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Trash Land
death player III
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「古池や、蛙飛び込む水の音……ふむふむ」
水晶の森美術公園では、自称〝詩人〟のリィクがベンチに坐って一人でブツブツ言っている。
それはいつものことで、〝結界都市〟近辺に住む人々だったら珍しくもないが、観光客にとっては気色悪いことこの上ない。
だが実は、〝結界都市〟の観光パンフレットの最新版『〝結界都市〟ドラゴンズ・ヘッドの歩き方・最☆新☆版』に、なんとリィクが掲載されているのである。
では実際に、どの様に記載されているかというと……
『〝結界都市〟ドラゴンズ・ヘッドの奇妙な人々。
1トレイン・メン――「郊外」行きの列車に常に乗車している。
2路地裏の人々――歓楽街の路地裏に生息。常に表通りを見ている。
3魔導士ギルドの魔導士――都市の南側、通称 《世界の館》に生息。見学自由。
4自称〝詩人〟の老人――「郊外」にある水晶の森美術公園に生息。いつも俳句や詩を読んでいる。話が長いので注意!
………………………………………………』
彼に対して失礼だが、その中では一番まともでフツーに奇妙な人物であるのは間違いない。
「朝顔に、つるべ取られて……む、なんじゃたかの?」
最近物忘れが酷いと思いつつ頭を抱えるリィクの傍に、ダークグレーの短く切り揃えた髪の男が近付き、そして、
「貰い水、ですよ。リィク老師」
低くもなく高くもないその声の主を見るまでもなく、リィクは、
「ほっほ、そうじゃったそうじゃった。では次に……」
「今日は情報を買いに来ました」
続けようとするリィクを遮り、男が言う。それを聞いた一瞬だけリィクの双眸が鋭くなるが、すぐにいつもの変人――もとい、好々爺の表情になる。
「この儂から情報を買いたいとはのぉ。買わずともぬしの情報網だったら大抵のことは解る筈じゃぞ」
「なにを仰いますか。貴方の情報は我々魔導士ギルドの情報網など足元にも及ばない。それに……時間がないのです」
少し考え、男を上目遣いで見上げる。そして坐るように言い、一度だけ背伸びをした。
「時間がないとは、ぬしにしては以外じゃのぉ。のうハー坊」
「ハー坊は止めて下さい。そんなことより、早急に売って欲しい情報は三つ。D・リケットを捜しているという女性の住所、そして誰が訊きに来たのか、それは何人か、です」
「ふむ……」
呟き、懐からチョコレートを出して齧り、横目で見ながら呟いた。
「あやつを捜しているのはジェシカ・Vという女性じゃ。訊きに来たのは二人。ぬしと、素性は誤魔化しておったが『ウルドヴェルタンディ・スクルド』兵器開発部門の使い走りじゃな」
「ではリケットは訊いていない、と?」
「いや、あやつは知っとる。儂が呼んで、教えたからのぉ」
もごもごと口元を動かして笑うリィクに苦笑する。確かに訊きに来たのは二人だけだ、嘘は言っていない。
「リケットが知っているということを、その使い走りに言いましたか?」
「……それは情報として訊いているのかの?」
訊かれて、彼は考えた。そんなことを聞いても、情報として役に立つのだろうか。いや、役に立つ筈。今リケットを狙っている者は星の数ほどいる。それらに彼が負けるとは思えないが、念を入れる必要があるのもまた事実。
「情報としてです」
「そうか……ぬしは、それほど急いでおるのか……ま、仕方ないっちゃそうだがの。言ったぞい。儂は情報屋だからのぉ、贔屓は一切無しじゃ」
「……そうですか……解りました。ではこれで失礼しますが、くれぐれも私が訊きに来たことは情報にしないで下さい」
そう言うと懐から封筒に入った紙幣を出し、渡す。
リィクはそれを受け取り、早速愛しいげに撫でると、本人が見ているにも拘らず数え始めた。
失礼だと思うだろうが、そうするのが当然であり、またそうしないと生きて行けない世界なのだ。
余談だが、リィクは現金主義であり、仮想通貨や電子マネーは一切受け付けない。目に見えない数字だけのものは、信用しないからだ。
因みに〝ハンター〟の、特に〝サイバー〟連中にはそういう者共は結構多い。電脳の持ち主であるにもかかわらず。
「……ちょいと待った」
数え終わるのを待っている男へ一瞥すら与えず、リィクは険しい表情で言った。
「足りませんでしたか?」
そう言うと、リィクは首を振り、
「情報四つと口止め料で、このくらいが妥当じゃ。多いぞい」
「それは、チップだと思って下さい」
肩を竦めて言う男へ紙幣を差し出し、眼がなくなるくらい笑いながら言った。
「儂はのぉ、チップは受け取らないことにしておるのじゃ。それにしても、おんしらは対照的じゃのぉ。気前が良い兄とケチの弟……どうしてこれほどまでに差が出るのかのぉ」
「あれは、徹底して合理主義なのですよ。必要ないものは全て省く、昔からそうでした」
肩を竦めて苦笑する彼を見て微笑み、紙幣を受け取るように促す。こうなればどのような手段を使ってでも返すのがリィクという男だ。此処は降参するしかない。
「それでは、失礼します」
紙幣を受け取り、一礼してから男は踵を返した。その後ろ姿を見もせず、リィクは呟いた。
「なにかあったらいつでも呼んどくれ。儂はいつでも此処いる。儂にとって、時間は意味を成さないからのぉ」
『〝結界都市〟の奇妙な人々』に名を連ねるリィク。
何故そのようになったか、それは彼がこの場所にずっといるからだ。
昼も、夜も、彼は此処にいる。
ずっと、ずっと……四半世紀以上前――〝結界都市〟が創られるより遥か以前より、今と変わらない老人の姿で……。
水晶の森美術公園では、自称〝詩人〟のリィクがベンチに坐って一人でブツブツ言っている。
それはいつものことで、〝結界都市〟近辺に住む人々だったら珍しくもないが、観光客にとっては気色悪いことこの上ない。
だが実は、〝結界都市〟の観光パンフレットの最新版『〝結界都市〟ドラゴンズ・ヘッドの歩き方・最☆新☆版』に、なんとリィクが掲載されているのである。
では実際に、どの様に記載されているかというと……
『〝結界都市〟ドラゴンズ・ヘッドの奇妙な人々。
1トレイン・メン――「郊外」行きの列車に常に乗車している。
2路地裏の人々――歓楽街の路地裏に生息。常に表通りを見ている。
3魔導士ギルドの魔導士――都市の南側、通称 《世界の館》に生息。見学自由。
4自称〝詩人〟の老人――「郊外」にある水晶の森美術公園に生息。いつも俳句や詩を読んでいる。話が長いので注意!
………………………………………………』
彼に対して失礼だが、その中では一番まともでフツーに奇妙な人物であるのは間違いない。
「朝顔に、つるべ取られて……む、なんじゃたかの?」
最近物忘れが酷いと思いつつ頭を抱えるリィクの傍に、ダークグレーの短く切り揃えた髪の男が近付き、そして、
「貰い水、ですよ。リィク老師」
低くもなく高くもないその声の主を見るまでもなく、リィクは、
「ほっほ、そうじゃったそうじゃった。では次に……」
「今日は情報を買いに来ました」
続けようとするリィクを遮り、男が言う。それを聞いた一瞬だけリィクの双眸が鋭くなるが、すぐにいつもの変人――もとい、好々爺の表情になる。
「この儂から情報を買いたいとはのぉ。買わずともぬしの情報網だったら大抵のことは解る筈じゃぞ」
「なにを仰いますか。貴方の情報は我々魔導士ギルドの情報網など足元にも及ばない。それに……時間がないのです」
少し考え、男を上目遣いで見上げる。そして坐るように言い、一度だけ背伸びをした。
「時間がないとは、ぬしにしては以外じゃのぉ。のうハー坊」
「ハー坊は止めて下さい。そんなことより、早急に売って欲しい情報は三つ。D・リケットを捜しているという女性の住所、そして誰が訊きに来たのか、それは何人か、です」
「ふむ……」
呟き、懐からチョコレートを出して齧り、横目で見ながら呟いた。
「あやつを捜しているのはジェシカ・Vという女性じゃ。訊きに来たのは二人。ぬしと、素性は誤魔化しておったが『ウルドヴェルタンディ・スクルド』兵器開発部門の使い走りじゃな」
「ではリケットは訊いていない、と?」
「いや、あやつは知っとる。儂が呼んで、教えたからのぉ」
もごもごと口元を動かして笑うリィクに苦笑する。確かに訊きに来たのは二人だけだ、嘘は言っていない。
「リケットが知っているということを、その使い走りに言いましたか?」
「……それは情報として訊いているのかの?」
訊かれて、彼は考えた。そんなことを聞いても、情報として役に立つのだろうか。いや、役に立つ筈。今リケットを狙っている者は星の数ほどいる。それらに彼が負けるとは思えないが、念を入れる必要があるのもまた事実。
「情報としてです」
「そうか……ぬしは、それほど急いでおるのか……ま、仕方ないっちゃそうだがの。言ったぞい。儂は情報屋だからのぉ、贔屓は一切無しじゃ」
「……そうですか……解りました。ではこれで失礼しますが、くれぐれも私が訊きに来たことは情報にしないで下さい」
そう言うと懐から封筒に入った紙幣を出し、渡す。
リィクはそれを受け取り、早速愛しいげに撫でると、本人が見ているにも拘らず数え始めた。
失礼だと思うだろうが、そうするのが当然であり、またそうしないと生きて行けない世界なのだ。
余談だが、リィクは現金主義であり、仮想通貨や電子マネーは一切受け付けない。目に見えない数字だけのものは、信用しないからだ。
因みに〝ハンター〟の、特に〝サイバー〟連中にはそういう者共は結構多い。電脳の持ち主であるにもかかわらず。
「……ちょいと待った」
数え終わるのを待っている男へ一瞥すら与えず、リィクは険しい表情で言った。
「足りませんでしたか?」
そう言うと、リィクは首を振り、
「情報四つと口止め料で、このくらいが妥当じゃ。多いぞい」
「それは、チップだと思って下さい」
肩を竦めて言う男へ紙幣を差し出し、眼がなくなるくらい笑いながら言った。
「儂はのぉ、チップは受け取らないことにしておるのじゃ。それにしても、おんしらは対照的じゃのぉ。気前が良い兄とケチの弟……どうしてこれほどまでに差が出るのかのぉ」
「あれは、徹底して合理主義なのですよ。必要ないものは全て省く、昔からそうでした」
肩を竦めて苦笑する彼を見て微笑み、紙幣を受け取るように促す。こうなればどのような手段を使ってでも返すのがリィクという男だ。此処は降参するしかない。
「それでは、失礼します」
紙幣を受け取り、一礼してから男は踵を返した。その後ろ姿を見もせず、リィクは呟いた。
「なにかあったらいつでも呼んどくれ。儂はいつでも此処いる。儂にとって、時間は意味を成さないからのぉ」
『〝結界都市〟の奇妙な人々』に名を連ねるリィク。
何故そのようになったか、それは彼がこの場所にずっといるからだ。
昼も、夜も、彼は此処にいる。
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