟か〝能力者〟だけである。
そしてハズラットをそうやって認識出来る者は、【Vの子供達】の他には彼くらいであろう。
『長者』達を除けば、だが。
そしてそのことを、フィンヴァラは自覚している。
『出来損い』のフィンヴァラ。
彼がラッセル・Vと出会う以前、そう呼ばれていた。
〝サイバー〟なのに感情がある。たったそれだけで『出来損い』と呼ばれた。
だがラッセル・Vは、それを彼自身の長所として残存し、更に当時としては最強の〝能力〟を与えたのである。
〝最強・最凶・最狂〟の〝サイバー・ドール〟。
今となっては数少ない精神感応物質の使い手……だった。
今は、もう以前の彼ではない。
生業としていた〝ヘッド・ハンター〟も引退して久しい。
なにより、彼は既に自分の全てを託した。
ラッセル・Vに最も愛されたと人々に言われている、D・リケットに。
「……アノ人ハ、誰モ愛シテイナカッタケドネ……〝Seelie Court〟以外ハ……誰モ。僕ノコトモ、DBモ、ふぁうるモ、ソシテりけっとモ……。僕達ハ、所詮全員『出来損イ』ダッタ……」
自分や【Vの子供達】にしか出来ない〝能力〟を使う度、そのことが思い出される。
そしてそれは、決して曲げられないない真実。
研究にしか興味がなく、生涯独身で過ごし、親も子供も一切いない。
その周りには、彼が作り出した〝サイバー〟だけがいた。
その中で、一体なにを生み出そうとしていたのか……それを知る者は一人だけだ。
【Vの子供達】の中に在り、唯一その身体に機械を埋め込んでいない者、ファウル・ウェザー。
だが彼は、その重い口を開かない。いや、開けないのかも知れない。
彼自身、『出来損い』だから。
「……アンナ処ニイルノカ……」
周囲を見回して、フィンヴァラは呟く。ハズラットは空中にいたのだ。然も結界のすぐ傍に。
なにをしているのやら……。
そう思い、だがすぐにその考えを打ち消してフィンヴァラはその場を立ち去った。
もうハズラットの興味は自分に向いていない。そして自分がいなくなっても、彼は捜すことはないだろう。
このイベントに興味がないということを、初めから知っていたから。
誘ったのは、この場に入り易くするためだけだ。
〝魔導士〟は、『ウルドヴェルタンディ・スクルド』が関係している場所には単身で入ることを許されない。
それは〝魔導士〟と〝PSI〟の確執そのものの象徴でもある。
遥けき太古より脈々と受け継がれている秘法と、新しい『力』。それらが衝突するのは当然のことなのだろう。
フィンヴァラがこの場を立ち去ったのを、実はハズラットは知っていた。
それだけの〝能力〟を、自分は持っているから。それにそうなることも初めから知っていた。
ハズラットは彼を利用したに過ぎない、自分の目的のために。
「……この程度で〝結界〟か……。実に雑だ。大したことがないぞ、『ウルドヴェルタンディ・スクルド』」
そう呟き、手を翳して呪文を唱えた。そして結界の片隅に、常人には絶対には見えない――いや余程熟達した者にしか見えないほどの傷を付ける。
「これが兄として出来る最後のことだと思えよ。多少――いや、かなり、私怨もあるがな」
独白し、更に呪文を唱えた。
『本日の司会進行を勤めさせて頂くのはこの私、DJ・ロッディ! それではこれより、説明に入らせて頂きます……』
アナウンスが響く中、フィンヴァラに続きハズラットも、その姿を消した。
そして二人が中央公園にいなくなった後、17.50タイムに〝彼〟――D・リケットは中央公園に現れた。
いつもと変わらない漆黒のロングコートを纏い、光の加減で虹色に見えるサングラスを掛けて。
『おおっとぉ、此処で今回の主役の御登場だぁ!!』
リケットを見付けた司会が、マイクに向かって大声で叫ぶ。
それを聞いた観衆が一斉に周囲を見回し、そしてカメラがリケットに向けられる。
司会の後方に巨大なスクリーンが現れ、カメラが捉えている映像を映し出した。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
No One's Glory -もうひとりの物語-
はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `)
よろしくお願い申し上げます
男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。
医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。
男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく……
手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。
採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。
各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した……
申し訳ございませんm(_ _)m
不定期投稿になります。
本業多忙のため、しばらく連載休止します。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
エンシェントソルジャー ~古の守護者と無属性の少女~
ロクマルJ
SF
百万年の時を越え
地球最強のサイボーグ兵士が目覚めた時
人類の文明は衰退し
地上は、魔法と古代文明が入り混じる
ファンタジー世界へと変容していた。
新たなる世界で、兵士は 冒険者を目指す一人の少女と出会い
再び人類の守り手として歩き出す。
そして世界の真実が解き明かされる時
人類の運命の歯車は 再び大きく動き始める...
※書き物初挑戦となります、拙い文章でお見苦しい所も多々あるとは思いますが
もし気に入って頂ける方が良ければ幸しく思います
週1話のペースを目標に更新して参ります
よろしくお願いします
▼表紙絵、挿絵プロジェクト進行中▼
イラストレーター:東雲飛鶴様協力の元、表紙・挿絵を制作中です!
表紙の原案候補その1(2019/2/25)アップしました
後にまた完成版をアップ致します!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる