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学舎と姉妹と
13 姉妹、迷宮氾濫に突貫する
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ナディたちを乗せて疾走する馬車は、軋んで今にも分解しそうになりながらも順調に進み、だがいい加減に二つの意味で限界を迎えたフロランスが色々出そうになっちゃった頃になってやっとそれに気付いたナディは、
「【イレイズ・レジスト】【イレイズ・オブ・オシレーション】【ディレーション・リペア】」
揺れと振動が辛いのならそれを消せばいいじゃないとばかりに、馬車に掛かる抵抗と振動を消去し、更に継続的に補修させて分解を防いだ。
だがそれは、既に遅かった。
激しい揺れと振動に晒され、そして愛しちゃった殿方に抱えられた上に耳元で低音でセクシーなイケボで励まされるという、ご褒美なんだか拷問なんだか意見が明確に分かれる状況にも晒され続けているフロランスは――
「~~~~~~~~~~!」
淑女としてちょっと出しちゃいけない声とか色々が出ちゃって、息も絶え絶えにグッタリ脱力してアーチボルトの上で気絶してしまった。
「え? フロランス嬢? 如何されましたフロランス嬢!」
そんな状態になったフロランスに、再び耳元で囁くアーチボルト。相変わらずのセクシーイケボである。
「はうぅうん……も、許して……」
そしてまたしても息も絶え絶えになるフロランスであった。
「【クリンネス】アーチー。もう平気だからフロランス姉を下ろしてあげて。これ以上は責任問題になる。もうなってるかもだけど」
そんなフロランスに【清浄】の魔法を掛けて色々を無かったことにしたレオノールは、そう言いながら座椅子を引き出してソファベッドにすると、アーチボルトから引き剥がして其処に横たえた。
「あ……私、何かしでかしたのでしょうか……」
そんな状態のフロランスに責任を感じたのか、伏目になりそう呟いた。自分としては、今出来ることを精一杯したつもりではあったのだが、どうやら違ったようだ。きっとそれが原因でフロランスの容体が悪化したのだろう。
その結論に至ったアーチボルトは、ならばと看病するべく傍へ行こうとして、レオノールに止められた。
「アーチーが今のフロランスに触るのはダメ」
「な……どうしてですか、レオノール様」
「もしそうしたいならちゃんと責任を取る覚悟をすべき」
「覚悟……ですか。私はいつでも、犯した罪を償い贖う覚悟があります!」
「そっちの覚悟じゃない。男が女に対して責任を負う覚悟」
「え……と、それはどういう……」
絶妙なところで鈍感力を発揮するアーチボルトである。その反応を見たレオノールは、恐らく生まれて初めてであろうクソデカ溜息を吐いた。
確かにナディも――ひいては魔王妃も殊の外、そりゃあもう引くほど鈍感だが、どうしてこうも要らんところだけ似るのだろう。つくづくそう思うレオノールであった。
……そういえば、魔王もその気がある。なるほど、これは【血統】の成せる【業】か。【業】と読んだ方が良いかもだが。
「迂遠に言っても伝わらないからはっきり言う。フロランス姉はアーチーを真剣に愛している。これは判っている筈」
「……はい、それは知っております。ですがそれとこれとは違うのでは――」
「違わない。フロランス姉はアーチーと添い遂げても良いという覚悟がある。そしてそれが意味することもちゃんと理解している」
「え……と、つまり……?」
「ぶっちゃけるとフロランス姉はアーチーを性的対象として見てる。つまりえちちしたい。そんな相手に耳元で囁かれたら色々がイロイロしちゃう。あとアーチーの声は無駄にセクシーでイケボ。例えるならスワベさんかツダケンもしくはうめめ。よってアーチー大好きフロランス姉は声だけでアレコレになっちゃう」
「………………え、と……ちょっと例えが判らないのですが……」
「レオのメタ発言は取り敢えずどうでも良い。つまりフロランス姉を娶る覚悟がないなら関わるべきじゃない」
「いえ、でも、待って下さいレオノール様。そもそもの前提がおかしいです。私は家妖精なのですよ。なのに、添い遂げるということが何を意味するのか、きっとフロランス嬢は分かっていません」
「アーチーこそフロランス姉を判っていない。あと恋する乙女を舐め過ぎ。ついでにファルギエール家の血統を甘く見ている」
「……確かに、私はフロランス嬢の考えを理解出来ていません。ですが、私と添い遂げるということは、ヒトであることを捨てて魂魄だけの存在となり、永遠に存在しなければならないということなのですよ。そんな残酷な選択、させるわけにはいきません」
「だからそうじゃない。もっとシンプル。実はムッツリなアーチーがフロランス姉の痴態を見ているのは知っている。つまりアーチー自身もフロランス姉とえちちしたい筈。それにファルギエール家の人々は思い込んだら一直線。その結果がどうなろうと後悔しない潔い家門。だからフロランス姉は既に覚悟完了している」
「……しかし、それでも、私は……」
「今じゃなくても後でじっくり考えると良い。それと一人で色々とイロイロしてるフロランス姉を覗くのはほどほどにすべき。そうするくらいなら正々堂々襲うのを推奨する」
そんな真剣なんだか違うのか良く判らない会話をする二人であった。
ちなみにこのとき、アーチボルトは気付いていなかったがレオノールはしっかり気付いていた。途中から――具体的にはフロランスがアーチボルトと性的関係になりたがっているとレオノールに暴露された辺りから、そのフロランスがそれをしっかり聞いていることに。
判っているのに言っちゃうレオノールも大概である。まぁ、背中を押すという意味も有ったのだろうが。
で。そんな暴露をド直球でされちゃったフロランスはというと、羞恥に耐え切れずモゾモゾと悶絶していた。ついでに、せっかく無かったことにして貰った筈の色々がまたしてもイロイロしちゃってたりする。それがちょっとクセになりそうで、新たな扉を開けそうになってもいた。
フロランスとアーチボルトの痴話的アレコレをしている間にも、馬車は高速で【交易都市グレンゴイン】へと疾走して行く。
そして遂に、都市の中央にある城塞の尖塔が見えた。
「目視完了! よっしゃ行くわよ!」
車中で繰り広げられていた色々なイロイロに気付いていないナディは、御者台で手綱を握りながらそう言い、獰猛な笑みを浮かべた。それを至近距離で見ちゃったガエル氏は盛大にドン引きしていたが。
「ええええ!? 行くって、どうするつもりなんですか!?」
都市へと馬車を疾走させ、そして停まる気配を一切みせないナディに訊くガエル氏。それに、そりゃあもう良い笑みを浮かべ、
「このまま突貫するわ!」
この場では絶対に聞きたくないであろう台詞を、口の端を吊り上げて「ニカッ」と白い歯を光らせた上で、イケメンに潔く言い切った。
「うえええええええ!? ちょい待てぃ! これはただの馬車で戦車じゃないんだぞ! 突貫したらぶっ壊れるわ判ってんのか!?」
そうして常識的に停まるように、思い止まるようにガエル氏が絶叫するのだが、そんなのに耳を貸すナディではない。
都市に急接近し、そしてそれを囲むように数え切れないほどの魔物が密集しているのが見えた。
「おうおう、居るわ居るわウジャウジャと!」
不敵に嗤うナディ。そして隣では訴えを全然聞いてくれないとガエル氏が頭を抱えて半泣きで絶叫する。
「【リバイヴ】【バイタリティ・アクティベーション】【バイタリティ・メインテイン】【デュレーション・ホウルリカヴァリー】【セーフ・コンディション】【マキシマイズ・ブーステッド・ホウルアビリティ】【マキシマイズ・ブーステッド・フィジカル】【マキシマイズ・ホウルリフレクション】【アブソリュート・ホウルリジェクション】【エアリアル・フォーム】【ホロウ・ブレイド】【ピアッシング・ウィンド】【ブレイヴ】」
そんなガエル氏を完全無視して、エンペラー・ブラッドレイ号――正式名称ヴィリバルド号に回復と強化魔法を重ね掛けし、最後に臆さない精神を付与する。
「さあ、エンペラー・ブラッドレイ号。覚悟完了したわよね! ちなみに私は何時でも何処でも常時臨戦! いつ何時、誰の挑戦でも受ける!」
などと闘魂な誰かさんの名言を口走り、手綱をポイっとガエル氏へ渡す。突然そうされて動揺しまくっているガエル氏を他所に、
「【ブーステッド・オブ・ゴッデス】【ゴッデス・ブレッシング】【ゴッデス・フォーム】【エンブレース・オブ・ゴッデス】【マキシマイズ・オブ・エフィック】【エクステンション・オブ・エフィック】【ソーサリー・イクステンシヴ】【ブーステッド・ホウルアビリティ】【デュレーション・ホウルリカヴァリー】【セーフ・コンディション】【リジェネレーション】【デュレーション・キュアディジーズ】【マキシマイズ・バイタリティ・アクティベーション】【バイタリティ・メインテイン】【ハードアーム】【マキシマイズ・ソーサリー・ブースト】【アタック・ペネトレイト】【ソーサリー・ペネトレイト】【マキシマイズ・プロテクト】【マキシマイズ・ホウルレジスト】【マキシマイズ・ホウルリフレクション】【アブソリュート・ホウルリジェクション】【ディメンション・ウォール】【ミラー】【ブラー】【ヒドゥン】【サプレッション】【ファスト・ムーヴ】【イレイズ・レジスト】【イレイズ・オブ・オシレーション】【エビエイション】【センス・マナ】【センス・イービル】【センス・ホスリティ】【センス・エネミー】【センス・オーガニズム】【センス・インオーガニック】【センス・ライ】【サーチ】【ディテクト】【シーク】【アナライズ】【サンカント・ソール】【ソーサリー・リバーブ】【ディメンション・サークル】【ターム・オブ・ソーサリーアクティベート】【フィクスト・ノヴァ】【ディレイ・オブ・ソーサリーアクティベート】【フレイム・ヴォルケーノ】」
固有魔法を発動させた上にありったけの強化魔法と、条件発動と遅延発動魔法を重ね掛けする。そして更に、その背に四色の刃の翼が展開され、羽撃きながら飛び上がる。
ちなみに魔法で飛んでいるため羽撃く必要は一切ないのだが、どうあってもそれは譲れないらしい。
その方が、格好良いから!
「さて、エンペラー・ブラッドレイ号。どちらが多く屠れるか、勝負よ!」
並走するように並んで飛行しながら挑発するナディへ、流れる魔物由来の血が騒ぐのか嬉しそうに嘶いたエンペラー・ブラッドレイ号――正式名称以下略は、都市を囲んでいる無数の魔物へと突貫した。
「お姉ちゃんだけズルい。レオも混ざる」
そう言いつつ、窓からひょいと飛び出し屋根に立つレオノール。ちなみにナディと同じようにバフ済みだ。
「ちょ、お待ちなさいなレオノール! 危ないですわ! それとガエル! 早く馬車を停めなさい!」
「いや停まらないし止まらないないんですよ! こっちがなんとして欲しいです――のわーーーー!?」
隙間なく埋め尽くされた魔物の集団が目前に迫り、思わず目を閉じるガエル氏。その脳裏に、最愛の妻と愛娘の姿が浮かぶ。
――ああ、これが走馬灯か……。
などと物思いに耽るが、来るべき衝撃も命を落とすであろう激痛もなく、訝しんで恐る恐る目を開けたガエル氏の視界に、信じ難い光景が飛び込んで来た。
馬車を引きながら高速で疾走する、風を纏ったヴィリバルド号が魔物の群れをものともせずに吹き飛ばし、そればかりではなく切り刻む。
「【ミラー】『【ソーサリー・リバーブ】【マルチプル】【カラント・ソール】【コンバージェン・レイ】』」
更に馬車の屋根から大小無数の光線が絶え間なく走り、魔物を爆散させている。
そして極め付けは――
「あはははははははは! 楽しいねぇ!!」
獰猛に笑いながら、両手にそれぞれ炎と氷を纏った短剣? を持ち、背に展開している四色四十八枚もの刃の翼を縦横無尽に走らせ斬り刻む。
そればかりではなく、追随するように蒼白の火球がその身の周囲に絶え間なく展開され、触れる魔物全てを灰も残さず消滅させる。
更に通り過ぎた跡の斜め後方から次々と極大の火柱が噴き上がり、其処にいる魔物を根刮ぎ殲滅して行った。
それは、その姿は、とてもじゃないが成人したての少女とは到底思えない。そしてちょっと良い子には見せられないほど凄惨でもある。
そうして吹き飛ばされ、爆散し、切り刻まれた魔物が次々と消滅して、そして色々ドロップする。それを見て改めて、これは迷宮氾濫なんだなーと現実逃避気味にしみじみ思うガエル氏だった。
ただそのドロップ品が、落ちてはすぐに消えるという謎現象が起きているが。
ちなみに今回氾濫したのは【貪食曠野】という迷宮で、ポップするのはオークという強靭な肉体と膂力の魔物だ。あと豚面ではない。
推奨ランクは浅層で最低【銀級】以上。深層ともなれば【真銀級】でもレイドパーティ推奨な高ランク迷宮である。
階層型から始まり領域型になる特殊迷宮で、最深部は樫の木の森となっていてオークの大規模な集落が点在する厄介な迷宮だ。
ドロップするのは魔結晶と食肉、そして各種質の良い武器や防具が落ちることもあり、深層に行くほど美味しいお肉や武器防具、そしてセット装備がレアドロすることもある。よってナディの目の色が変わるのも、さもありなんといったところだ。
そんな災害のような暴風のような蹂躙劇は当然城壁の上から目視出来、其処に喰い付かせないように飛び道具や煮油を浴びせている兵士や冒険者たちからも丸見えであった。
その正体不明な、敵か味方か不明な何かが突然出現したことで軽く混乱したのだが、魔物の大群をぶった斬るように駆け抜け、ドリフトしながら方向を変えて更に蹂躙している馬車に刻印されてあるファルギエールの家紋を目敏く見付けた兵士がそれを指揮官に伝えたことで、歓声が上がった。
「ファルギエールが、ファルギエール侯爵家から援軍が来たぞーーーーーー!」
そしてその場にいる、城壁外を埋め尽くすほどの魔物に絶望し心が折れ掛けていた全ての人々が、その僅かな希望に奮い立ち、鬨の声が上がる。
そう、ファルギエール家は恐竜に玉乗りを仕込みたくなるほど【超】な武闘派で有名なのだから。
だがいくら【超】であっても、ほぼ全力で失踪して来たため既に限界だった。主にヴィルバルド号が。
それを察したナディが、見るからに減速し始めている馬車に並んで飛び、その屋根にいるレオノールとアイコンタクトをして互いに頷き合う。
「ガエル! そろそろ時間よ。進路を城壁に! 全速前進!」
手綱を握ってはいるもののあまりの展開に思考が追い付かず、何も出来ずにただ呆然としているガエル氏にナディの檄が飛ぶ。それで我に返り、だがそんな無茶な指示に困惑する。
そりゃそうだろう。この場から城壁へ進路を取ったとしてもあるのは城門ではなくただの壁だ。ぶつかって大惨事になる未来しか見えない。
「あともうひと踏ん張りよエンペラー・ブラッドレイ号!」
そうしてビビりまくっているガエル氏を他所に、完全に息が上がっているヴィルバルド号に声を掛ける。そして名前はあくまでもそれであるらしい。
「これが終わったら乳製品不使用の特大バケットに美味しいお野菜をたんまり挟んだ特性バケットサンドを三十本作ってあげる」
それを聞いた瞬間、ヴィルバルド号の双眸がギラリと光り鋭くなる。そして最後の力を振り絞るように、嘶き、城壁へと全速で直進する。
その馬車の屋根にいるレオノールが、
「【マキシマイズ・ソーサリー・ブースト】【マキシマイズ・マギエクステント】【ディメンション・サークル】【グラント・オブ・ソーサリーディレクション】【フォトン・リージョン】【カタストロフ・レイ】」
それに合わせて魔法を展開し、前方へ直径3メートルもの極大破壊光線を放つ。それは射線上の魔物をことごとく消し飛ばし、そのまま城壁に突き刺さらずに垂直に曲がって上昇し、そのまま空へと消えて行く。
そんなおおよそ有り得ない挙動を見せたその魔法に、当初怯えていた城壁にいる兵士たちは、消えたそれの先を呆然と見上げていた。
「【マキシマイズ・ソーサリー・ブースト】【マキシマイズ・マギエクステント】【グランド・リージョン】【ギガ・グランド・オペレート】【クリエイト・ピアー】【クリエイト・ウェイ】」
そうして出来上がったその空白地帯の大地が脈動し隆起する。それが橋脚となり道が出来、城壁へと繋がった。
その緩やかな登り坂を、荒い息を吐くヴィルバルド号が減速しながらも登り始める。
それを魔物が黙って見ている筈もなく、その橋から城壁内を目指して殺到し始めた。
「そりゃそうだ。知性があったらそうなるよね。でも残念。【ディスアセンブリィ】」
出来上がった道に殺到するならそれを無くせばいいじゃないとばかりに、ナディは馬車が通り過ぎた傍からそれを壊して行く。
「もう少しよ、根性見せなさい!【ミティゲート・オブ・グラヴィティ】」
明らかに速度が落ちる馬車に、重力軽減の魔法を掛ける。それにより負担が軽減したヴィリバルド号が、力強く踏み出し速度を上げた。
ちなみに、どうして今まで馬車にそれを掛けなかったのかというと、質量兵器としての役割もあったからだ。
あと疲労を回復させる魔法は、あまりに困憊していると効果が薄くなるし、場合によってはその命に関わるのである。
ようは疲れ過ぎていると、エナドリを飲んでも効かないのと同じだ。
そうして橋を登り切り、ヴィリバルド号はそのまま勢い良く城壁を飛び越え、そしてそのまま自由落下し――
「【ゼロ・グラヴィティ】お疲れ様」
地面に激突する前に、その全ての重量を打ち消し軟着地させた。
空から馬車が降って来るという奇跡のような光景を目の当たりにした人々は、それに施された家紋を見て胸を撫で下ろし、その屋根に立つ有り得ないほど美しい上に可愛いというわけの判らない容姿の少女に言葉を失った。
だがそれより、四色に輝く四十八枚もの刃の翼を背に宿し、二刀を携え降り立った少女にまず我が目を疑い、そして全身から立ち昇り空を突く黄金の光を放つ神々しい姿にその目を奪われる。
城壁で防衛していた兵士や冒険者は、目撃していた。
その少女は、蒼白の火焔を伴い刃の翼で魔物を斬り裂き、大地より噴き出す炎を操り蹂躙していた様を。
「おっと、もう一回」
そうして静まり返る人々を尻目に、ナディは再び上空へと舞い上がる。
「【ソーサリー・アクセラレーション】【ソーサリー・リバーブ】【マルチプル】【ディメンション・サークル】【ミーティア・スウォーム】」
全身から魔力を放出させながら魔法を発動し、大小様々な立体魔法陣を高速で展開させる。
それが空へと消えて行き、そして――無数の隕石が城門前に密集している魔物へと降り注いで爆発した。
「裁きの炎……刃の翼……黄金の、熾天使様……」
誰ともなく呟いたその名称が、後にとんでもない二つ名となってしまうのを、この時のナディは知る由もない。というか知りたくもないだろう。
余談だが、車中にいるフロランスとアーチボルトが、激しく揺れた上に自由落下した所為で折り重なるようにぶっ倒れてしまい、挙句それが互いの股間に顔面を突っ込んだよう形になるという突発アクシデントが発生していた。
果たして、どちらにとっての幸運なのかは謎であるが。
ちなみにフロランスが上である。
「【イレイズ・レジスト】【イレイズ・オブ・オシレーション】【ディレーション・リペア】」
揺れと振動が辛いのならそれを消せばいいじゃないとばかりに、馬車に掛かる抵抗と振動を消去し、更に継続的に補修させて分解を防いだ。
だがそれは、既に遅かった。
激しい揺れと振動に晒され、そして愛しちゃった殿方に抱えられた上に耳元で低音でセクシーなイケボで励まされるという、ご褒美なんだか拷問なんだか意見が明確に分かれる状況にも晒され続けているフロランスは――
「~~~~~~~~~~!」
淑女としてちょっと出しちゃいけない声とか色々が出ちゃって、息も絶え絶えにグッタリ脱力してアーチボルトの上で気絶してしまった。
「え? フロランス嬢? 如何されましたフロランス嬢!」
そんな状態になったフロランスに、再び耳元で囁くアーチボルト。相変わらずのセクシーイケボである。
「はうぅうん……も、許して……」
そしてまたしても息も絶え絶えになるフロランスであった。
「【クリンネス】アーチー。もう平気だからフロランス姉を下ろしてあげて。これ以上は責任問題になる。もうなってるかもだけど」
そんなフロランスに【清浄】の魔法を掛けて色々を無かったことにしたレオノールは、そう言いながら座椅子を引き出してソファベッドにすると、アーチボルトから引き剥がして其処に横たえた。
「あ……私、何かしでかしたのでしょうか……」
そんな状態のフロランスに責任を感じたのか、伏目になりそう呟いた。自分としては、今出来ることを精一杯したつもりではあったのだが、どうやら違ったようだ。きっとそれが原因でフロランスの容体が悪化したのだろう。
その結論に至ったアーチボルトは、ならばと看病するべく傍へ行こうとして、レオノールに止められた。
「アーチーが今のフロランスに触るのはダメ」
「な……どうしてですか、レオノール様」
「もしそうしたいならちゃんと責任を取る覚悟をすべき」
「覚悟……ですか。私はいつでも、犯した罪を償い贖う覚悟があります!」
「そっちの覚悟じゃない。男が女に対して責任を負う覚悟」
「え……と、それはどういう……」
絶妙なところで鈍感力を発揮するアーチボルトである。その反応を見たレオノールは、恐らく生まれて初めてであろうクソデカ溜息を吐いた。
確かにナディも――ひいては魔王妃も殊の外、そりゃあもう引くほど鈍感だが、どうしてこうも要らんところだけ似るのだろう。つくづくそう思うレオノールであった。
……そういえば、魔王もその気がある。なるほど、これは【血統】の成せる【業】か。【業】と読んだ方が良いかもだが。
「迂遠に言っても伝わらないからはっきり言う。フロランス姉はアーチーを真剣に愛している。これは判っている筈」
「……はい、それは知っております。ですがそれとこれとは違うのでは――」
「違わない。フロランス姉はアーチーと添い遂げても良いという覚悟がある。そしてそれが意味することもちゃんと理解している」
「え……と、つまり……?」
「ぶっちゃけるとフロランス姉はアーチーを性的対象として見てる。つまりえちちしたい。そんな相手に耳元で囁かれたら色々がイロイロしちゃう。あとアーチーの声は無駄にセクシーでイケボ。例えるならスワベさんかツダケンもしくはうめめ。よってアーチー大好きフロランス姉は声だけでアレコレになっちゃう」
「………………え、と……ちょっと例えが判らないのですが……」
「レオのメタ発言は取り敢えずどうでも良い。つまりフロランス姉を娶る覚悟がないなら関わるべきじゃない」
「いえ、でも、待って下さいレオノール様。そもそもの前提がおかしいです。私は家妖精なのですよ。なのに、添い遂げるということが何を意味するのか、きっとフロランス嬢は分かっていません」
「アーチーこそフロランス姉を判っていない。あと恋する乙女を舐め過ぎ。ついでにファルギエール家の血統を甘く見ている」
「……確かに、私はフロランス嬢の考えを理解出来ていません。ですが、私と添い遂げるということは、ヒトであることを捨てて魂魄だけの存在となり、永遠に存在しなければならないということなのですよ。そんな残酷な選択、させるわけにはいきません」
「だからそうじゃない。もっとシンプル。実はムッツリなアーチーがフロランス姉の痴態を見ているのは知っている。つまりアーチー自身もフロランス姉とえちちしたい筈。それにファルギエール家の人々は思い込んだら一直線。その結果がどうなろうと後悔しない潔い家門。だからフロランス姉は既に覚悟完了している」
「……しかし、それでも、私は……」
「今じゃなくても後でじっくり考えると良い。それと一人で色々とイロイロしてるフロランス姉を覗くのはほどほどにすべき。そうするくらいなら正々堂々襲うのを推奨する」
そんな真剣なんだか違うのか良く判らない会話をする二人であった。
ちなみにこのとき、アーチボルトは気付いていなかったがレオノールはしっかり気付いていた。途中から――具体的にはフロランスがアーチボルトと性的関係になりたがっているとレオノールに暴露された辺りから、そのフロランスがそれをしっかり聞いていることに。
判っているのに言っちゃうレオノールも大概である。まぁ、背中を押すという意味も有ったのだろうが。
で。そんな暴露をド直球でされちゃったフロランスはというと、羞恥に耐え切れずモゾモゾと悶絶していた。ついでに、せっかく無かったことにして貰った筈の色々がまたしてもイロイロしちゃってたりする。それがちょっとクセになりそうで、新たな扉を開けそうになってもいた。
フロランスとアーチボルトの痴話的アレコレをしている間にも、馬車は高速で【交易都市グレンゴイン】へと疾走して行く。
そして遂に、都市の中央にある城塞の尖塔が見えた。
「目視完了! よっしゃ行くわよ!」
車中で繰り広げられていた色々なイロイロに気付いていないナディは、御者台で手綱を握りながらそう言い、獰猛な笑みを浮かべた。それを至近距離で見ちゃったガエル氏は盛大にドン引きしていたが。
「ええええ!? 行くって、どうするつもりなんですか!?」
都市へと馬車を疾走させ、そして停まる気配を一切みせないナディに訊くガエル氏。それに、そりゃあもう良い笑みを浮かべ、
「このまま突貫するわ!」
この場では絶対に聞きたくないであろう台詞を、口の端を吊り上げて「ニカッ」と白い歯を光らせた上で、イケメンに潔く言い切った。
「うえええええええ!? ちょい待てぃ! これはただの馬車で戦車じゃないんだぞ! 突貫したらぶっ壊れるわ判ってんのか!?」
そうして常識的に停まるように、思い止まるようにガエル氏が絶叫するのだが、そんなのに耳を貸すナディではない。
都市に急接近し、そしてそれを囲むように数え切れないほどの魔物が密集しているのが見えた。
「おうおう、居るわ居るわウジャウジャと!」
不敵に嗤うナディ。そして隣では訴えを全然聞いてくれないとガエル氏が頭を抱えて半泣きで絶叫する。
「【リバイヴ】【バイタリティ・アクティベーション】【バイタリティ・メインテイン】【デュレーション・ホウルリカヴァリー】【セーフ・コンディション】【マキシマイズ・ブーステッド・ホウルアビリティ】【マキシマイズ・ブーステッド・フィジカル】【マキシマイズ・ホウルリフレクション】【アブソリュート・ホウルリジェクション】【エアリアル・フォーム】【ホロウ・ブレイド】【ピアッシング・ウィンド】【ブレイヴ】」
そんなガエル氏を完全無視して、エンペラー・ブラッドレイ号――正式名称ヴィリバルド号に回復と強化魔法を重ね掛けし、最後に臆さない精神を付与する。
「さあ、エンペラー・ブラッドレイ号。覚悟完了したわよね! ちなみに私は何時でも何処でも常時臨戦! いつ何時、誰の挑戦でも受ける!」
などと闘魂な誰かさんの名言を口走り、手綱をポイっとガエル氏へ渡す。突然そうされて動揺しまくっているガエル氏を他所に、
「【ブーステッド・オブ・ゴッデス】【ゴッデス・ブレッシング】【ゴッデス・フォーム】【エンブレース・オブ・ゴッデス】【マキシマイズ・オブ・エフィック】【エクステンション・オブ・エフィック】【ソーサリー・イクステンシヴ】【ブーステッド・ホウルアビリティ】【デュレーション・ホウルリカヴァリー】【セーフ・コンディション】【リジェネレーション】【デュレーション・キュアディジーズ】【マキシマイズ・バイタリティ・アクティベーション】【バイタリティ・メインテイン】【ハードアーム】【マキシマイズ・ソーサリー・ブースト】【アタック・ペネトレイト】【ソーサリー・ペネトレイト】【マキシマイズ・プロテクト】【マキシマイズ・ホウルレジスト】【マキシマイズ・ホウルリフレクション】【アブソリュート・ホウルリジェクション】【ディメンション・ウォール】【ミラー】【ブラー】【ヒドゥン】【サプレッション】【ファスト・ムーヴ】【イレイズ・レジスト】【イレイズ・オブ・オシレーション】【エビエイション】【センス・マナ】【センス・イービル】【センス・ホスリティ】【センス・エネミー】【センス・オーガニズム】【センス・インオーガニック】【センス・ライ】【サーチ】【ディテクト】【シーク】【アナライズ】【サンカント・ソール】【ソーサリー・リバーブ】【ディメンション・サークル】【ターム・オブ・ソーサリーアクティベート】【フィクスト・ノヴァ】【ディレイ・オブ・ソーサリーアクティベート】【フレイム・ヴォルケーノ】」
固有魔法を発動させた上にありったけの強化魔法と、条件発動と遅延発動魔法を重ね掛けする。そして更に、その背に四色の刃の翼が展開され、羽撃きながら飛び上がる。
ちなみに魔法で飛んでいるため羽撃く必要は一切ないのだが、どうあってもそれは譲れないらしい。
その方が、格好良いから!
「さて、エンペラー・ブラッドレイ号。どちらが多く屠れるか、勝負よ!」
並走するように並んで飛行しながら挑発するナディへ、流れる魔物由来の血が騒ぐのか嬉しそうに嘶いたエンペラー・ブラッドレイ号――正式名称以下略は、都市を囲んでいる無数の魔物へと突貫した。
「お姉ちゃんだけズルい。レオも混ざる」
そう言いつつ、窓からひょいと飛び出し屋根に立つレオノール。ちなみにナディと同じようにバフ済みだ。
「ちょ、お待ちなさいなレオノール! 危ないですわ! それとガエル! 早く馬車を停めなさい!」
「いや停まらないし止まらないないんですよ! こっちがなんとして欲しいです――のわーーーー!?」
隙間なく埋め尽くされた魔物の集団が目前に迫り、思わず目を閉じるガエル氏。その脳裏に、最愛の妻と愛娘の姿が浮かぶ。
――ああ、これが走馬灯か……。
などと物思いに耽るが、来るべき衝撃も命を落とすであろう激痛もなく、訝しんで恐る恐る目を開けたガエル氏の視界に、信じ難い光景が飛び込んで来た。
馬車を引きながら高速で疾走する、風を纏ったヴィリバルド号が魔物の群れをものともせずに吹き飛ばし、そればかりではなく切り刻む。
「【ミラー】『【ソーサリー・リバーブ】【マルチプル】【カラント・ソール】【コンバージェン・レイ】』」
更に馬車の屋根から大小無数の光線が絶え間なく走り、魔物を爆散させている。
そして極め付けは――
「あはははははははは! 楽しいねぇ!!」
獰猛に笑いながら、両手にそれぞれ炎と氷を纏った短剣? を持ち、背に展開している四色四十八枚もの刃の翼を縦横無尽に走らせ斬り刻む。
そればかりではなく、追随するように蒼白の火球がその身の周囲に絶え間なく展開され、触れる魔物全てを灰も残さず消滅させる。
更に通り過ぎた跡の斜め後方から次々と極大の火柱が噴き上がり、其処にいる魔物を根刮ぎ殲滅して行った。
それは、その姿は、とてもじゃないが成人したての少女とは到底思えない。そしてちょっと良い子には見せられないほど凄惨でもある。
そうして吹き飛ばされ、爆散し、切り刻まれた魔物が次々と消滅して、そして色々ドロップする。それを見て改めて、これは迷宮氾濫なんだなーと現実逃避気味にしみじみ思うガエル氏だった。
ただそのドロップ品が、落ちてはすぐに消えるという謎現象が起きているが。
ちなみに今回氾濫したのは【貪食曠野】という迷宮で、ポップするのはオークという強靭な肉体と膂力の魔物だ。あと豚面ではない。
推奨ランクは浅層で最低【銀級】以上。深層ともなれば【真銀級】でもレイドパーティ推奨な高ランク迷宮である。
階層型から始まり領域型になる特殊迷宮で、最深部は樫の木の森となっていてオークの大規模な集落が点在する厄介な迷宮だ。
ドロップするのは魔結晶と食肉、そして各種質の良い武器や防具が落ちることもあり、深層に行くほど美味しいお肉や武器防具、そしてセット装備がレアドロすることもある。よってナディの目の色が変わるのも、さもありなんといったところだ。
そんな災害のような暴風のような蹂躙劇は当然城壁の上から目視出来、其処に喰い付かせないように飛び道具や煮油を浴びせている兵士や冒険者たちからも丸見えであった。
その正体不明な、敵か味方か不明な何かが突然出現したことで軽く混乱したのだが、魔物の大群をぶった斬るように駆け抜け、ドリフトしながら方向を変えて更に蹂躙している馬車に刻印されてあるファルギエールの家紋を目敏く見付けた兵士がそれを指揮官に伝えたことで、歓声が上がった。
「ファルギエールが、ファルギエール侯爵家から援軍が来たぞーーーーーー!」
そしてその場にいる、城壁外を埋め尽くすほどの魔物に絶望し心が折れ掛けていた全ての人々が、その僅かな希望に奮い立ち、鬨の声が上がる。
そう、ファルギエール家は恐竜に玉乗りを仕込みたくなるほど【超】な武闘派で有名なのだから。
だがいくら【超】であっても、ほぼ全力で失踪して来たため既に限界だった。主にヴィルバルド号が。
それを察したナディが、見るからに減速し始めている馬車に並んで飛び、その屋根にいるレオノールとアイコンタクトをして互いに頷き合う。
「ガエル! そろそろ時間よ。進路を城壁に! 全速前進!」
手綱を握ってはいるもののあまりの展開に思考が追い付かず、何も出来ずにただ呆然としているガエル氏にナディの檄が飛ぶ。それで我に返り、だがそんな無茶な指示に困惑する。
そりゃそうだろう。この場から城壁へ進路を取ったとしてもあるのは城門ではなくただの壁だ。ぶつかって大惨事になる未来しか見えない。
「あともうひと踏ん張りよエンペラー・ブラッドレイ号!」
そうしてビビりまくっているガエル氏を他所に、完全に息が上がっているヴィルバルド号に声を掛ける。そして名前はあくまでもそれであるらしい。
「これが終わったら乳製品不使用の特大バケットに美味しいお野菜をたんまり挟んだ特性バケットサンドを三十本作ってあげる」
それを聞いた瞬間、ヴィルバルド号の双眸がギラリと光り鋭くなる。そして最後の力を振り絞るように、嘶き、城壁へと全速で直進する。
その馬車の屋根にいるレオノールが、
「【マキシマイズ・ソーサリー・ブースト】【マキシマイズ・マギエクステント】【ディメンション・サークル】【グラント・オブ・ソーサリーディレクション】【フォトン・リージョン】【カタストロフ・レイ】」
それに合わせて魔法を展開し、前方へ直径3メートルもの極大破壊光線を放つ。それは射線上の魔物をことごとく消し飛ばし、そのまま城壁に突き刺さらずに垂直に曲がって上昇し、そのまま空へと消えて行く。
そんなおおよそ有り得ない挙動を見せたその魔法に、当初怯えていた城壁にいる兵士たちは、消えたそれの先を呆然と見上げていた。
「【マキシマイズ・ソーサリー・ブースト】【マキシマイズ・マギエクステント】【グランド・リージョン】【ギガ・グランド・オペレート】【クリエイト・ピアー】【クリエイト・ウェイ】」
そうして出来上がったその空白地帯の大地が脈動し隆起する。それが橋脚となり道が出来、城壁へと繋がった。
その緩やかな登り坂を、荒い息を吐くヴィルバルド号が減速しながらも登り始める。
それを魔物が黙って見ている筈もなく、その橋から城壁内を目指して殺到し始めた。
「そりゃそうだ。知性があったらそうなるよね。でも残念。【ディスアセンブリィ】」
出来上がった道に殺到するならそれを無くせばいいじゃないとばかりに、ナディは馬車が通り過ぎた傍からそれを壊して行く。
「もう少しよ、根性見せなさい!【ミティゲート・オブ・グラヴィティ】」
明らかに速度が落ちる馬車に、重力軽減の魔法を掛ける。それにより負担が軽減したヴィリバルド号が、力強く踏み出し速度を上げた。
ちなみに、どうして今まで馬車にそれを掛けなかったのかというと、質量兵器としての役割もあったからだ。
あと疲労を回復させる魔法は、あまりに困憊していると効果が薄くなるし、場合によってはその命に関わるのである。
ようは疲れ過ぎていると、エナドリを飲んでも効かないのと同じだ。
そうして橋を登り切り、ヴィリバルド号はそのまま勢い良く城壁を飛び越え、そしてそのまま自由落下し――
「【ゼロ・グラヴィティ】お疲れ様」
地面に激突する前に、その全ての重量を打ち消し軟着地させた。
空から馬車が降って来るという奇跡のような光景を目の当たりにした人々は、それに施された家紋を見て胸を撫で下ろし、その屋根に立つ有り得ないほど美しい上に可愛いというわけの判らない容姿の少女に言葉を失った。
だがそれより、四色に輝く四十八枚もの刃の翼を背に宿し、二刀を携え降り立った少女にまず我が目を疑い、そして全身から立ち昇り空を突く黄金の光を放つ神々しい姿にその目を奪われる。
城壁で防衛していた兵士や冒険者は、目撃していた。
その少女は、蒼白の火焔を伴い刃の翼で魔物を斬り裂き、大地より噴き出す炎を操り蹂躙していた様を。
「おっと、もう一回」
そうして静まり返る人々を尻目に、ナディは再び上空へと舞い上がる。
「【ソーサリー・アクセラレーション】【ソーサリー・リバーブ】【マルチプル】【ディメンション・サークル】【ミーティア・スウォーム】」
全身から魔力を放出させながら魔法を発動し、大小様々な立体魔法陣を高速で展開させる。
それが空へと消えて行き、そして――無数の隕石が城門前に密集している魔物へと降り注いで爆発した。
「裁きの炎……刃の翼……黄金の、熾天使様……」
誰ともなく呟いたその名称が、後にとんでもない二つ名となってしまうのを、この時のナディは知る由もない。というか知りたくもないだろう。
余談だが、車中にいるフロランスとアーチボルトが、激しく揺れた上に自由落下した所為で折り重なるようにぶっ倒れてしまい、挙句それが互いの股間に顔面を突っ込んだよう形になるという突発アクシデントが発生していた。
果たして、どちらにとっての幸運なのかは謎であるが。
ちなみにフロランスが上である。
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