コトハジメ

陽紫葵

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コトハジメ

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大学も4年で卒業し、電気関係の会社に就職した。いくつかの企業が入っているビルでの内勤の仕事だ。
アパートも少しだけ広いところに引っ越した。親が決めたのだけど。
あれから、ずっと、依里さんにも会っていなかったが、就職の報告に、会いに行くことにした。
忙しかったと、噓の言い訳をしたが、
「来てくれて、ありがとう」
と言ってくれた。
それから、数日後の事、仕事終わりに、近くのカフェでお茶をしていた。
ガラス越しに、外の歩いている人並みが見える。
「橙香」
と、私を呼ぶ声がして、見ると、須賀先輩が立ってた。
「いいか、ここ?」
「え、うん」
前の座席に置いていた鞄を慌ててよけた。
「なんだよ、そんな驚いた顔して」
「驚くわよ、急に」
「ごめん。母さんに、そこに就職して、このカフェにいつも寄ってるって聞いたから」
「え、私に会いに来てくれたの?」
「そうだよ、ちょっと話があってな」
「話って?」
「あの家さ、売ることになって」
「え?」
「姉ちゃんの話しただろ?」
「うん」
「なんかさ、経営がうまくいかなかったとかで、あの家を担保にお金借りてたらしい。それも、回らなくなって、破産して・・・」
「あの家、担保に取られちゃうの?」
「そうゆうことだ」
「そんな、酷いよ」
「だよな」
「依里さんはどうするの?」
「しょうがないわね、って、平気な顔して、住むアパート探そうとしてるけど」
「平気なわけない!」
「俺もそう思う」
しばらく無言になり、
「あのさ、母さん、琴も売ろうとしてて」
「そんなのダメだよ、旦那さんの形見なのに」
「そうなんだよ。だからさ、橙香にお願いなんだけど、その琴、買ってくれない?」
「え、でも、私、そんなお金ないし」
「いいんだ。お金は俺が払う。形だけでいいんだ」
「だったら、先輩が買えばいいじゃん」
「いや、それじゃダメなんだ。俺は、琴もやらないし、持ってても、意味がない。橙香だからいいんだよ」
「そうゆうんだったらいいけど」
「俺も、今は、それくらいしか出来ないし、いずれは家もさ」
「そっか」

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