HEAD.HUNTER

佐々木鴻

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Trash Land

2death player I

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「市街」の東寄りにある歓楽街。

 その名を冠する場所ならば、夜になると煌びやかなネオンが輝き、仕事帰りの会社員や友人、恋人と待ち合わせをする人々が何処からともなく集まって来る、一見するとそれは華やかで、それでいて当たり前のように映るだろう。

 だが此処 〝結界都市〟は、そうならない。

 その行き交う人々は疎らで、歓楽街はどこか閑散とした雰囲気になっている。
 何故なら夜の歓楽街から一歩でも路地を外れると、其処は闇より更に暗い世界となるからだ。

 歓楽街の路地裏は、この都市を巨大なドームで覆ったときにその中に入りきれずに放置された箇所があるのと同様に、本来放置されるべきだった場所が立地条件の関係上、ドームの中に収まってしまった場所なのだ。

 放置され、誰も立ち寄らなくなった場所にのみ決まって集まる者達がいる。

 それが犯罪者だけだったら、それほど脅威ではない。

 実は犯罪者には犯罪者なりの奇妙なルールが存在し、一般人や旅行者には手を出されない限り、絶対に手を出さない。
 何故なら手を出してしまったなら、その裏にある巨大な犯罪組織によってその者は直ちに抹消されることとなるからだ。

 それがこの「市街」で生きて行く術であり、曲げられない法でもある。

 それがいつからの法なのか知る者はいなく、誰も疑問に思わないだから。

 では一体なにが脅威なのか。それは俗称〝路地裏の人々〟と呼ばれる者達である。

 実際にどのような人々がいるのか――

 脳に埋め込まれた機械が狂い、理性が全く働かなくなった〝サイバー〟。

 余りに大量の人体強化薬を医師の処方もなく違法に手に入れて、それを常用したため既に人間の姿を留められなくなった〝ハイパー〟。

 長時間電脳世界サイバー・ワールドに入り過ぎて狂った〝デッカー〟。

 〝能力〟を欲する余りに医師免許を取得していない違法医師によって脳を弄られ、常に〝能力〟を発揮し続ける〝PSIサイ〟。

 etc...etc...

 彼らはその路地裏を自らの住処とし、其処から決して出ない。其処しか、彼らを受け入れてくれる処がないから。

 自分達を受け入れてくれる場所だったら、どのような処でも構わない。

 だが、ふと思う。あの明りの向こうが懐かしく、羨ましく、そして妬ましい。

〝路地裏の人々〟はいつも路地から表通りを覗いている。

 驚くべき事に、観光で「市街」を訪れる人々のパンフレットにはその〝路地裏の人々〟が記載されているのだが、それに対しての注意事項などは一切ない。

 また同様に、〝トレイン・メン〟に対しても、だ。

 パンフレットにはこの様に書かれている。

『〝結界都市〟ドラゴンズ・ヘッドの奇妙な人々。

 1 トレイン・メン――「郊外」行きの列車に常に乗車している。

 2 路地裏の人々――歓楽街の路地裏に生息。常に表通りを見ている。

 3 魔導士ギルドの魔導士――都市の南側、通称 「世界の館」に生息。見学自由。

 ………………………………………………』

 魔導士がその中に入っているのはご愛嬌だが、〝トレイン・メン〟と〝路地裏の人々〟に対してはこれだけで、その他には一切記載がなかった。そのために、観光客がその被害に遭うのは珍しくない。

〝トレイン・メン〟には、話し掛けてはいけない。自らがそうなりたくないのなら。

〝路地裏の人々〟には、視線を合わせてはいけない、其方を見てはいけない。魅了され、引き込まれたくないのなら。

 その二つの人々を排除しようと画策したことも、実はある。だがその試みは無駄に終ったのである。

 まず〝トレイン・メン〟。

 彼らを排除しようと公安が動き、そして編成された部隊が「郊外」行きの列車を強襲したことがあった。

 だがその結果、悪戯に〝トレイン・メン〟を増やしただけだったのであった。

 彼らは、何もしない。

 全てを受け入れている。

 物だろうと、者だろうと。

 だが彼らからは、全てのものを奪うことは出来ない。物だろうと、者だろうと。

 そして〝路地裏の人々〟。

 彼らを排除するためには、まず路地裏そのものをなくさなくてはならない。

 だがそうすると、歓楽街の一角を消してしまうこととなるのだ。

 其処には、其処で細やかに暮らす人々がいる。その生活を保護し、再び元のような暮らしを提供することは、実は出来ない。

 一度壊したものは、もう二度とその形では戻らないから。

 それにそれを保護するだけの資産は、既に「結界都市」には無い。

 更に言うならば、〝トレイン・メン〟もそうだが〝路地裏の人々〟は、それに触れなければ実害が無いのも事実。

 だから、彼らはそのまま放置されている。表立った法はないが、事実上彼らは〝結界都市〟で生きて行くことを認められたのだ。

 そして彼らは、今でも歓楽街の路地裏で、じっと表通りを見詰めている。
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