魔王なペットの転生ライフ

花歌

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なんでだよ!

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 翌日。
 体の気だるさが抜けきらないまま、優馬はスマホの機械音に起こされ、目を覚ました。
 半身を起こし、寝ぼけまなこで、自分の体を見おろす。

 昨日の出来事が脳裏に蘇るが、未だ現実味がない。
 とは言え魔力酔いによる気持ちの悪さは抜けきっていないようで、なんとも言えないむかつきが残っている。

 (これが二日酔いってやつなのかな?)

 胸をさすりながら昨日のことを考えようとするが、寝起きで頭が回らない。
 しばらくボーっとパジャマ姿を眺めていたが、スヌーズ機能による再びの機械音で、「はっ」と我に返る。

 スマホの時刻を見ると7時45分。

(不味い。このままでは毎朝の日課である「安らぎの時間」が堪能できない!)
 優馬は考えてもいない思考を止め、慌ててベッドから飛び起きると、1階へと駆け下りた。

 駆け下りて——。


「む!? 今日はいつもよりも遅かったではないか!?」
「——なんでだよ!!?」

 思わずわけのわからないツッコミを入れてしまった。
 リビングの扉を開けると、ソラがケモ耳5歳男児の姿で、両親と談笑しながら朝食をとっていたのだ。
 わけのわからないツッコミを入れてしまうのは仕方がないのではなかろうか?

「優馬、おはよう」
「ゆー君おはよう。朝ごはん食べるよね?」

「おは……い、いやいや、そんなことより何で馴染んでいるの!? え、母さん達も誰かわかってるの!?」
「誰って、ソラ君の事?」

 驚きのあまり、言葉が足らない優馬の問いに、流石は母親。
 優馬の母、 かえではすでに用意していたのか、『チン』とトースターからパンを1枚取り分けながら優馬の疑問に答えてくれた。

 因みに父、和馬 かずまは、楓が話し始めてから早々に、会社へと出かけているが、ソラと楓の話によるとこうだ。


 昨日の夜、優馬の部屋を出たソラは、1階のリビングへと下りた。
 ドアは元々自分でジャンプして開けることができたので、猫の姿でも特に問題はない。

 だが、それはリビングに入った瞬間だった。
 ——ボワン。思わずソラの身体を煙が包み、ソラの姿を変えさせたのだ。

 何故か?
 襲われたのだ。抗い様がない……。いや、決して抗ってはいけない存在。チーズの香りに。

 ソラの鼻腔を擽る芳醇な香り。それは瞬間的に体内の魔力を暴走させるには十分な威力だったに違いない。
 何故ならば。
「生前……いや、前世からか? 我は無類のチーズ好きなのだ!!」
「人の味覚で無ければ存分にチーズを味わえないのだから、仕方がないのよね」
 と何故か楓が捕捉をする形で話してくれた。

 優馬、唖然である。
 

 どうやらリビングには、和馬、楓、妹の美雪みゆきの3人がテレビを見ながら家族団欒なひと時を過ごしていたのだが、その時食べていたチーズの香りにソラは襲われたらしい。

 そもそも昨日、バレたらややこしくなると思い、優馬はソラに人の姿に変身しないように念を押していたのだが……。
 無駄に終わったようだ。


 因みに、目の前で猫が裸のケモ耳5歳児男子にボワンと姿を変える所を目撃した優馬の家族の反応と言えば……。

「ソラ君!? 猫又になったの!? すごーい!!!」
「ケモノ属性か!? 流石ウチのソラだ!!」
「キャァァーーーー!!!!!!!! 可愛いぃぃぃぃーーー!!!!!!!」


(うん、大丈夫かウチの家族は? 母よ、猫又って確か妖怪だよね? 父よ、何が流石なんだ?? そして妹よ、可愛いで済ますな)

 その後優馬に説明したように、元異世界魔王やら、転生やらと話まで済ませた上で、家族の団欒の一部へと加わった。
 全く疑われることなく受け入れられ、芳醇なチーズの香りを堪能したのだ。
 今朝には、当たり前のように同じテーブルで朝食を囲み、再びの団欒。どちらもたいしたタマである。


「それで、ゆー君……」
 一通り話し終えた楓。一呼吸入れると一転。不意に優馬へとまじめな表情を向ける。
 ゴクリと唾を飲み込み、
「魔本はどこにあるの!? 色は!?」
「無いから!!」

「えっ!? あ、それじゃー侍女悪魔の――」
「いないから」

「それじゃ、それじゃ、御供のドラキュラと狼男とフランケンは――」
「お母さん流石にわざと言っているよね……? 最後のネタは古いヤツか知らないけど分かんないし」
「てへ」

「うっ」(流石に自分の母親のテヘペロはキツイから!)
 自分の頭を軽く小突き、舌を出す楓の姿に、二日酔いのムカムカが若干強くなった優馬であった。



「あれ、お兄ちゃんまだ支度してなかったの?」

 楓とのやり取りが一区切りつくと、「ふぁ~ぁ」とあくびを一発。伸びをしながら妹の美雪が起きてくる。
 何やら時計を確認し小首をかしげていたが、兄に対する疑問も一瞬。

「ソラく~~~~ん! 今日も可愛いですな~~~~」
「うん、うん」とソラを見つけるなり凭れ掛かるように抱き着く。
 猫状態の時よりも、ときめいて見えるのは気のせいに違いない。


 そんな美雪に対し思うところはあるものの、優馬は「ハッ」と現実に戻り、時計を確認。どうやら冷汗が止まらなくなったようだ。

 まだ着替えも済ませていない状態で、時刻はすでに8時30分を過ぎようとしていた。

(——不味い!)

 慌てる優馬。3年の遅刻者には、部員全員にアイスを奢らなければいけないという暗黙の掟が存在する。中学生にはかなり痛い出費だ。急ぎ制服に着替えようとし、

「優馬、我の手の元へ来るのだ」
「ごめん、急いでいるから後に——」
 ソラに呼び止められ、ピタリとソラの手が優馬の体に触れた。
 瞬間。

「案ずるな、すぐに済む」
(――!?)
 光が一瞬体を包む。

「肉体強化の魔法をかけたのだ。今ならば走るだけでも自転車とやらと同じくらいの速度は出るはずだ。
 効果は今から約20分といったところか」

「――!? ありがとうソラ!」

 優馬の脳裏に昨日の魔法が過る。実際、体が羽のように軽くなっているようにも感じる。優馬はソラに感謝すると、急ぎ支度へ。
 
 何やら楓と美雪が、ソラと無詠唱がどうだとか、優馬はまだ使えないとか色々聞こえてくるが、とりあえず今は無視。
 安らぎの時間が取れなくなってしまったが、支度を終えてからサクラに抱き着き多少なりとも心の充電をすると、学校へと急ぐのだった。





「ふむ……」
 優馬の後ろ姿を見送るなりソラは一つため息を付く。
 優馬の魔力酔が思いのほか強く出ていたからだ。そのことで優馬の身が危うくなることでもないのだが、ソラにとっては面倒なことではあった。

 魔力酔いの原因は急激な魔力の負荷と、それに伴う乱れだ。
 魔力が様々な方向から流れぶつかり合っており、乱れた魔力の流れを正常に戻すには、定期的に流れを整える必要がる。

 実を言うと優馬が寝ている間に一度魔力の流れを整えたのだが、起きてきた段階ですでに乱れていた。
 
 とりあえず強化魔法を行使することにより、魔力の流れを強制的に一定方向へ流れるよう導いたのだが、それも半日もしないうちに魔力の流れは乱れるだろう。
 しばらくは定期的に流れを整えてやる必要があるのだ。

「ありがとうソラ君。ごめんね。」
 ソラの様子に楓が苦笑しつつも礼を述べる。ソラのため息の理由を知っているからこその礼であり……楓達もまた、魔力酔いの原因を作ってしまった一人であるからこその謝罪だった。
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